64 案内
◯ 64 案内
遠くから宙翔の声が聞こえる。
「おーい、アキー、おーい、こっちだ」
意識が定まらない変な感覚だ。まるで夢でも見てるかの様な曖昧な感覚……ってこれ夢だ。そう思ったらちゃんと夢の中に自分がいるのを感じた。夢の中で目が覚めたみたいな不思議な感じだ、見るとそばに宙翔がいた。こっちを覗き込んでる。
「あ、宙翔、どうしたの?」
「まだぼんやりしてるのか、約束したろ、夢の案内だよ」
「あ、そうだっけ? うん、思い出したよ」
朧げながら、宴会の前の会話を思い出した。
「本当か? 何か妙な顔してるぞ」
宙翔が神妙な顔で僕の顔を見て言った。
「えっ、本当? おかしい?」
顔を触りながら、ちょっと焦って聞き返した。夢の中で変と言われても、どうなってるのか分からない。
「冗談だよ、ちゃんと意識が乗ったな」
宙翔が笑っている、ちょっとからかわれたらしい。僕の周りの人はよくからかってくるような……そんなに面白いかな? 特別、何かある訳でないのに、それとも何かあるのかな。
「なんだ、あんまりからかわないでよ」
ちょっぴり睨みながら言ったけど笑ってばかりだ。
「いや、隙が多いからつい」
「ついって……」
まあ、仕方が無い。それよりもこんなにしっかりと夢を見るのは余り無い。昨日のムアーの木がある。あんなに収穫したのにまだ一杯実がなってる……あ、夢だからかな?
「ここはアキの夢だ。仕事場か? 美味しそうな実がなってるな」
そう言いながらリンゴを採って食べ始めた。僕も夢だからいいかと食べてみる事に。うん、美味しい。あ、スフォラ、出て来たんだ。肩の上に乗っかってる、え、食べるの? 大丈夫かなあ……まあ夢だし良いか。夢なら何でもいい気になる。
「夢だと食べれるんだね」
「そいつ、変な奴だな」
宙翔がスフォラを見て首を傾げている。それもそうか、元々は機械で霊的な補助も出来る何たらと説明されたけど、さっぱり分からなかったもので、出来ているらしい。それを何となく説明してみたけど、僕が分かってないので、宙翔も訳が分かってなかった、ごめん。まあ、そんなものだ。元の姿に戻してみせると驚いていて、それで何となく納得したようだった。
「ん、景色が変わった。学校だ」
教室の中に変わっていた。誰もいない訳でなく、朧げにクラスメイト達の姿が揺らめいている。さっきの果実園もだけど、教室の様子も何となく少し違う気がする。
「へえ、これがアキの学校か。全部、残像か」
クラスメイト達を見ながらリンゴの残りをかじってる。
「残像?」
「ああ、何か動いてる奴らだよ、アキとは繋がってないみたいだから、ただの背景だよ」
「へえ、ちゃんと見えないと思ったらそうだったのか」
「目に入っても気にもならないだろ、誰かの気配があったら隠れてない限りは気が付くからな」
「ふうん、そんなもんなんだ」
「こっちの家はどんなのだ?」
「家? ああ、地球の家は……」
思ったらすぐに家の中に変わった。自分の部屋だ。
「ん、すぐにこの部屋出ろ」
「え?」
言いながら僕の腕を掴んで部屋の外に出る。
「あれ、部屋に入り込んでるぞ」
宙翔が気持ち悪そうに指をさしている方を見ると、青黒い靄が漂っていた。部屋もなんだか薄暗い。
「うわ、何だろうあれ」
「何か誰かの恨みでも買ってるのか?」
「ええっ、そんな事無いと思うけど……なんだろう。呪いの残りとかじゃないよな?」
「ああ、そう言えばそんな事いってたな、呪いの残りじゃないと思うなあれは……よく見たらなんかアキ自体を狙ってる感じでもない、本人を追いかけてこないから噂ぐらいかな?」
「噂? そんなのであんなのがくるんだ?」
「うん、まあ、気にしなければあのくらいなら、捕われたり影響受けたりは無いよ」
「良かった」
「大丈夫だよ。弱ってると夢の中でもエネルギー持ってかれたりするから、気をつけないとダメだけど、アキにはスフォラが付いてるし、大丈夫だろ」
「え、スフォラが守ってくれてたんだ。ありがとう」
スフォラの頭をなでて褒め、ついでに耳の当たりまで掻いてやった。階段下からお福さんがやって来た。
「にゃあ」
「あ、お福さん。えと、宙翔だよ、お福さんは家の猫なんだ」
一応紹介してみると。
「初めまして、お福さん。よろしくお願いします。」
「にゃーあ、にゃ」
なんとなく挨拶してる感じがする。何やら二匹して話している感じだ。
「ふうん、呪いはお福さんが少しは防いでくれてたみたいだぞ」
「え、そうなんだ。お福さんありがとう」
お福さんを抱き上げてなでながら、今度好物の魚を食べさせて上げようと決心した。お福さんと会えたという事は繋がってるってことだろうか? よくわからないけど、きっとそうなんだろう。でも考えたら今は地球は真っ昼間だ、お福さんは寝てる時間だけど。
「じゃあ、行こうか」
「どこに?」
「夢を渡りに」
「うん」
よくわからないけど、付いて行ってみよう。宙翔と手をつないで出発した。
「ん、ここは?」
「ここは夢の世界だけど、色々な夢が混ざってる所だ。人間はあんまり来ないな」
「そうなんだ、なんかグニャグニャしててよくわからないよ?」
「慣れないとそんなだ、酔わないうちに移動しようこっちだ」
そう言って、歩き出した。すると色々な映像がものすごいスピードで通り過ぎて行く。
「わ、なんだあれ、あ、遊園地だ」
ねずみの王国らしき所の映像が流れた。色々な景色だったり人だったり、食べ物やおもちゃまで沢山流れて行く。現実よりも綺麗な色彩の所が多い気がする。
「今は子供とかの夢を渡ってるからな」
「大人の夢は、もっと色が無い事が多いんだ。たまに、綺麗な夢の大人もいるけど、少ないよな」
「あれは?」
遠くで流れている景色が目に入った。いくつかそんな感じのが目についたので聞いてみる。
「あれは……弱ってる相手に取り付いて夢のエネルギーを奪ってるんだ、指はさすなよ? 気が付かれたら追いかけてくる事もあるから」
「え……そんなのがいるんだ」
「うん、現実でいじめて弱らせて、ああやって夢や希望を吸い取ってエネルギーとして奪う奴らもいるんだ。なかに捕われた人は……現実では病気になってるかもな、鬱とか言う奴だ」
「そんな化け物がいるんだ」
「いや、あれも人間だぞ」
「えっ、あれが?」
また通り過ぎた、似た様な繭のようなものにしがみついて、何かをしている感じの生物っぽいものがちらっと見えたが、姿がはっきりとある感じではなかった。灰色の影と言った感じだ。あの繭の様なものは人の夢なんだろうか。
「あの繭は夢なの?」
「そうだよ、あれに襲われるとだいたい心を閉じてあれに閉じこもるんだ。でも、逃げ場が無いから本当は良くないんだけどね」
現実がつらいとそうなるのか怖いな……夢の中まであんな風に襲われるなんて知らなかったな。
「どうにかならないの?」
「うーん、あの状態だとこっちからは無理だな、もっと夢を深く潜るかだな。あそこから抜けるには本人が深く潜ると集合意識にたどり着くから、そこから助けが来るのを待てば何とかなるんだけど……ちょっと難しいかも。でも、たまに助かってるのを見るよ」
「へえ、じゃあ助かる方法はあるんだ」
「うん、本当は強く思ってれば、あの灰色の奴らも夢の中でまでは手出し出来ないんだけど、閉じこもってたら周りからじわじわ力を奪われるだけだからね、アキもあんな変な靄を自分の夢に入り込ませてたらダメだぞ、追い出して良いんだからな」
「う、うん、頑張ってみるよ。教えてくれてありがと」
そっか、追い出せるんだ。あのままはちょっと嫌だなと思ってたんだ。
その後も、動物の夢や植物の夢とかも色々案内してもらい、最後に夢縁学園が見える所に連れて行ってくれた。夢と現実の狭間といった所にあるらしく、結界が張られているので宙翔はこれ以上は近づけないらしかった。
夢だけどあの中は現実に近く、近づくと目が覚めるときの感じがする、と言われた。うーん、僕にはよくわからない。言われたら、そんな気もしないでもないけど……。
「そこの子猫ちゃん達、学園に何の用〜?」
突然、声がしたので振り返ると、見た事のある顔があった。でもなんか前と少し雰囲気が違う、服のせいかな? 董佳ちゃ、様?




