70 醒酔
◯ 70 醒酔
「えと、二人は知り合い?」
こっちに戻ってから、途切れ途切れの記憶しかないので、思い切って聞いてみた。
「うん、そうなんだ。もうすっかり良くなったみたいだね」
レイが安心した表情でこっちを見た。
「うん、ありがとう。心配かけてごめん」
随分と心配をかけたようだ、頭を掻きながら謝った。
「良くなったんなら良いんだ。それに懐かしい顔にも会えたしね」
「そうよ〜。本当に久しぶりだから盛り上がっちゃうわぁ。そうそう、もう一度しっかり戻ってるみたいだから謝るわね。勝手に処理してごめんね」
「あ、は、はい。マリーさん、えと、元に戻るみたいだし、もう良いです」
「よかった〜、優しいのね。その内にあたしの目指す美について説明してあげるわ〜。もう、お洋服には理解があるんだもの、きっと分かってくれると思うのぉ」
手を胸の前で合わせて、体をくねらせながらそんな宣言をされた。
「う、あ、はあ」
若干、頬が引きつるのを感じながら適当に返事をした。が、返事をした後で大丈夫だろうか、と心配になった。
「えーと、もう洋服は着るのは良いので、見るだけに……」
「そんなぁ、あんなに似合ってたのに着ないなんて〜、勿体無いわ。レイ〜、あなたからもお願いしてよぉ」
「うーん、そう言われてもこればかりは好みだからね、まあ、一回は着たんだから忌避感は薄れてるんじゃないかな」
「そうねぇ、頑張って着て貰うように説得するわ〜」
「そ、そう言えば、宙翔は?」
話がまずい方に向かっているので、話題を変えてみようと気になってる事を言った。
「ああ、すっかり後回しになってた。そうだね、部屋に戻ろうか。マリーにも付いて来て貰うよ」
全員で最初の部屋へ戻り、宙翔の姿を見た僕は頭を抱えたくなった。まだ、酔いから冷めてないのか、ぼんやりした顔で椅子に座っている。
「宙翔……」
頭についてるリボンを外そうとしたが、どうなってくっ付いているのかすら分からなかった。
「ああん、勝手に取っちゃダメよぉ。というかあたしの夢での力の方が強いから、アキちゃんには無理よ?」
「そ、そうなんだ。そういえば服も着替えれなかったっけ。えと、服、取ってあげて欲しいんだけど」
「あら、そう? 新しいお洋服を用意するわ……」
「え、と、宙翔は服が苦手なんです」
「まあ、そうなの? 残念ねぇ、こんなに可愛くなるのに……」
「正気になったら怒ると思いますよ?」
「あら、そうなの〜? 悲しいわぁ。とってもお似合いだから、差し上げようと思ってたのに……クスン」
頭のリボンを取って貰いながら説明する。
「ごめんね? でも無理矢理は……」
言ってる途中で宙翔がノビをして頭を振っていた。
「アキ? 何か変な顔だぞ、どうした……」
いつもの宙翔だ。
「あ、良かった、マタタビから醒めたんだ」
「……なんだ、この服はっ!? だあぁっ」
椅子を倒しながら立ち上がり、服を引っ張って暴れだした。
「あん、暴れちゃダメよう。脱げなくなるわ〜」
マリーもそんな様子の宙翔に声をかけるが、耳に入ってないのかそのまま暴れている。
「宙翔、落ち着いて、助けれないよ」
アキもそんな宙翔に声をかけて、これ以上暴れないように近づこうとしたが、益々動きが激しくなるだけだった。
「猫ちゃん、ダメよ。暴れちゃ……嫌ぁ」
テーブルの上の物が音を立てて床に散った。
「怜佳お姉様、近づいては危ないわ」
董佳様が、お姉さんを離れさせた。
「だあぁっ!!」
袖を引きむしろうとした宙翔の動きの後、ガツッと音がして猫パンチを顔面に食らって倒れたのは僕だった。
「アキっ、大丈夫っ?!」
レイの声が頭の上からした。
「ハッ、ハッ、ハアッ……離せっ」
「暴れないならね? アキちゃんがあなたのパンチで倒れてるわよ?」
「えっ、あ、アキ、ごめん」
見ると、マリーさんに羽交い締めにされた宙翔が、こっちを見て謝っていた。
「……うん。落ち着いた? 宙翔」
「うん……」
マリーさんが宙翔を解放した。
「アキ、血が……」
レイがハンカチで僕の頬をそっと押さえてくれた。触ってみるとパンチの際、爪で少し引っ掻かれたみたいだ。
「大丈夫よ。その服はあたしが脱がせてあげるから、じっとしてて……ほら、大丈夫でしょう?」
「ああ、あんたすごいな。あんなにしたのに取れなかったぞ」
「うふふぅ〜、そうでしょう〜。それにちゃ〜んと防護もついてるのよ、この服は〜。あれだけやっても汚れないし破れない様に出来てるの〜、自慢の一品よ〜」
「へえ、仕事用の割烹着なら良かったんだが、それは要らないぞ。窮屈だ」
「そう、残念だわぁ」
「アキ、大丈夫か? 気が付いたらあんなもんを着てたからビックリだ。どうなってんだ? ……そうだ、なんかいい匂いがして、それから……」
宙翔が側に来て何やら思い出そうとしていた。覚えてない方が幸せかもしれない……。
「猫ちゃん……」
董佳ちゃ……董佳様のお姉さんの声がしてそっちに向くと、涙を浮かべてこっちを……いや、宙翔を見ていた。
「あ、あんたの顔は見たぞ……そうだ、ここにつれて来たのあんただな? 酷いぞ」
宙翔が睨みつけて、フシューッと威嚇していた。董佳様が、それを見て睨み返していた。
「じゃあ、ここで落ち着いて話し合いをしようか。クレハちゃんとソウシは宙翔君にこれまでの説明と、この後の意向を聞いといてくれる?」
僕は立ち上がろうとしたが、何故か足が震えて立ち上がれなかった。
「アキ……捕まって、今度からああいう場合は、マリーやソウシに任せるんだよ? 体力使ったり暴力には全く向いてないんだから」
レイに無茶したらダメだと、釘を刺す様に言われた。確かに、僕が出るより速やかに事態は収まりそうだ。
「う、うん」
どうやら腰が抜けてたようで、レイに支えられながらソファーに座らせて貰った。




