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世界を繋ぐお仕事 〜非日常へ編〜  作者: na-ho
えんをたどればゆめのふち
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71 仲介

 ◯ 71 仲介


 場所をソファーのある位置に変えて、話し合いが行われた。結局、董佳様のお姉さんの怜佳さんは誘拐の自覚も無く、そこら辺の野良猫と思って連れて行ったようだった。綺麗にお風呂に入れた後で、着替えをしてお茶を飲みながら猫を愛でていたそうで……悪気は無かったと言い訳をしていた。

 でも、僕が制止の言葉を言ったにも関わらず、無視して事に及んでいるので無理矢理連れ去ったというのは消えない、とレイが説明していた。ちゃんと出るとこでて判決貰っても好いんだけど……とどこかの違う組合のような事をレイがボソッとこぼしていたけど、僕は聞かなかった事にした。

 その後、何やら色々要求をしていたけど、僕には分からなかった。

 ただ、董佳様の眉間の皺から察するに、かなりの事を要求していると思う。中には蒼史達現地の管理員に武器の許可を貰っていた。ある一定の条件下では使って良いとかそういうのだ。確かに、前のときも蒼史が、ダメージを受けていたから必要な事だと思った。

 最後に僕に何か言う事は? と聞かれて宙翔にちゃんと謝って欲しいとお願いした。そうしたら、何かプライドに引っかかったのか、後で書面を送ると言われてしまった。


「ええーと、今、直接は出来ないの?」


 僕は不思議に思って聞いてみた。


「ふん、こんな酷い要求をされて飲んだのよ、これ以上は嫌よ」


 と、董佳様には言われてしまった。怜佳さんの方を見ると、こちらも不機嫌に僕を睨んでいた。


「ええーと、でも宙翔の機嫌を……」


「機嫌を取るのはあなた達の方よ」


 ぴしゃりと言われたが、それだと僕も董佳様も後で困る事になると思うので、ここではっきりと言っておいた方が良いと思って伝える事にした。


「でもそれだと、前に言われてた温泉饅頭の試作品は諦めて貰うしか……」


「何言ってるのよ、それとこれとは関係ないでしょ? そんな脅しをしようなんて立場を考えなさい」


「えーと、立場というか、でも……関係あるというか」


 関係あるという言葉にピクっと眉を動かし、


「何よ、はっきりしなさい」


 と、お叱りを受けてしまった。


「宙翔が前に言ってた友人だから、その饅頭作りを手伝ってる本人なんです。あんなに不機嫌だと饅頭を譲ってはくれないと思うんだ」


「な、何ですって!? なんて事……そんな大事な事、もっと早く言いなさいよっ、なってないわよっ?」


 突然に立ち上がって狼狽えた後、僕を指さして文句を言い出した。いや、そんな事を言っても今まで話をしなかったからじゃ……。考えてたらキッと睨まれてしまった。う、正面からだと迫力あるかも。


「出来たら、自分で謝った方が、宙翔も納得すると思うんだ」


 チラッと怜佳さんの方を見ると、こちらは相変わらず僕を睨みつけている。


「怜佳お姉様……私の為にも謝って欲しいの」


「董佳まで裏切るの? 皆、私から猫ちゃんを連れ去っていくんだわ……う、うえぇん」


 どうやら、まだ別れる諦めがつかなかったらしい。


「謝った方が宙翔も許してくれるかもしれないし、また会ってくれるかも……」


「それは本当? 猫ちゃんから来てくれるの?」


 泣いていた怜佳さんが、顔を上げて聞いて来た。


「そ、それはそっちの謝り次第だと思うよ?」


「そんな……謝るってどうしたらいいの? 董佳、どうしよう」


 怜佳さんが董佳様に相談したが、


「う……分からないわ。責任持って、あなたがしなさいよ」


 何故か迸りが来た。


「ええっ、僕が?」


「まあ、アキが言い出したんだし、交渉してあげたら? 貸しにしとけばいいんじゃない?」


 レイが横から助けを出してくれた。


「貸しですって!? 冗談でしょっ」


 董佳様が膨れっ面で拒絶した。


「あれ? 良いんだ饅頭の試作は」


 レイがとぼけた感じで、饅頭の事を持ち出した。


「くぅ…………し、仕方ないわね。今回だけ受けてあげるわ、有り難く思いなさい」


 唇を噛んで、しばらく何かを天秤にかけてたような感じで悩んでいたが、最終的にはそれで納得したみたいだった。その後、宙翔の所に緊張気味の怜佳さんと一緒に向かう事になった。後ろから董佳様もついて来て様子を伺いに来ていた。


「宙翔、怜佳さんが謝りたいって言ってるんだ……どうやら、猫好きが高まりすぎて、変な方に暴走したみたいなんだ……」


「くすん、猫ちゃん……ごめんね、許してくれる?」


 潤んだ目で謝っている……これには宙翔も強くは出れないみたいで、


「しょうがないな、二度とこんな事するなよ? 約束するなら考えても良いぞ」


 と、警戒を少し解いて仕方なさそうに答えた。


「う、分かったわ。マタタビはもうしないから、また遊びに来て欲しいの……」


「…………」


 宙翔の顔が明らかに嫌そうに歪んだ。これはダメかもしれないな。


「服も着なくて良いみたいだし、宙翔の好物の魚も用意するって……」


 ダメ元で言ってみた。


「んー、アキが一緒なら、考えてやってみても良いぞ」


 どうやら好物で少し釣れたみたいだ。怜佳さんの方を見ると満足したのか嬉しそうだった。


「いいわ、お魚が好きなのね? 何でも揃えるわ、だからまた来て欲しいの。お話ししましょう」


「変な事はするなよ?」


「勿論、来てくれるなら最大限におもてなしするわ」


 怜佳さんはうっとりと次の事を考えているみたいだった。


「しょうがないな、アキに免じて許してやる」


「そっか。良かったね、怜佳さん」


「嬉しいわ。もうダメなんだと思ってたの……。よろしくね、宙翔ちゃん」


 なんとか場が和んだ所に、後ろから董佳様が、つんつん僕を突っついていたので振り返った。


「ちょっと、さっきから怜佳さんだなんて馴れ馴れしく呼ぶんじゃないわ、怜佳様と呼ぶのよ。私の姉なんだから、当然でしょ、ちゃんと直しなさい。それから、私を彼にちゃんと紹介するのよ、分かってるでしょうね?」


 どうやら、さん付けがダメだったらしい。怜佳さんは気にしてないみたいだけどな……とりあえず、宙翔に董佳様を紹介をしないといけないようだ。なので、宙翔に温泉饅頭の熱烈なファンだと伝えてから董佳様を紹介した。


「さっきは知らずに睨んだりして悪かったわ……お饅頭は大好きなのよ。それで、前の試作品もとっても美味しかったわ、アンケートも書かせてもらったし、それで……その……」


 董佳様はそれ以上が言えないようで、僕の腕を肘で突っついて援助を求められた。


「また、試作品があったら食べたいみたいだよ。メレディーナさんと同じ時で良いから送って欲しいみたいなんだ……」


「ちょっと、それじゃ私が食い意地張ってるみたいじゃないの。もっと言い方を考えなさいよ」


 どうやら、お気に召さなかったらしい、足を踏まれてしまった。そのやり取りを見て、


「なんだ、尻に敷かれてるのか」


 などと、からかい気味に宙翔が言ったから、董佳様に思いっきり睨まれて仕舞った。


「ちゃんと誤解を解きなさい。さもないと……」


「わ、わかってるよ、もう足は踏まないでよ」


 地味にダメージが来るんだ、もうごめんしたい。とりあえずは誤解をなんとか解いて、試作品も渋々ながらも宙翔は了承してくれた。結局、僕が届ける事になりそうだ。


「いいこと? ちゃんとここに連絡してから届けるのよ? 間違っても他に渡したりしたら、許さないんだから。全く頼りないんだから」


 文句を言いながらも交渉が成立したので、表情は嬉しさを隠せていなかった。


「ふうぅ……」


 お嬢様方の面倒も大変だと、ため息をついていたら、


「お疲れさま。こっちも後処理が終ったし、そろそろ帰ろうか」


 と、ご機嫌なレイが声を掛けてくれた。よっぽど何か良い事があったんだろうか……。あの交渉のせいじゃ無い事を若干祈りつつ、マリーさんとも再会を約束してから僕達は現実に戻った。

 戻ると宙翔がメレディーナさんの姿に、受け答えがまともに出来ずに固まっていたのは、ちょっと面白かったけど。

 なんとか、丸く収まって皆、帰路についた。僕はそのまま神殿に連れていかれて、交渉の下手さをきっちりとお説教されながら、神殿内の温泉に放り込まれて色々検査された。


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