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世界を繋ぐお仕事 〜非日常へ編〜  作者: na-ho
えんをたどればゆめのふち
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85 先駆

 ◯ 85 先駆


 目が覚めるとレイはまだ隣で眠っていて、マリーさんはいなかった。キッチンに向かって階段を降りて行くとマシュさんが朝食を食べていて、マリーさんが仕事に戻ったと伝えてくれた。どうやら、朝食を用意して行ってくれていた。その後、庭に出て植物の状態を見てから、レイの様子を見に行った。


「レイ、起きて……朝ご飯、マリーさんが作ってくれてるから、一緒に食べよう」


「う、んーもう、ちょっと」


「ダメだよ。遅刻しちゃうよ……。今日は菜園班に行く日だし、昨日の事も気になるから行かないと」


「うう、アキ起こしてー、筋肉痛だよ」


「ええっ? 昨夜そんなに回ったの?」


 僕はレイを起こしながら、スリッパを履かせた。


「テニスコートがあったから、やってみたんだよ……」


「そうだったんだ。それは疲れるね、あれって以外ときついって言うし」


「マリーに付き合ったら大変だよ……」


「そっか、霊泉に浸かって疲れを取ると良いよ」


「あー、そこまでが遠いよー」


 階段を降りるのもやっとな感じで動きながら、レイはなんとかテーブルに着いていた。


「なんだ、じじいみたいな動きだな」


 マシュさんがレイに身も蓋もない事を言っている。


「じじいだなんて、酷いよこんな若者を捕まえてっ!」


 レイがちょっと怒ってマシュさんに突っかかった。僕は二人が会話しているのを聞きながら、朝食を並べていた。


「その歩き方はどう見ても杖がいりそうだが」


 あきれ顔でコーヒーを片手にマシュさんが再度似た様な事を言った。


「う、ただの筋肉痛だよ……」


 レイは諦めたのかちょっと小さな声で状態を訴えた。


「昨夜の運動が今日で筋肉痛だから、だから若いんじゃない?」


 僕は助けを出してみた。


「そうか、それは若い証拠だな、良かったな」


 マシュさんもそれには同調してくれたようだ。どうも、事実に忠実なようだ。だた、相手の事は考えないみたいだけど……マシュさんらしいと言えばそうなのかな。


「分かってくれるのはアキだけだよ」


「マリーさんの手作りだよ、食べよう」


 ハーブティーを入れながら、そう言った。


「しばらく人型はとってなかっただろう……動くのに変な力が入ってるのもあるんだろう、少し慣れておけばいい」


「なんだ心配してくれるの? 珍しい」


「まあ、たまにはな……」


 仲直りしたようだ。朝食を食べてから全員で一旦、神殿に向かった。レイは、メレディーナさんに連れられて、どこかの温泉に浸かりに行った。マシュさんはもう一人助手を連れてくる、と言ってどこかへと向かった。僕は菜園班の方に向かった。


「おはようござ……」


 誰もいなかった。みんなどこに行ったんだろう。少し考えて研究班の方に行くと皆がいた。


「ああ、鮎川。来たのか」


「はい、今日はみんなこっちにいたんですね」


「そうだ。昨日のあれはビックリしたぞ。アストリューじゃ珍しいからな、吸血するなんて植物は……」


 ザハーダさんが笑いながらそう言った。


「多分、無かったんじゃないか?」


 ルカード班長が磯田部長に聞いている。


「確か入れてなかったわね。物騒なのは避けてるからね……」


 部長はこっちを見てからすぐに視線を外した。う、物騒なんだろうか……確かにあんまり良いイメージがないかもしれない。ちょっぴり肩身が狭い気分を味わいながら、話を聞いた。

 今の所、魔法研究部と合同で研究が始まった所で、どうなるかはカシガナが成長してからでないとわからないそうだ。種類は僕の植えたソート地方の物を、まずは様子見で植えたそうだ。今日は野生のカシガナも森から採取してきて、魔法研究部の誰かが植えて実験をする予定だ。

 実験は専用の温室の中で行われて、研究室内から眺められる仕様だ。時間の流れも少し早くして成長を早めているらしかった。一週間はつきっきりになると、ザハーダさんはぼやいていた。

 今日の仕事は、魔法研究部との連携の確認をまとめる事だったので、僕にはあまり仕事は無かった。ただ、研究部の人達にもう少し詳しく植えたときの情況を聞きたいと言われたので、その時の事を思い出すように言われた。僕が、スフォラで日付を確認すると、宙翔が家に来た日にカシガナを食べた事を思い出した。

 なので、その事を話した。その際、怪我をしたのを思い出したので伝えておいた。


「なんだ、完全に偶然なんだな」


 ルカード班長が話を聞いて横からそう言った。


「は、い。契約魔法とか知らないですし」


「まあね、素人には難しいはずよ、偶然しか無いわね」


 磯田部長が何か知ってる感じで言った。


「確かにな。部長は他にも契約した生物がいたよな、大丈夫か?」


 ザハーダさんも入ってきた。


「まあね、心配に及ばずよ。契約してるのは妖精とクーガノンよ」


 資料を片付けながら、磯田部長は自慢げにそう言った。


「何だもうニ体もいるのか」


 ザハーダさんが呆れた表情で聞き返した。


「四体よ。どの子もかわいいわよ」


 磯田部長はうっとりとした顔で答えた。


「そんなにいるのか」


 これにはルカード班長も驚いた様子だった。


「でも、植物は初めてなのよね。……それに血を吸われるのはごめんだわ」


「おいおいそれじゃ、契約がうまくいかないだろう。うちの部は契約の経験者は部長だけなんだし」


 ルカード班長が慌てて聞いていたが、


「大丈夫よ、血を吸うのはなしにして貰ったから」


 さらっと、磯田部長にかわされていた。


「なんだ? 自分だけそんな事してたのか」


 ザハーダさんがまたか、といった感じで苦笑いし、磯田部長を諦めの視線で見返していた。


「気は進まなかったけど、ここの固有種として契約できる植物は初めてでしょ?」


 ちょっと肩をすくめながら部長はそう言い、まとめた資料をザハーダさんに渡していた。


「……そういえばアストリュー初か。以外と先駆者だったんだな」


 腕を組んでしみじみといった感じで、ルカード班長がそんな事を言った。


「え、他にいないんですか?」


 ちょっと、意外な気がして質問してみた。


「そうよ、動物や、妖精、精霊とは契約出来てたけど、植物はいなかったはずよ。外からの植物にはあったけど、まだここの植物はそこまでの生命体としては、進化が足りないと思われてたのよ」


 磯田部長が答えてくれた。


「ところがどっこい、新人がやらかしてくれた訳だ」


 ルカード班長がちょっと戯けて言った。


「まあ、進化が確かめられたって事だな。良くやったぞ」


 とザハーダさんが最後にまとめて、褒めてくれた。僕はこの周りの騒動にやっと納得がいった。


「それで、こんなに大騒ぎだったんですね」


「いや、魔法研究部の方が主に騒いでるんだが……なんせ、初めての植物系の契約者が現れたから、他も試してみるべきだって、息巻いてたからな」


 ルカード班長が苦笑いしながら言った。


「うちの部はまあ、そっちの研究も多少はするんだが、どちらかというと市場に繋がる一般向けがメインだからな。魔法生物の取扱は少し特殊な部類になるし、一般で扱うには免許制だから試験が必要だ」


 ザハーダさんがそう説明してくれた。その後、ザハーダさんに明日は魔法生物班に行って、魔法生物について色々教えて貰ってこいと言われた。

 試験はカシガナに関しては無いので安心ていいとのこと。これが初めてと言ってるのだから試験なんて作れない。つまり、今から研究して扱いのマニュアルを確立しないといけない訳だ。それから、講習やら試験を作って免許を交付する、そこまでの流れを皆で創るんだ……大変な作業が待っているのは嫌でもわかった。


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