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(三) クッキー

(三)クッキー


 休憩時間が終わった。隕石の雨は止んでいたので、

 俺、エルザ、ミレイはすぐに採掘作業を再開した。


 ギュィィィン!

 

 ドリルアームが唸り声をあげて小惑星に穴を開けている。

 こうしてゴーレムに乗って仕事をしているほうが楽だ。

 あれこれと考えなくて済むし。


 俺たち三人は七時間ほど採掘を続けた。

 作業は順調に進み、たくさんの鉱物を収穫できた。

 貨物室はもう満杯。大量のコンテナが天井まで山積みだ。

 中には貴金属のもとがギッシリと詰まっている。


 金、銀、プラチナ、ウランやプルトニウムまである。

 その総重量はおよそ五百トン。

 もちろん鉱物には熱的・化学的な処理をして精錬するから

 目方はたいぶ減るんだけど、それでも莫大な量のお宝だ。


 コイツを全部売りさばいたら、 いったい何億アースに

 なるんだろうか? とにかく途方もない金額になりそうだ。

 ちょっとぐらい盗んでもいいよね? だめかな?

 山積みのコンテナを眺めながら、ついヨコシマなことを

 考えてしまった。


 ま、まあ……とにかくこれで仕事は完了。

 あとはコイツを月に持ち帰って、この仕事はおしまい。

 そんでもって月面都市ムーンシティにある

 ティルトウェイト月面支社で報酬を受け取って、

 宇宙鉄道888号に乗って東京駅まで帰る予定だ。


 エアロックを通ってからゴーレム格納庫に戻った。

 ヘルメットを外し、パイロットスーツを脱ぐ。

 ふと格納庫の片隅にある銀色の球体が目に付いた。

 緊急脱出用ポッドである。

 直径一五〇センチの、まんまるのマシンだ。

 緊急用ハッチのそばに六つ並んでいる。

 表面は鏡のようにピカピカで、なんだか美術館に

 置いてあるオブジェみたいでカッコいい。

 ぶっちゃけ推進装置つきの冷凍カプセルみたいなモンかな?

 使う機会なんてメッタに無いんだけどね。

 

 俺は自室に向かった。

 階段を登って上層に行き、長い通路を歩く。

 通路の先、俺の部屋の前に誰か居る……課長だった。


 赤髪ロングの美女と目が合う。

 うう、気まずい……あんなことがあったばかりだ。

 なんて言ったらいいんだろう。

 でもココで背を向けて引き返すわけにもいかないし。 

 意を決して課長のそばに歩み寄った。 


「あの」


「あの」


 異口同音、俺も課長も第一声がカブってしまった。


「課長、その……先ほどは」

 

「わ、私、クッキー焼いてみたの」

 とつぜん課長は大きな声を出して、ポケットから

 小さな箱を取り出した。ピンク色のリボンが付いてる。


「べ、べつにあなたのタメに焼いたワケじゃないんだから……」


 課長は恥ずかしそうに俯きながら、箱を差し出してくる。


「あ、ありがとうございます」

 俺はドキドキしながらクッキーを受け取った。


 課長は背を向けて、小走りで自室に引っ込んでしまった。

 

 心臓がバクバクして、しばらくその場を動けなかった。

 これだ、こういう展開を俺は期待していたんだ。

 このまえみたいなエロゲー的なヤツじゃなくて

 こういう健全な青春ラブコメ的な展開を。


 箱をコソコソとポケットにしまった、その時だった!


「ヒロシィィィ!」


 突然、背後から誰かが襲ってきた。

 俺の首に、腕がからみつく。チョークスリーパー?

 微かな香水の匂い、そして背中に柔らかな胸の感触を感じる。

 こんなマネをするのは……元軍人のアノ人だけだ。

 

「あなたのタメに焼いたワケじゃないんだから! だってよー!」


 エルザさんだ! エルザさんが俺の首を絞めている。

 聞いてたのか? いまの会話を? それともスゴい地獄耳?


「よかったなー! この色男!」


「ぐ、ぐるじぃッ」


 でもオッパイが背中に当たって興奮気味の俺。

 苦しいけどシアワセ……って俺ヘンタイか。

 エルザさんは、チョークスリーパーを解いた。

 ゲホゲホとせき込む俺の背中をバシバシたたく。

 やっぱこのヒト元軍人だ! 体育会系だ! 脳筋女だ!


「盗み聞きなんて趣味が悪いですよ、エルザさん」

 

「だって聞こえちゃったんだから、しょうがないだろー!

 で、いつヤルんだ?」


「えっ、やるって何を……」


「はぁ? 男と女がヤルことって言ったらアレしかないだろ?」

  

 俺は何も言えなかった。


「そうだ、イイこと思い付いた」

 エルザさんは何かひらめいたようにニヤリと笑った。

両目が怪しく光る。


「エ、エルザさん……?」


 イヤな予感。彼女はいきなり俺を担ぎ上げた。

 すごい怪力だ。もがいたが脱出できない!

 エルザの部屋に強制連行された俺はベットに

 ポイッと放り出された。


「課長とヤルまえに、アタシと特訓だ」

 腕組みしながらエルザは俺を見下ろした。


「オンナを満足させる方法を、おまえに叩き込んでやるッ!」


 そう言いながらエルザは作業着を脱ぎ始めた。

 筋肉質なボディから怪しげなオーラが立ち上り、

 双眸には情念の炎が揺らいでいる。だめだ、ヤラれる!

 

 ヒロシはにげだした!        

 しかし まわりこまれてしまった! 


 エルザのこうげき! つうこんのいちげきだった。

 腹パンされて、うずくまる俺。

 そのあとも何発か殴られて、服をはぎ取られた。


「ぐへへ、おとなしくしろ兄弟」


 エルザはどこからともなくロープを取り出し、

 俺の手足をベットに縛り付けた。


 (中略) 


 俺は天井のシミの数をずっと数えていたが、

 やがて精魂が尽き果て、気絶した。


 二時間後、淫魔サキュバスの陵辱調教から解放された俺は、

 よろよろとした足取りで部屋に戻った。

 酷い目にあった。香水の匂いと汗の臭いが身体に染み付いて

 いたのでシャワーを浴びた。

 

 ベットに戻った俺は課長から貰った箱を開けた。

 中にはちょっと焦げたハート型のクッキーが四つ。

 一口食べた……ぜんぜん甘くない、むしろ苦い。

 これが青春の味か。

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