表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界を繋ぐお仕事 〜非日常へ編〜  作者: na-ho
ちのあじはこいのめいそう
97/159

93 圧力

 ◯ 93 圧力


 良い機会なので、ここに来る前に気になっていた事を聞いてみた。理解出来るかどうかは別として……。夢の中の時間についてだ。どうやら、バラバラと言うのが正しいという解答だった。見る者の感覚に左右されるので、計る事は出来ないと言われた。うーん、難しい。

 夢縁は現実の表層意識にも近く、夢として成り立つギリギリにあるので割と現実の時間にも影響を受けるし、時計塔を中心に次元を置いているので時間の支配があるとか。外の世界と同じ時間の流れという訳でもなく、内にいる人の時間の流れの感覚が同じになると説明された。もちろん、途中でさっぱり分からなくなったのはどうしようもない。とりあえず、時計塔が意外と重要な施設だってことは何となく分かった。

 ついでに、夢縁の総括本部はあの位置には本当には無くて、違う次元として存在していて夢の奥に位置するそうで、時間もまた違った形であると説明された。神界と似た感じなのかもしれない、と勝手に想像しておいた。

 それから、持ち込みの事だ。夢縁は現実の物を持ち込むのも容易いし、持ち込んだ物を持ち出しも出来る。でも、すべて夢縁の中で作り出した物を持ち出すのは難しいのだとか……。物質化がどうたらと説明されたけれど、これまた難しくて訳が分からなかった。どうやら特殊な結界のおかげなようだ。


「ん〜、アキちゃんの今、着ているブレザーも持ち出しは難しいでしょう?」


「そういえば、勝手にこの服になってるけど、どうしてだろう」


「……先にその事に疑問を持つべきだと思うけど、アキだからしょうがないか」


 米神を押さえながら、残念そうな視線を僕に向けてレイがぼそりと言った。


「悲しいわ〜、もうちょっとおしゃれに気を付けるべきよ〜」


 顔を片手で覆いながら嘆く様にそう言い、マリーさんは更に続けた。


「自分の馴染みのある服になってるのよね〜、ブレザーの下にならシャツとスラックスっていう思い込みも入っているわね。しかも毎回同じでも気にしてないし〜」


 なってないと言わんばかりに責められている。


「う……」


 何も言い返せない。夢縁の制服のブレザー以外は学校の制服のままだ。レイの隣で怜佳さんが笑っていた。


「自分の身につける物は、夢縁の中では自分の意識で変えれるから、センスが問われるの」


 怜佳さんにまでそんな事を言われてしまった。


「う……」


 三人に責められて恥ずかしくなってしまった。しかし、おしゃれと言われても……全く思いつかない。


「ファッション研究も必要よ〜」


「う、ん」


 僕はカクリと頭を項垂れると同時に頷いた。


「まあ、反省してるみたいだから、このくらいにしてあげるけど、折角、お洒落出来る環境なのにちっとも活かせてないのは残念すぎるよね」


「そうね〜、まずはそのブレザーに合わせて何通りか考える所からで良いわ、課題よ〜」


「うん……」


 出来るだろうか……。


「ファッション雑誌を見て参考にすればいいわ〜、最初はセンスを磨く所からよ」


「ファッション雑誌……」


「男もセンスを磨いた方がいいのよ〜、今時は」


「うーん、アキにはハードルが高そうだね、似合いそうなブランドを絞ってからの方が良いかもね」


 レイが助けを出してくれているようだ。


「確かにね〜。いいわ、後でいくつか見繕ってあげる〜」


 機嫌良く、マリーさんがニッコリ笑いながらそう言った。何か嫌な予感がする。


「次回、会うのが楽しみね」


 怜佳さんがとどめの一言を口にした。


「プ、プレッシャー!?」


「まずは、現実でもおしゃれをしないと意識も変わらないから〜、そこもフォローしとかないとダメねぇ」


「じゃあ、まずは買い物だね」


「アストリューは独特だけど、中々良い服もあるよ」


「そうなの〜? そっちのファッションも進展してるのね。あたしは今は地球の服を年代問わずに作ってるのよ〜。中々面白いわ〜、やっぱり自分の興味ある事からしか知識は入ってこないのよね〜、ファッションの歴史も、知識もすべてに通じるのよ。地球の事が良く分かるのよ〜。あたしの見解だけどね〜、今の時代は自分らしさを、似合う物を追求する時代に入っているのね、それで服飾業界は流行を作ろうとしているのだけれど、乗る人が昔と比べてすごく減っていっているの……それで多様性とかって言ってるのね〜。でも、実は微妙に流行はあるのよね……手作りの物をプラスするの。そのうち、服も自分で作っちゃうんじゃないかしらと思う位よ〜。始まりはねえ〜、アクセサリー作りから始まって……(中略)」


 マリーさんの話は長かった。湖を半周ちょっと歩いて、最初のボート乗り場まで着いてもまだまだ続いた。怜佳さんがこうなったらマリーさんは止まらないからと、途中でこっそりと耳打ちしてくれた。僕達はマリーさんの話をBGMに紅葉狩りを楽しんだ。綺麗な葉を二、三枚拾って本に挟んで栞にした。これでしばらくは楽しめそうだ。


「あら、栞に……良いわね」


「うん、季節だし合いそうだから」


「そうね、季節を感じるのは良い事だわ。こうやって外を歩くだけでも楽しいわね」


「レイカちゃんは中々外に出ないって、マリーが心配してたよ」


「そうね、最近はそうだったかも。また一緒にお散歩しましょうね」


「そうだね。あれさえ無ければ、良いんだけど」


 レイはそう言ってマリーさんの今や最高潮に達した演説ぶりを見た。確かに……誰か止めた方が、いや、そんな畏れ多い事は出来ないか……。


「……それで、各ブランドはね、まだ迷ってる人かニッチなファンを獲得する事で今は生き残っているのね、自分の似合う服を追求し始めたらやっぱり人とは違う物を着ようとするのよ、だからと言ってフルオーダーは金銭的に難しい人達はどうするかと言ったら、やっぱり冒頭に戻る訳なのよ〜。違いを出すにはそこにたどり着くの〜。それにブランド品は値段が分かっちゃうのもダメなのよ。今はそれをやると嫌みに思う人が増えたのよね、不景気が続くとやっぱり……(中略)」


「それで、今日はこのまま何処まで行くのかな?」


 レイが怜佳さんに聞いていた。今のマリーさんは話しかけるのは難しいから仕方ない。


「このまま歩くと、湖は総括本部の外周の堀に繋がってるから、このまま本部前に行けばいいわ」


「へえ、堀があったんだ」


「気が付いてなかったんだね……」


「え、だって外から見るのはそんなに無かったし……」


 あの大きなお屋敷だよね? 何時も転移で行くから堀には気が付いてなかったけど、何かあるんだろうか。


「これはきっと、見たら驚くよ?」


 怜佳さんに向かってレイがそう言った。


「な、何かあるの?」


 恐る恐る聞いてみた。


「あら、聞いては面白くないと思うわ」


 怜佳さんはくすくす笑って教えてくれなかった。


「その通りだよ、アキ」


「う……」


 二人とも絶対おもしろがってる。


「……細分化されすぎて販売力まで落ちているの、お客はそんなの気にせず我が道を探して進むだけよ〜。そんな訳でファッションの世界でも金銭的には、二極化が進んでいる訳なのよ〜。聞いてるの〜?」


 僕達は勿論という顔を作って頷いた。


「いいわ〜」


 マリーさんはやっと満足したようだ。いつの間にか総括本部前に着いていた。そして確かに僕は驚いた。建物が違う?! 


「ここはどこ?」


「総括本部前だよ」


 笑いを含んだレイの声が返って来た。


「えっと、でも……」


「でも、何?」


 レイの思惑通りなんだと分かっていたが、言うしか無い。


「中の建物が違うよ?」


「違わないよ?」


 間髪入れずに返って来た答えに僕は混乱した。確か、こんな大きな門は無かったはずだし、こんな物々しい警備がされてるなんて知らない。堀の向こうは高い塀に囲まれていて、中は建物の半分以上が隠れていた。


「どうなってるの?」


「まあ、簡単に言えば、本当の外から見るのはアキは初めてってことかな」


「へっ?」


「そうねえ〜、最初に来たときもその次も、直接に総括本部の屋敷前に飛んでるものね〜。分からなくて当たり前ね」


「確かにそうだったわね。前回は神界からの移動だったから、気が付かなかったのね」


 怜佳さんも説明してくれた。そういえば、ちゃんと歩いて来たのは初めてだった、と気が付いたので頷いた。


「さっきも説明したと思うけど、あの建物は総括本部では無いのよ。あれは夢縁の警察よ」


 そんな僕に怜佳さんは、目の前の建物を見て説明してくれた。


「あー、夢の奥で夢縁とはちょっと造りが違う、とか言ってたっけ……」


「そうよ、それよ〜。許可なき者は入れないの。厳重な警備がなされてるのよ〜、結界を守る為にね」


「へえ〜、すごいんだね」


 厳重な警備を見ながら、僕は感心して言った。


「絶対、分かってない方に賭けるよ」


「それは賭けにならないわ〜、だってどう見ても同じ意見だもの」


「うーん、確かに」


 こそこそと何やらレイとマリーさんが話し込んでいたが、すぐにこっちを向いた。警備の人に門の中へと誘導され、いつもの怜佳さんのお屋敷の前に着いた。見知った所に着いてちょっとホッとした。


「それで〜、こうやって総括本部内にセットしても、許可が無いと弾かれるのよ。で、すぐにあそこにあった警察に捕まるって訳ね〜」


「はあ、考えられてるんだね」


「そうよ〜」


「警察が中にいるんじゃ、忍び込む人もいなさそうだね」


「……分かってる?」


 レイが心配そうに聞いて来た。


「……全然」


 僕は空気を読んで、正直に答えた。


「そうだね、ちょっと難しいよね」


 顔にやっぱりと書いてあるレイの顔をみて、申し訳ない気分になった。


「異空間を理解するのは難しいわ」


 怜佳さんはそう言いながら笑っていた。


「まあ、そのうち分かるわ〜。ファイトよ〜」


 マリーさんは慰めてくれた。


「うん……頑張るよ」


 わかる日が来るのかは謎だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ