62 問題
◯ 62 問題
次の日は動植物研究部を休み、学校にテストを受けに行った。静かな教室で、皆が筆記具でカリカリやってる音だけが響いている。苦手な数学がもうじき終るが、最後の問題がさっぱり解けない。時間的にももう諦めて他を見直すしか無い、仕方なくそうする事にした。チャイムが鳴り、時間が来た事を教えた。
「はあー、いつも通り難関だった」
僕はため息をついた。
「だよな、最後の問題とか意味が分からなかったよ」
前の席に座っていた吉沢が話しかけて来た。
「あ、うん、あれって難しすぎだよ。先生、気合い入れ過ぎ」
「やっぱり、鮎川も出来なかったのか?」
吉沢は出来なかった仲間を見つけて、嬉しそうな顔になってる。
「そうだよ、全く歯が立たなかったよ」
僕は降参とばかりに手を上げて首を振った。
「あれは無いよな、難易度高かった。ま、終ったしいいか」
「そうだね。とりあえず、次の歴史が……」
次はどうにも好きになれない歴史だ。話として読むのは面白いのだが、年表を覚えたり人物の名前を正確に書いたりするのがどうにも苦痛だった。多分、興味なさ過ぎて頭に入ってこないんだとは思う。テスト前に詰め込んですぐ忘れる、そういう類いのものに自分の中では分類されている。
「ああ、そうだった。次は暗記か……」
吉沢も苦手なのか、眉間に皺が出来ている。
「とりあえず、帰ったら、暗記だな」
「ああ、そうだな」
お互い目を合わせて頷き、じゃあなと言って別れた。試験中は皆どこか落ち着かない感じだ。校門前のバス停に行くと、そこでトシと会ったので一緒に帰った。トシも数学の問題には手こずったそうで、最後のはやばかったと愚痴を言っていた。
「試験も後半だな、最後の詰め込みだ……」
「そうだね、トシは目の下に隈ができてるけど、大丈夫?」
薄らとだけど、目の下に隈ができてる。徹夜でもしたんだろうか。
「ああ、なんとかな。どうせ、試験明けは寝るしな。アキは意外とまだ大丈夫そうだな、疲れてはいそうだけど」
「そうかな?」
「ああ、何となく。無理するなよ」
「トシこそ、試験終る前に倒れるなよ」
家の近くの停留所で降りて、それぞれの家まで帰った。家に着いたら、今日は誰もいなかったので自分でお茶を入れて飲み、部屋で明日の試験の勉強範囲をチェックして、アストリューの仕事場に向かった。
「もう来ないかと思ったぞ」
「え?」
後ろを振り返ると、ザハーダさんがばつの悪そうな顔をしていた。
「いや、一日来てから、今日までずっと休みだったろ、喰いっぱぐれたのが原因かと思ってよ。あいつらはまあ、後で絞めといたけどな」
そうだったんだ。
「心配かけました。僕、地球でテスト中で……向こうに戻ってたんです」
「そうか、予定表にも休みになってたんだが、一日来ただけでいきなり休むなんて、絶対新人いじめと思われてるぞ、とあいつら脅したんだが違ったか?」
「はい。そんな事思ってないですよ? まあ、驚きましたけど……皆食い意地が張って、あ、いえ、食欲がすごいなと」
ガハハと笑ってちょっとホッとした様な表情で、
「はっ、言い直さなくていいぜ、本当の事だ。ま、調度あいつらにはいい薬だろう、テストの事は黙っといてくれ」
と、何やら思いついた顔でそんな事を言われた。ザハーダさんはちょっと人の悪そうな顔でにやりと笑った。
「オレが説得して来て貰った事にするからな。くくく、遠慮というものを叩き込んでやる」
「は、はあ」
「心配すんな、これも仕事だ。バレても俺が命令したと言っとけばいい」
「……」
僕は頬の当たりを掻き、いいのかなあと内心思いながらも頷いた。まあ、確かに食い意地は張りすぎてるけど。
「ちゃんと、躾しておくのが大事だからな、気にするな」
「はい」
そう言われて、菜園班の場所に着くと、皆が一斉にこっちを向いた。ザハーダさんが皆が何か言う前に、そこに並べと声をかけると、全員が並んだ。向かう位置に僕とザハーダさんが立って、何するんだと思ったら。
「てめえら、言う言葉があるだろう、吐け!」
全員が、顔を見合わせながら肘で突つき合っている。
「ああ? てめえら、絞め足りねえのか?」
ザハーダさんが睨みつけると、皆ビクッと体を震わせ、喋りはじめた。
「いや、そんな事無いっす。反省してます、悪かったです」
「俺もすいませんでした」
「悪かったです」
次々、三人が謝り出した。
「ああ? オレに謝ってどうするんだ、こっちだろうが」
ザハーダさんが一括すると即、皆はこっちを向いて謝り出した。
「すまなかった」
頭を下げながら一人が言うと、
「鮎川、悪かったよ」
もう一人が頭を掻き、済まなそうにこっちを見ながら謝り、
「知らなかったとはいえ、全部喰って悪かった」
と、最後の一人もばつが悪そうな表情で、こっちを見ながら謝ってくれた。
「は、はあ」
事の成り行きに戸惑いながらも、返事をした。
「いじめようとかは全然思ってねえからよ」
三人で目を合わせながら一人が言い、
「そうなんだ、食い意地が張ってるだけなんだ」
ちょっと分からない言い訳が入り、
「仲間になったんだから、次はちゃんと残してやるからな」
最後の人は先輩風を吹かし出した。それを聞いてザハーダさんは、
「おい、何が残してやるだ? 喰う事しかしねえくせに、鮎川はちゃんと手伝ったぜ?」
と、呆れて軽く注意した。
「マジっすか? 料理出来んのかよ、やったぜ」
「食い物が増えるのか?」
「おお、いい新人だ」
みんな調子がいいようだ。
「お前ら、お仕置きが足りないみたいだな」
「何でですか! ちゃんと謝ったじゃな、いででででっ」
途中でザハーダさんが耳を掴んで、引っ張り出した。
「わああっ、つ」
もう一人は顔を掴まれてる。
「こら、どこ行く」
最後の一人が逃げ出しかけたのを、一歩でつめてお尻辺りを蹴っていた。
「ぎゃっ」
なんだか子供を相手にしているお父さんのようだ。でも何となく、そんな位置にいるんだろう。その後、三人仲良く、たんこぶを作って仕事に戻った。なんか賑やかだ……ちょっと疲れるけど。
「まあ、あいつらも反省してるし、いいだろう」
ちょっとため息をつき、仕方ないと言った顔をしていた。
「はい、いつもあんな感じなんですか?」
「ああ、疲れる連中だろ、まあ、悪い奴らじゃないから、慣れてくれ」
苦笑いしながら皆のフォローをしている。リーダーも大変だな。
「はい、僕は今日は何したらいいですか?」
「ああ、オレの手伝いだ。とりあえず、研究班の所によってから資料室に行こう」
「はい」
仕事と言っても、5、6時間で終るから、休みの日のバイトとそんなに変わらない。皆もそれ以上は働いていない感じだ。父さんとか働き過ぎだと思う。あ、でも、レポート作成とかを入れるとやっぱり時間かかってるのかもしれない。
アストリューの家に帰ってテスト勉強を少しやり、感想レポートを少しまとめた。時間調整をして地球に帰って夕飯を家族で食べ、夜にはまたアストリューに戻ってたっぷり眠った。次の日はトシに疲れた顔してると言われたのを思い出し、こっちでの仕事も休んで家でゆっくり過ごした。時間の使い方が難しい、体力も含めて調節しないといけないのが、自分では把握出来づらい。慣れるしかないのかも。




