69 追求
◯ 69 追求
「…………マリーナさん?」
マリーナの姿を目に納めてからたっぷりと時間が経ってから、なんとかレイは復活し、呼びかけてみた。
「ええ、そうよ〜。すっごくお久しぶりね、レイ。そうよね?」
お互いに姿が全く違っての再会だった為の確認だった。
「何で元次狼がここに……それに随分衣装の趣味が変わったね」
「師匠……随分変わり果てたお姿に、一体何が」
蒼史の顔は困惑に彩られ、どうすれば良いのか分からないくらい動揺していた。そんな周りの様子を尻目に小指を立てて、スカートの端をつまみながらマリーナは口を開いた。
「いやん、マリーって呼んでぇ」
その台詞とリアクションに後ろの捜査員達は、後ずさって距離を置いた。蒼史はなんとか踏みとどまったが、久しぶりの師匠の反応に変な汗が背中を伝うのを感じた。
「喋り方は変わってないけど、ボクも何があったか聞きたいよ。とりあえずアキがこうなった事からお願いしていいかな」
レイでさえちょっと引き気味で、千皓の方に意識を向けさせた。
「あら、お客様じゃないの〜。また来てくれたのね、嬉しいわ〜」
千皓はマリーナの前に来てからは小刻みに震えて、立っているのが不思議なくらいの有様だった。
「あら〜、そんなに震えちゃってぇ、さっきはごめんなさいね? 性急すぎたみたいね……あたしったらつい自分の美を押し付けちゃっって……大丈夫よ、元に戻るわ」
千皓の手をぎゅっと握って、真剣に涙を溜めて謝った。
「も、とに、戻る……」
今まで反応のなかった千皓が反応した。
「ええ、大丈夫よ。生えてこなくなる事無いから、安心して〜」
「元に……」
千皓の目に力が戻ったが、逆に足の力が抜けたのか座り込んでしまい、放心した表情になった。
「アキ? 大丈夫? 戻ったんだね、良かったよ」
レイがホッとした表情を見せ、喜んでいた。
「そう、レイにも心配させたのね、悪かったわ〜」
「そうだね、ちょっと元次、マリーの美のイメージは理解しにくいから」
「そうなのよ〜、最近はここに籠ってたから、つい世間とのズレに気が付くのが遅くなっちゃって……悪い事したわ、この通り反省してるわ〜」
顔の前で両手を合わせて謝った。
「そっか、それでその押し付けたっていう美って何? 一応聞いておかないとね、後遺症の事も含めて対応しないといけないし」
「随分過保護なのねぇ、そんなんじゃ中々育たないわよ?」
「うーん、それがこっちの資料を見てからでお願いするよ」
レイの渡した資料を斜め読みしてから困った顔で。
「あたしが籠ってる間に随分酷い物が出来たのねぇ。あら、この子ったら心因性の痛みまで……ヒールなんて履かせてたらダメね。仕方ないわねぇ、元のお洋服に変えてあげるわ。こっちよ〜」
そう言って、部屋の奥から千皓の服を取り出して着替えさせた。
「んー、まあ殆ど治ってるけど、アキってば意外なところが繊細だからね……念には念を入れてるんだ」
「そうね、素直ないい子みたいだし、日常に沿ってればすぐに治るわね」
「うん、そうなんだ。元次、マリーも気に入った?」
「勿論よぉ、あたしのお洋服が可愛いって言ってくれたのよ〜。気に入らない訳が無いわぁ」
「そうだったんだ」
「そうなのよぉ、それでつい暴走しちゃって、言わなくていい事まで言っちゃって……大抵気が付かないから黙ってたら良かったんだけど、つい綺麗にしたのを言いたくなっちゃってぇ……」
「で、何をしたのかな?」
「いやん、注目されたら言いにくいわぁ……そうね、これよ」
マリーナは百聞は一見に如かずを実行した……。一番に蒼史が後ずさり、遅れて捜査員二人が青ざめた表情で更に距離をとりつつ視線を逸らした。
「……ノーパンがダメだったのかな?」
レイは至って普通に聞き返した。
「ううん、ショーツははかせてあげたわ、むだ毛を取ってあげたの……」
今更ながら、体をくねらせてちょっぴり恥じらいつつ事実を告げた。蒼史と捜査員達は自分の股間を思わずガードし、千皓の方に哀れみの目を向けあの症状にも納得した。
「ああ、毛深い事気にしてたね、そう言えば」
「そうなのよ〜、悩みだったわぁ。でも、最近は綺麗に出来るのよ〜。それでつい、お客様の分もしちゃって、でも黙ってれば気が付く事無かったと思うの、ほっといても元に戻るし。それにこの美が一般に受け入れられるには、まだ早かったと思うわ〜」
「ふーん、そんな物があるんだ。知らなかったよ」
「そうね、レイはそんな事しなくても綺麗ものね、羨ましいわぁ。でも、あたしとしてはそんなお子様じゃない、前の姿の方が好いけど〜」
「それはそのうちね。今はこれで気に入ってるんだ」
「そうなの? まあ、それはそれで可愛さがプラスされてていいと思うわぁ」
「本当? 良かった。実はボクもそれもちょっと計算に入ってたんだ〜。アキと並ぶなら可愛さもいると思って」
「ああ、なるほどねぇ。確かに一緒だとその姿の方がバランスはよさそう〜」
「そうなんだよー、分かってくれると思ったんだ、マリーなら」
ご機嫌な二人の話は続いたが、復活した千皓以外は誰も止める勇気はなかった。




