63 通知
お待たせしました。再会です。
あ、再開でした。
えんをたどればゆめのふち
◯ 63 通知
そんな感じで緩急付けながらもテスト期間は終わり、なんだか解放された気分で久々にお福さんと戯れていたら、スフォラに夢縁学園の入学案内が届いた。
「へえ、11月からか、区切りの良いところからで良かった」
見学はいつでもどうぞ、となっている。でもどうやって行くんだろう? 夢で習うと聞いたけど……どうなってるんだろう。レイにでも聞いてみ、あ、スフォラが案内出来るんだ。へえ、ちょっと見学に行ってみようかな。
そういえば、最近は忙しいのか、あまりレイの姿を見てないな……まあ、僕も忙しかったから人の事いえないけど。アストリューの温泉街の甘味屋にまた行く事を約束してたから、メールで誘っておこう。
「さて、そろそろ宙翔の所に行きますか」
宙翔の家に招待されてたのだ。またどうやら飲み会があるらしいので、騒がしいけど良かったらと声をかけてくれたのだ。竹で出来た垣根を伝って歩いていたら、
「おー、こっちだー。宙翔、友達来てるぞー」
と、宿のご主人が、玄関横の庭から声をかけてくれた。どうやら少し手入れをしていたようで、宙翔を呼びながら手招きしてくれている。
「こんにちは、この前は苗をありがとうございます」
近くに行って、この前のお礼を言った。
「おお、どうだ育ってるか?」
箒を片手に成長を聞かれた。相変わらず、着物姿だ。宙翔も着物が似合いそうだけど……ま、着ないか。
「はい、なんとかカシガナは20センチくらいになりました」
「そうか、そこまで育てば、後はほっといても大丈夫だ。あれは強いからな」
「はい、ありがとうございます。それでこれ、良かったら今日、皆で食べて下さい」
「んな、気を使わなくていいんだぞ」
にこやかに笑いながらも、遠慮する言葉が出て来た。
「いや、まあ一応、お礼もあるんですけど、菜園班で穫れすぎたので消費しないといけなくて……なので遠慮しないで下さい」
どうも土が合ったのか大量に付けたムアーの実が、あの食欲の固まりの菜園班の連中ですら食べきれないくらいに収穫されたのだ。
大きさと味は枇杷に似た感じで、お酒に漬けるとまた違った味わいになるらしい。二日酔いにも効くようで調度いいので大量に貰って来たのだ。200個はあるから足りない事は無いと思うんだけど。
「それだったら、遠慮しないで貰っておこうか、ありがとうな」
嬉しそうに受け取ってもらえた。
「はい」
「お、ムアーじゃないか。こりゃ酒が進むな」
早速、飲む事に切り替わったようだ。
「アキ、早かったな。って父ちゃん、なにニヤついてるんだ?」
「ムアーを貰ったんだよ。じゃ、折角だ、ちょっと酒に漬けておくか」
ご主人はしっぽを揺らしながら奥に入って行った。
「なんか、ありがとうな」
宙翔の後に付いて、少し葉が色づき始めた庭を突っ切って行く。
「良かったよ、好きそうで」
「ああ、飲み仲間も大概何でも食べるから……今日は広間でやるから座布団敷いてるんだ」
「手伝うよ」
「いや、そっちは終ったから大丈夫だ」
「本当? 他は大丈夫なの?」
「料理が出来上がったら運ぶから、それまで待機だ」
「料理は手伝わなくていいの?」
裏口どころか縁側からお邪魔した。
「うん、今日はおばちゃん達も来てるから、今は台所が一杯なんだ。それにあんな喋ってる所に言ったら煩いぞ」
宙翔が頭を掻きながら耳をピクピク動かしている、何か言われたんだろうか。まあ突っ込まないであげよう。
「今日は何かのお祝い?」
「いや、なんか良い酒が入ったから、とかなんとか言ってたぞ」
「そうなんだ」
「心配するな、飯も旨いの作るって言ってたからな」
「それは期待しちゃうな」
「へへ、実はオレも今日は期待してる。なんかいい魚が入ったって聞いたからな」
「へえ、それは楽しみだな」
「だろ?」
と、嬉しそうにこっちを見ながら、すでに涎を飲み込んでいた。それを見たら頷くしか無い。今日の宴会の広間に着いたようだ、そこでお互いの近況を話しながら待った。
「へえ、夢の学校か。何か聞いた事あるかも、人間達が結界張ってるあそこだと思うんだけど」
「宙翔は夢の中で行った事あるの?」
ちょっと疑問に思ったので聞いてみたら、
「猫は夢の案内人とか聞いた事無いか? オレもまだまだだけど、案内くらいなら出来るぞ」
帰って来た言葉は、余り知らない猫の一面だった。確かにお福さんとか良く寝てるけど、そんなの知らなかったぞ。
「すごいんだね、僕は夢の中とかよくわからないよ」
「んー、人間でも自由に行き来してる奴らもいるから、やろうと思えば出来るはずだぞ」
「そうなんだ……頑張ってみるよ」
「まあ、そう張り切らずに、リラックス状態の方が夢は操りやすいぞ」
「え、そうなんだ」
「何か心配だなあ、今度会いに行ってやるよ」
「本当? 頼むよ」
「まかせとけ、夢案内くらいはやるよ」
僕の様子に苦笑いしながらも、引き受けてくれた。と調度そこに見知らぬ女の人が入って来た。
「あ、姉ちゃん。料理出来たのか? 運ぼうか?」
宙翔は呼びかけた。え、お姉さんって……言ったよね? あ、もしかして人化してるのかな。
「あ、いいのよ。そのまま座ってて、私も追い出されたから。あの人数いれば運ぶのも楽勝よ」
「そうか、じゃあここで待ってるよ」
一段落付いたみたいなので、挨拶しようと声をかけた。
「こんばんは、今日は人化してるんですか?」
「ええ。こんばんはアキ君、変じゃ無いかな」
ちょっと恥ずかしそうにしながらも、しっかりと微笑んで答えてくれた。
「え、ぜんぜん変じゃ無いですよ、すごく綺麗から何か緊張しちゃうよ」
「やーんもう、調子いいんだからっ」
褒めたんだけど、照れからか思い切り叩かれてしまった。
「あたっ」
「もう、宙翔も言ってやって、そんな綺麗だなんて〜」
これは、喜ばせすぎたらしい。宙翔の方も叩いて被害が出ている。美寿さんはそのうちしっぽが出ていたけど、その事には突っ込まないでおいた。
「ね、えちゃん、痛いよ。しっぽ出てるぞ」
「あ、あれ? 本当だ」
途端にしゅんとして、しっぽを隠していた。
「興奮するとやっぱりダメね。もう、美人だなんて言うからつい……」
剥れられてしまった。しかも、美人に言葉が変わっていた。まあ、いいか。確かに可愛い美人だし。
「姉ちゃん、練習中なんだ。神殿がなんか新人募集で働き手を捜してるらしいんだけど、何か見学も出来るとか言ってて、それに応募したらしいんだ」
「そうなのよ、働いてる神殿の方々が見れるみたいなの。いい機会だから見に行こうかと思って、友達と約束したの」
「へえ、そうだったんだ。それで人化をしてたんだ」
「そうなの。中々うまくいかなくて、気が付くと耳かしっぽが出てて……」
ぺろりと舌を出しながら、失敗を語っていた。
「そっか、頑張ってるんだね」
「そうなの、分かってくれるのね、宙翔はからかうばっかりなんだもん」
「だって姉ちゃん、毎日その話を聞かされるこっちの身も考えてみろよ」
「文句言わないでよー、折角、気分が盛り上がってるんだから、姉の為に応援しなさーい」
宙翔の頬をつねって、教育中だ。母さんと似た技だ。
「いででで、もう、これだよ。なんとかしてくれ、アキ」
さて、それには何も言わない方が良いと思うんだけどな、こういう女性に逆らったら痛いめに合うのは世の中の常な気がする。
「あ、料理が来たみたいだよ」
タイミングよく女将さんが先頭で料理を運んで来たので、僕達は運ばれて来た料理を並べ始めた。宴会は前と同じく盛り上がって皆で楽しんだ。




