81 月上
◯ 81 月上
その後に部屋を出て、ここがどこか聞いたら神界だという答えが返ってきた。知らない間にそんな所に連れてこられたみたいだ。董佳様のいた場所は神界にある日本の人界を監理する為の機関で、今向かっているのは、異世界間管理組合の地球神界日本支部だそうだ。レイの話では大使館みたいな感じになるそうだ。そっか、レイとかは異世界人になるのか……あんまり気にしてなかった。
「ここが、地球神界日本支部だよ。アキは初めて来るよね?」
「うん。ここがそうなんだ」
そう言いながら、レイに続いて門をくぐったら、景色が変わった。水が遥か上から流れ落ちてくる、そんな壁に挟まれながら進んで行くと、水をふんだんに使った庭に着いた。
「あら〜、懐かしいわぁ」
マリーさんは周りを目を細めながら見ていた。
「マリーは今はフリーだもんね」
「そうなのよ〜、契約内容は詳しくは明かせないけど、董佳ちゃんや怜佳ちゃんのお手伝いよ〜」
「へえ、すごいんだ。フリーだなんて、何かカッコいいね」
「そう言ってくれると嬉しいわ〜」
マリーさんがちょっぴり照れ笑いしながら答えた。
この中には許可無しでの立ち入りは出来ない造りになっていて、僕は職員だからパスされるけれど、そうでない場合はさっきの水の壁の中で立ち往生する事になり、厳重なチェックが施されている事がわかった。中を少し案内して貰って、奥に進むと広い空間に出た。そこでは何人か格闘技の訓練をしていて、その中に蒼史がいた。
「うわ、すごい……」
格闘技なんて体育の授業の柔道以外は縁がないので、こうやって本格的なものを近くで見ると迫力が違っていた。
「腕はなまっては無いようね」
マリーさんが蒼史の方を見ながら、何やらチェックしていた。
「師匠、今日はこちらにいらしたんですか」
蒼史がマリーさんを見つけてこっちに来た。マリーさんほど目立つ人を見逃す人は中々少ないと思う、185㎝以上は身長はありそうだし。
「そうよ〜、新しい技術を入れた武器を使うって聞いたから来たの。ちゃんと許可は取ったわ〜」
「マリーなら他に売ったりしないからね。特別だよ?」
「分かってるわ〜。信用してくれて嬉し〜わ」
「ああ、スフォラーのですか?」
蒼史が見当がついたらしく聞いていた。
「そうだよ、外部に出して型を取らせるなら、強度を増やして武器にならないか試してる所なんだ」
「アキちゃんの持ってるのと同じなの?」
「んー、アキのはプロトタイプだからその機能はついてないと思うよ? 防護重視で当初はスタートしたからね」
「そうなの〜?」
「うぇ? 武器になったんだ?」
僕が驚いて聞いてみると。
「そうなんだ。どうせ形にするなら脳筋関係の方々からそういう要望があって、今は試してるんだ」
「……脳筋って」
僕は蒼史達を見たけれどまあ、確かにあの戦いっぷりはそんな気もしないではない。そういえば、昨夜三人で何か話してたのは、スフォラーが武器になった話だったのかと思い当たった。
「ただ、まだ強度が足りないですね。実用には耐えれないようで故障が多く、まだ改良が必要かと。体に収納出来る便利さ、機能の使い心地はかなり良いのですが」
「まだ、修正が必要みたいだね。本来の目的からかなり離れたから仕方ないけど……マシュが本体を分離して分体として武器は別にしようか悩んでたけどね」
レイが米神の辺りを押さえながら説明した。
「そうね〜、メインのシステムは体内収納しておいた方が、衝撃には左右されにくくなるものねぇ」
マリーさんが腕を組み、納得したのか頷いていた。
「そうなると、もう一度最初から組み直した方が早いとか言ってたからね。完成はもうちょっと掛かりそうだよ」
「いいわ、とりあえず見せて頂戴〜」
マリーさんが蒼史に向かってそう言った。
「承知しました」
蒼史が緊張した面持ちで答えた。どうやら二人が戦うようで、僕達は離れてみる事になった。うん、正直に言ってすごかったとしか言えない。だって動きを目で追う事も僕には出来なかったからだ。
早送りの映像を見ているようで、何が起ってるとかさっぱり分からなかった。とりあえず人間離れしてる事だけは確かだと思う。接近戦では蒼史は手に何か付けてるみたいだったが、少し離れたときには何か棒の様な物を手にしているのがちらりと見えた。それでも、マリーさんは倒れる事も無く、気が付いたら距離を詰めていて、最後には蒼史の顔の前で拳を止めていてそこで戦いは終った。
「あ、りがとうございました」
息を切らしながらも、蒼史が満足そうに言った。
「やっぱり、右に傾く癖が取れてないわね」
マリーさんも少し息を切らしながら注意をしていたけれど、なんだか嬉しそうだった。
「はい、精進いたします」
「そうね、他はかなり良かったわよ、それもその機械のおかげかしら?」
「はい、思考の補助もありますし、視界に動きの予測も出るので……」
「かなり面白い事になってるわね〜。管理員しか使えないのが残念なくらいよ〜」
ちらりと、マリーさんがレイの方に目線を送っていた。
「ふふ、戻ってくるなら良いよ〜」
レイが自慢げにマリーさんに向かって言った。
「もうっその言い方〜、レイったら意地悪ねぇ。もう、こうしちゃえっ」
マリーさんはレイのほっぺたをツンツンと突っついた。
「いやーん、顔は止めて、顔はー」
レイが逃げて僕の後ろに隠れた。僕を挟んで追いかけっこを始めたようだ。
「ほらっ、観念なさ〜い」
「いやーん、アキ助けて〜」
「ええっ?!」
マリーさんは僕ごとレイを捕まえて持ち上げ、両腕に僕達を抱えてしまった。
「うわあーっ」
「きゃーっ」
「こうしてやるわ〜」
その場でぐるぐる回り出した。
「目が回るー」
「ひーっ」
解放されたときには、レイと二人で目を回して座りこんでいた。とばっちりは勘弁したいよ。
「二人はもうちょっと体力を付けないとダメねぇ、このくらいで目を回してちゃ護る方にも負担だわ〜、今度訓練メニューをあげるわねぇ」
「ええ〜、訓練なんて嫌だよ」
「そこでブウたれないの〜、二人で頑張れば良いでしょ〜?」
「蒼史、笑い過ぎ!」
「いや、すま……ぶっク、クッ、ゲホ、ん」
蒼史は笑いを途中で止めようとしていたが、失敗したようだ。
「ほらほら、あたらないの〜」
「ぶうう」
「ふう、ひどい目に合ったよ」
僕はそう呟いた。でも訓練なんて、大丈夫だろうか……あの戦いを見た後ではどう考えても無理そうだけど。
「訓練って何するんですか? 僕はさっきみたいなのは無理ですよ……」
「二人に合いそうなのを、考えとくわ」
「確かに少々体力を付けた方が良いと思う。アキも体の方が良くなっているようだし」
蒼史にまでそう言われてしまった。これは覚悟した方が良いかもしれない。
「う、お手柔らかにお願いします」
「分かったわ〜」
そんな感じで初めての神界は楽しく過ごせた。ところで、夢縁はどうなったんだろう……? そう思っていたら、レイが、そろそろ怜佳さんにも会いに行かないとね、と言い出したので付いて行く事になった。




