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(一) 星を掘るもの

★連載SFラノベ「鉱物資源運搬船」




鉱物資源運搬船「カシナート号」の船内マップ


挿絵(By みてみん)


登場人物


ヒロシ・マツナガ

期間従業員、採掘ロボのオペレーター


セリーヌ・ロッソ

ティルトウェイト社の社員、資源開発課の係長

従業員の監視役、現場監督、最高責任者


エルザ・ハートマン

期間従業員、採掘ロボのオペレーター


ミレイ・キリエ

期間従業員、採掘ロボのオペレーター


アキオ・アサクラ

期間従業員、カシナート号の副操縦士


アレクサンドル・ゴードン

期間従業員、雇われ船長、操縦士、機関士 

船長とは名ばかりの雑用係


BAL9001

通称バル、貨物船カシナート号に搭載された人工知能

HAL9000とは無関係









(一)星を掘るもの



「くそっ、なんて堅い岩盤なんだ!」


 コクピットの中で、俺は思わず叫んでしまった。 

 ゴーレムのドリルアームが轟音を立てながら、小惑星の地面に

 穴を開けている。


 ゴーレムと言っても異世界ラノベに出てくるようなモンスターでは

 ない。全身が黄色く塗られた身長四メートルほどの掘削作業用の

 二足歩行ロボットである。


 ビール樽みたいな身体に手足が生えてて、頭の部分がコクピットに

 なってて、半球型のグラスキャノピーが付いてる。


 ぶっちゃけ、あんまりカッコ良くない。

 まあ作業用ロボだから、しょうがないよね。


 おっと自己紹介が遅れたぜ。俺の名はヒロシ。

 ゴーレムを操縦して鉱物を採掘する仕事をしている。


 今、土星のリングからちょっと離れたところにある小惑星

 「エディ5150」という巨大な岩石のカタマリにへばりついて、

 金、銀、プラチナなどの貴金属が含まれている鉱物を掘っている。

 ここに滞在し、作業を始めてからすでに百七十時間(一週間)が

 過ぎていた。


 この小惑星、遠くから見るとただの石っころにしか見えないし

 大きさは月の十分の一ぐらいなんだけど、埋蔵されている貴金属の

 量は莫大で、まさに「宝島」ってカンジ。


 この一週間で金銀財宝を大量に掘り当ててしまった。

 大儲けだぜ! 帰還したら会社からボーナスが出るかも。

 はるばる土星までやってきた甲斐があったってもんだ。


 俺の百メートルぐらい横で、同僚のエルザ、ミレイが乗っている

 ゴーレムが二機いて、やはり同じように採掘作業をしている。


 しばらくすると一機のゴーレムが貨物船カシナート号から

 出てきて、俺のそばにフラフラと歩いてきた。 

 

「ヒロシくん」

 無線からキレイな声が聞こえてきた。セリーヌ・ロッソ課長。

 ティルトウェイト社の正社員で、俺たち期間従業員を監視する

 立場の人だ。いわゆる現場監督・最高責任者である。


「課長? ゴーレムの操縦は出来るんですか?」


「ええ、さっき覚えたわ。私も手伝うから採掘を急いでちょうだい」


「了解、気を付けて」


 課長のゴーレムはゆっくりと背を向けて、別の採掘場所へ

 フラフラと歩いていった。まだ操縦に慣れてないようだ。


 巨大な土星と、巨大なリングを背景に、ゴーレムたちが小惑星の

 表面でうごめいている。土星か……ずいぶんと遠くまで来たものだ。


 月面のムーンシティを出発して航行すること千四百時間。

 約一ヶ月の航海を経て、この小惑星までやってきた。

 いやーここまでホント長かった。

(冷凍カプセルの中で寝てたから、アッという間に着いたカンジだけど)


 そんでもって、いま鉱物を堀りまくってる最中ってワケ。

 宇宙空間での仕事というのは、あれこれと危険が多くて大変だ。

 しかも航行と採掘で合計二千時間(約二ヶ月半)も掛かってしまう。

 言ってみれば遠洋漁業みたいなモンだね。

 でも報酬がスゴい。鉱物を掘って月に持ち帰るだけで、

 なんと千万アースも貰える。二、三年は遊んで暮らせる金額だ。

 ぶっちゃけオイシイ仕事である。雇い主のティルトウェイト社は、

 ずいぶんと気前がイイ、太っ腹だ!

 高給なので応募者が殺到したらしいけど、俺は運良くこの仕事に

 ありつけた。本当にツイてるぜ。


 ひたすら鉱石を採掘し、背後にいる葉巻型の貨物船カシナート号の

 貨物室へと運ぶ。

 この単調な作業を四時間ほど続けたところで、急に無線が入った。


「隕石群、接近! みんな急いで船に戻れ!」

 

 副操縦士のアキオが、カシナート号の操縦室から連絡してきた。


 予定より作業が遅れていたので、もう少し採取しておきたかったけど

 しょうがない。抱えていた鉱石を捨てて貨物船の方へと向かった。


 俺を含めた四機のゴーレムは急いで船に戻りはじめる。

 エルザ機、ミレイ機が先に貨物室に入り込んでゆく。


 ふと、後ろを振り返ると、帰還が遅れているゴーレムが一体……

 課長機だ!


「課長! 急いで下さい!」

 俺は叫んだ。やはりゴーレムの操縦になれていないのだろうか、

 歩き方がおぼつかない。

 酔っぱらったサラリーマンみたいにフラフラしている。


 ヤバい、隕石が落ちてきた!

 テニスボールぐらいの大きさなんだけど、それでも地面に落下した

 とき衝撃はすさまじい。

 地雷でも爆発したかのように地面がえぐられ 粉塵が上がる。

 そんなのが何十個も落ちてきた。

 これじゃまるで戦場だ! 絨毯爆撃じゅうたんばくげきだ!


 課長のゴーレムにちょっと大きめの隕石が直撃した。

 右の脚部に被弾。バランスを崩しドーンと倒れた。


「課長!」


 あわてて課長に駆け寄った。仰向けになって倒れている。

 右足をやられて立ち上がれないようだ。

 

「今、助けます」


 ブッピガン! ガシャ! 


 俺は腕部に装着していたドリルアームをパージした。

 ドリルが外れ、ペンチのような手が露出する。


 課長のゴーレムのそばに寄って、両腕をガシッと掴んでズルズルと

 引きずりながら、カシナート号へ向けてノシノシと進んだ。


「だめ、ヒロシくん、逃げて!」


「いやです、放ってはおけません」


 身長四メートルの作業用ロボ、ゴーレム。

 重量三トン。コイツを引っ張りながら歩くのはかなり大変だ。

 貨物船まであと五十メートル。

 俺のゴーレムの手足のモーターが悲鳴を上げる。


「ヒロシ、急げ!」

 アキオが無線で叫んだ。


「分かってるよ!」


 隕石が容赦なく襲ってくる。轟音と粉塵が何度も上がる。

 飛び散った破片がコクピットのグラスキャノピーに当たって

 ヒビが入ってヤバイ!

 

 貨物船まであと二十メートル。隕石の雨はさらに激しくなった。


「このままじゃ、ふたりとも死んじゃうわ! 

 あなただけでも逃げなさい」


「嫌です」


「命令よ!」


「そんな命令は聞けません!」


 貨物室まであと五メートル。あと少しだ。

 飛んできた破片が当たって二体のゴーレムは傷だらけ。

 だがどうにかカシナート号に戻ることができた。

 貨物用ハッチから船内に入り込む。


「アキオ、全機、貨物室に入った」


「了解、ハッチ閉じる! TAフィールド展開!」


 周囲に超電磁力の力場を発生させることで船体を保護するバリアが

 形成されてゆく……って貨物室の中からじゃ見えないんだけどね。

 以前、外から見たことあるけど、でっかいシャボン玉に包まれた

 みたいでスゲーキレイなんだぜ? 

 たいていの宇宙船には装備されてるんだ。


 俺は課長のゴーレムを引きずって、貨物室からエアロックに入った。

 すでにエルザ機とミレイ機が待機している。

 

 ゴゴゴゴ……ドスーン! 

 貨物室とエアロックを隔てるための気密扉きみつとびら

 ゆっくりと閉まった。


 シューッ!

 エアロックの壁にある換気口から、ものすごい勢いで空気が入って

 きた。


「エアロック、加圧完了。内部気圧1013ヘクトパスカル。

 正常値に戻りました」


 天井のスピーカーから男の声がした。

 この船を制御しているAI(人工知能)の声だ。

 名前は「BAL9001」……俺たちは「バル」って呼んでる。

 

 ゴゴゴゴ……

 今度はエアロックとゴーレム格納庫を隔てている気密扉が開いてゆく。 

 各機、エアロックから格納庫へ移動し、ゴーレムの駐機スペースに

 戻った。


「ふぅ、ヤレヤレだぜ」 


 ヒビ割れたキャノピーを開け、ヘルメットを外して一息付いた。

 ヘルメットって息苦しいんだよね。

 四体のゴーレムのうち、 エルザ機、ミレイ機は無傷。

 課長機は大破。壁に立てかけてある。

 俺の機体はキャノピーが割れ、全身には傷や凹みがあるものの、

 致命傷は無いのでまだ使えそうだ。採掘作業は続行できるだろう。

 

 俺はゴーレムから降りた。エルザ、ミレイ、そして課長も降りてきて

 みんな俺のそばに寄ってきた。

 課長はヘルメットを外し、後ろで束ねていた赤髪をほどく。

 

「あの、ヒロシくん、ありがとう」


「いえ、無事で何よりです課長」


 エルザも寄ってきた。浅黒い顔に笑みを浮かべている。


「ヒロシ、アンタたいしたモンだよ

 あんな状況で助けに行くなんてなー」


 エルザは右拳を出して俺の胸を小突いた。

 身長180センチの大柄な金髪碧眼のお姉さんだ。

 元軍人だったそうで、引き締まった身体をしている。


「フツーは見捨てるぜ? 死んだら元も子もないからなー」


「見捨てたら、きっと後悔すると思って」


「ふーん、後悔ねぇ……それで助けたのか?」


「……」


 俺は何も言えず、ちらりと課長の方を見た。

 目が開うと、彼女は恥ずかしそうに俯いてしまった。

 その仕草にドキッとして、あわてて目をそらす。

 セリーヌ・ロッソ課長はまだ若い。

 赤髪ロング、白い肌、ファッションモデルのようにスラリとした体型。

 絵に描いたような美人だ。


「ああ、スマンスマン、野暮なこと聞いちまった」

 エルザはニヤリと笑うと、傍らに居る少女、ミレイのほうを見た。


「ラブコメの波動を感知……」


 ミレイは俺と課長を交互に見てからボソッと呟いた。

 いつも無表情でボーッとしている。

 亜麻色あまいろの髪でショートカット、小柄で華奢なせいか、

 なんだか子供っぽいカンジがする。一応成人女性なんだけどね。


「隕石の雨が止むまで時間が掛かりそうだし、ちょっと早いけど、

メシにしていいか? 課長?」

 エルザがそう言うと、課長はええ、そうしましょうと静かに答えた。


「たしか、アタシとミレイは料理当番だったな。メシの支度するから、

 先に食堂に行ってるぜー」


 エルザはミレイの背を押しながら、あわてて格納庫から退散して

 いった。俺と課長の二人きりになった。心臓がドキドキする。


「あの、ヒロシくん」

 課長が上目遣いで俺を見ている。


「は、はい」


「食事が終わったら、私の……私の部屋に来てくれる?」


「えっ」

 

「話がしたいの、部屋で待ってるから」


 課長は小走りで格納庫から出て行った。


 マジかよ、まさかこんな展開になるとは。

 ぶっちゃけ下心が無かったとは言わない。

 でもこんな簡単に恋愛フラグが立ってしまうなんて……

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