68 茶会
◯ 68 茶会
「物々しいわね、一体何事があったのか説明して貰わないと、困るわ董佳」
全員で押し掛けると、優雅にお茶を飲みながら全く悪びれた様子のない怜佳が、のんびりとした口調で説明を求めた。
「怜佳お姉様、それはこっちの台詞だわ。どうしてこんな事をしたのか、きっちり説明して貰わないと困るわ」
「あら、何かしたかしら?」
頬に指を当てて小首をかしげて考えている……。
「とぼけないで頂戴、誘拐は重罪よ? 分かってるの!?」
「ええっ、誘拐だなんて、そんな事してないわ、誰がそんな事を言ったの?」
本気で驚いて眉を寄せて困った様子だ。
「これよ」
スフォラのあの映像を見せながら、詳細を聞きに来たと伝える。
「あら、猫ちゃんね? 猫ちゃんならここよ。私とお揃いの衣装にしたの、可愛いでしょう?」
何だそんな事だったの、と胸を撫で下ろしながら怜佳が答えた。その隣で、宙翔が大きなリボンのついた頭を揺らしながら、マタタビ入りクッキーを頬張っていた。
「薬物使用による誘拐と聞いているわ、マタタビもダメよ?」
「え、そんな……それじゃあどうやって猫ちゃんと仲良くなれというの」
心底驚いた顔で聞き直している。
「……認めるのね?」
董佳が困り果てた表情で確認しようとしたが、
「何でダメなの? 首輪もしてないし、飼い猫じゃないはずよ」
と、怜佳は理屈が合わないと首を傾げている。
「ダメなものはダメなの! ちゃんとお喋りして人間と一緒に居たでしょう!? 異界の猫なんだからここに入れるのだってちゃんと手続きがいるの! ここのトップがそれを無視してたら他に示しがつかないでしょう?」
少し声を震わせながら怜佳に向かって説教を始めたが、暖簾に腕押しだった。
「そんなに興奮して、落ち着いた方が良いわよ? 董佳の下僕と一緒だったから後で了承貰えると思ったのよ……下僕は途中で消えたと聞いたから帰ったんだと思ったのだけど、そんなに大事な猫ちゃんなら置いて帰ったりしない筈よ?」
妹の取り乱し様に眉をひそめて、興奮を抑えるように優しく微笑んで答えた。
「下僕? どうだったかしら? まあ良いわ。そこにいるわ、精神異常起こしかけでだけど。これもここで何かされたと向こうは主張しているのよ、どういう事か説明してくれるわね?」
千皓の事を覚えてないのか、姿が違いすぎて分からないのかは謎だが、赤いロリータ服に向かって指をさして聞いた。
「さあ……私は分からないわ、董佳の下僕だから、マリーナに丁重に着替えを任せておいたのだけど、気が付いたらお茶会にも出席を許して、あなたの最近の様子を聞こうかと思っていたのよ。今、会えてるけど……最近ちっとも相手をしてくれないんだもの、寂しかったのよ?」
董佳は、はあーとため息をつき、再度口を開こうとしたが、
「話の途中で悪いんだけど、そのマリーナさんは何処に?」
と、レイに横から会話に入ってこられた。
「無礼ね、あなたは誰?」
董佳との会話が途切れた事に、怜佳は不機嫌を隠しもしないでこっちを睨んでいる。が、全く気にしていないレイが答えた。
「覚えてないのかな? レイカちゃん、レイだよ」
「レイ……ああ、管理組合のレイね? 何の用かしら」
「そこの宙翔君を返して貰いにと、こっちの被害者Aの状態を解いて貰いにだよ」
「あら、そのくらいあなたになら解けるでしょうに?」
「ちょっと、彼は特殊でね? それにこうなった経緯も聞いておかないといけないし」
レイが眉をひそめながら、千皓の状態を見てから怜佳に聞いてみる。
「あら、可哀想に……そんな事になって、よっぽど怖い目にあったのかしら?」
「そうみたいだね、ここでみたいなんだけど、マリーナさんに会っても良いかな?」
レイは苦笑いしながら、一応マリーナとの面会の許可を貰った。
「ええ、いいわ。今なら衣装室にいると思うわ」
「そう、じゃあ、捜査員さんも一緒に来てくれるね?」
紅芭に宙翔を見張る様に目配せをして、蒼史と二人の捜査員達と共に衣装室に向かった。
「あの、出来ればもう、マタタビのクッキーは食べさせないで頂きたいのです」
紅芭がそう、董佳に進言すると、
「あ、そうね。怜佳お姉様、これ以上は罪を重ねてはダメよ。クッキーを下げて頂戴」
と、クッキーを下げて貰った。
「そんな、猫ちゃんが逃げちゃうじゃない」
怜佳が泣きそうな表情を浮かべて懇願したが、
「ダメよ。彼は野良猫じゃないの、異界人なのよ。我慢して貰うしかないわ。それに、罰を受けてもらうから心しておいて頂戴」
と、董佳は苦渋の顔で怜佳にダメ出しをした。
「そんな、罰だなんて酷いわ。悪い事なんてしてないわ、ちょっと猫ちゃんとお喋りして、お茶をしただけよ?」
「その猫ちゃんが異界の猫ちゃんで、ちゃんと招待したんじゃなくて、マタタビを使ったのがダメなのよ、怜佳お姉様。ちゃんと反省して貰うからね? こんな事を身内がしでかすなんて恥よ」
「う、酷い……恥だなんて。そこまで言うなんてあんまりだわ」
とうとう泣き出した怜佳に、董佳は慰める様に背中をさすり、
「く、泣かないで怜佳お姉様。なんとか処罰は軽くなるように交渉するから。悪気があって誘拐したんじゃないのだし、話せば許してくれるはずよ」
そう言ってから抱きしめた。




