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世界を繋ぐお仕事 〜非日常へ編〜  作者: na-ho
ちのあじはこいのめいそう
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92 両極

 ◯ 92 両極


 夜はアストリューの家から夢縁へと潜った。そういえば夢の時間は一体どうなっているんだろう……神界と似た感じなのかな? でも何か違うような……気にしても分かりそうにないけど。


「こっちよ〜」


 待ち合わせの東門に付くとすぐにマリーさんが呼んでくれた。今日の講義は一つだけだったのでゆっくり出来そうだ。


「マリーさん、こんにちは。レイ達は?」


「お土産ありがとうね〜、二人とも先に向かってるわ。今日は、ボートにも乗るわよぉ」


 話しながら、歩き出した。


「えっ、そうなんだ。僕、初めて乗るよ」


「そうなの〜? 大丈夫よ、しっかり教えてあげる〜」


 マリーさんが教えてくれるらしい……って、僕が漕ぐんだ、出来るかな? でも、やってみたいかも。


「うん、お願いするよ」


「ところで泳ぎは出来るの?」


「子供の頃にスイミングスクールに通ってたけど……たいして泳げないかな」


 頭を掻きながらそう答えた。学校の授業でもたいして泳いでないから、ヘタになってるけど。脇にテニスコートがあるのが見えた。


「そう、少しは泳げるのね。怜佳ちゃんもレイも泳げないから嫌だって言うのよ。でも、一人泳げるのなら大丈夫ね」


 顎に手を添え一人で何やら納得した顔つきで、頷いていた。ボート乗り場が見えて来た。二人の姿も見えた。


「マリーさん、ボートがひっくり返るようなフラグは立てないで下さい〜」


 ちょっと焦って僕はマリーさんに頼んだ。だたでさえ、最近はついてないんだから、これ以上のトラブルは避けたい。


「大丈夫よ〜、万が一の事も考えとくのが良いのよ」


 そう言って二人に近づいて行き、挨拶した。


「こんにちは、怜佳さん」


 僕も怜佳さんに挨拶をした。


「こんにちは。アキさん、リンゴのジャムをありがとう。アストリューの物はどれも霊力が籠っているのね」


「どういたしまして。えーと、霊力?」


 僕はよく分からなかったので、レイに助けを求めてみた。


「あー、アキは馴染みすぎてあんまり気が付いてないけど、そうだよ。霊泉の世界だからね」


「そうなの、いつか行ってみたいわ」


 怜佳さんは夢見心地な表情で、そう言った。僕達は用意されたボートに乗った。


「良い所だよ。宙翔の家は宿をやってるから、会いに行ってもいいかも」


 僕は怜佳さんにアストリュー行きを進めた。マリーさんがボート漕ぎのお手本を見せてくれた。


「まあ、素敵ね。中々ここからは出られないのだけど……一日くらいなら大丈夫かしら」


 少し考えてから、泊まりに行く算段をつけているようだった。


「そうね〜、こっちで一日なら、向こうでは一週間はゆっくり出来るわ〜」


「そうだったの。お茶会の時にお伺いを立てようかしら」


 怜佳さんが今度の宙翔との席の事を考えていた。


「そうすると良いよ、ボクも泊まったけど良かったよ。和風の宿って感じで」


「いいわね……和装の方が合うかしら」


「宙翔のお父さんはいつも着物姿だよ」


「庭も綺麗だし、露天は落ち着けたよ」


 レイが目を閉じ、思い出しながらそう言った。


「あら〜、あたしが行きたくなって来たわ〜。さあ、アキちゃん交代よ」


 僕はボート漕ぎに挑戦した。ゆっくりと体を前に倒してオールを沈めた。そのまま体を後ろに……お、重い。オール自体がすでに重く感じたのだ、水の抵抗が付けば更に重くなる。


「最初の一漕ぎ目はちょっと重いけど、動き出せばそうでもないわ〜、頑張って〜!」


 マリーさんの応援を聞きながら、力を込めた。途中から腕がぷるぷる震えたが、なんとかゆっくりと進み出した。確かに動き出せば後はそう力を込めなくても進んだ。


「アキちゃんは筋力が相当落ちてるわねぇ、そんなんじゃ将来お腹が出るわよ〜」


「うえぇ!?」


 それは困るよ。多少は鍛えた方が良いみたいだ。


「お腹が出たアキなんてみたくないよ、しっかり鍛えてもらおうかな……」


 レイがぼそっとそんな事を呟いた。


「それはレイも同じじゃないの?」


「それは大丈夫。ボクは太らないから」


 何やらふんぞり返って自慢している。むー、神様だから太らないとかって……。


「……何かずるい」


「ずるくはないわよ〜、それだけ体のエネルギーを動かせるってことなのよ〜。筋肉痛はなぜか防げてないけど……」


 ちらりと二人を見比べながらマリーさんが言った。そのマリーさんの視線をさっと逸らしつつ二人は景色を見る振りをした。そっか、神様も苦手な事はあるんだ。

 ボートの上から見る景色は静かでのんびりしていて赤や、黄色の葉が時折ボートの近くに流れて来た。ボートは向こう岸にあるもう一つの乗り場に着いた。接岸はマリーさんの指示に従いつつした。ちょっと手こずったけどなんとか出来た。このボート漕ぎで明日の僕の筋肉痛はすでに約束された気がする……。


「ふう、意外と運動になるね、ボート漕ぎって」


「そうよ〜、スポーツにもなるくらいだもの」


「そうだったんだ」


「そうね〜、アキちゃんは泳げるんだから、そっちも良いかもしれないわねぇ」


「アストリューにいるなら、潜るのとかも良いかもね」


 レイがちょっと考えてそう言った。


「そうなの?」 


「霊泉に潜ると面白いと思うよ?」


「確かに、面白そうかも……スキューバダイビングかな?」


 潜ると言ったらあの姿を思い浮かべてしまう。


「あら〜、あんなタンクは要らないわよ、アストリューなら魔法でしょ〜」


 マリーさんが間違いを指摘してくれた。


「あ、そっか」


 そういえば、水棲生物が多いのだから、潜れた方が何かと便利かもしれない。テレビなどで時々みる海の中の映像とかも綺麗だし、自分で体験するのはもっと面白そうだ。


「レイは潜った事あるの?」


「勿論あるよ。でも、ボクの場合は泳ぐというより、運んで貰うに近いかな?」


「? 運んでもらう?」


「もう〜、レイちゃんはズボラなんだから……」


「違う力を使ってるって言ってよー」


「言い方次第ねえ、もう〜」


 後で聞いたらどうやら、精霊に頼んで運んで貰っているらしい。……なるほど、それで泳げないのに潜れるのか。確かに精霊に頼むという事は、自分の力ではないかもしれない。でも、その交渉はまた違う力とも言えるのかも……レイらしいやり方だとも思う。マリーさんは自力で何でもしてしまいそうだし、結構やり方は両極端な二人だと森を散策しながらそう思った。僕達の意味不明なやり取りを見ながら、怜佳さんは時折笑っていた。


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