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世界を繋ぐお仕事 〜非日常へ編〜  作者: na-ho
ゆけむりのむこう
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61 横槍

 ◯ 61 横槍


 菜園部に着くといい匂いがし始めた。ザハーダさんが作り始めているんだろう。僕も手伝った方がいいかなと、キッチンを覗くとものすごい勢いで料理を進めていた。正直あのスピードに着いて行ける自身は無い。なので、テーブルの上を綺麗に片付けて拭き、使った道具がたまっていたのでそれを洗った。


「おお、ありがとな」


「はい、お皿とかはどれを使うんですか」


「ああ、赤い線の入ったのがあの棚にある、その横のスープ皿も頼む。それとコップはそっちだ、そのグラスを出してくれ」


「はい」


 グラスを取って後ろを振り返ったら、いつの間にか知らない人がテーブルに座ってナイフとフォークをちゃっかり自分の前にだけ並べていた。


「わっ、ビックリした」


 もう少しで、グラスを落とす所だった。僕の声に反応してザハーダさんが振り返った。


「なんだ、部長か。出張じゃなかったのか」


 部長? 動植物研究部の部長だろうか。そう言えば会った事無かったな……出張だったのか。


「私が食べ逃すと思って?」


「ちっ、相変わらず食い意地張ってやがる」


「そっちこそ。それより今日は何の料理なの? マトラノっぽい匂いね」


「当たりだ。マトラノキノコとカコの実のスープと、カシガナと豚肉のソテーだ。ムッソのパンがあればいいんだが……いつの間にか無くなってる」


 ジロリと疑いの目を部長に向けているが、部長は巧みにその目を避けて明後日の方向を見ている。僕から見てもあの様子は疑わしい感じだ。どうもしらを切るつもりの部長に諦めたのか、ザハーダさんは料理を盛りつけはじめた。僕は指示された飲み物を冷蔵庫から出し、オーブンからバスケットにパンを盛りつけ、足りないお皿を出した。


「で、君はだぁれ?」


 と、今更だが怪しげな目で見られながら聞かれたので、答えようとしたら先にザハーダさんに言われてしまった。


「こいつは、新人の鮎川で菜園班に今日、配属されたんだ」


「そう、私はここの部長の、マイラ 磯田(いそだ)よ。よろしくね」


 新人と分かったからか、優しそうな表情になって、握手を求められたので手を出した。


「はい、自己紹介が遅れてすいません。鮎川 千皓です、よろしくお願いします」


 握手しながら、自己紹介を済ませ席に着いた。


「じゃあ、喰うか」


「いただきます」


「我らが女神へ感謝を……」


 二人が目を閉じて祈りを捧げていた。こっちではそうするのだろうか、宙翔はやってなかったけど。二人をまねて手を胸に当てて目を閉じてみた。時間にして5秒くらいだけど、それでその後は普通に食べはじめた。後でザハーダさんに聞いてみよう。


「うーん、いつもながらいい味ね!」


「マトラノはやっぱり最高だっ!!」


「美味しいです。キノコは形が無いですけど、入ってるんですよね」


「ああ、マトラノキノコは火を通すと液状化するんだ。旨味が凝縮されてるだろ? だが後味はしつこくはない。カコの実を一緒に食べればその味をもっと引き立ててくれる。もっと煮詰めてソースにすれば何の肉料理にでも掛ければ最高の味にしてくれる。肉汁と合わさった時の味はもっと最高だぞ。明日か明後日にはソースが出来るから、そしたらまた食べさせてやる」


「はい、楽しみです」


「カシガナはこっちだ。生で食べるのも置いてある、デザートにするといい」


「はい」


「あら、カシガナが好きなの?」


「いや、一昨日から育ててるらしいから、教えてやってるんだ」


「そう、熱心な新人ね」


 そう言いながら、あったかスープを飲んでいる。そこに外から何人か入って来た。


「あー、何こそこそと自分たちだけ食べてるんですかっ」


「そうですよ、出来上がったら呼びに来てくれないと」


「何だもう食べてたのか……俺たちの分は無いのか?」


「あー、わかったからお前達、自分で用意しろ。スープはもうダメだぞ、ソースにするからな」


 ザハーダさんがうるさげに、手で追い払う様な仕草をしながら、あしらっている。


「ええー、自分たちだけずるいよ」


 食欲に押された一人が負けずに言い返している。


「これは新人教育に使ったんだ。文句言うな」


 まあ、確かに最初はそうだったような気がするけど……。


「はあ? そんな教育聞いた事無いですよ」


「そうですよ、部長、なんとか言って下さい」


「いや、部長も共犯ですよ。さりげにスープ全部飲んでるし」


 一人が、静かに黙々と食べきった部長をみて咎めた。


「おまえらな、せっかくの料理がまずくなるだろうが、黙れ」


 ザハーダさんの怒りが頂点に達しはじめた頃、


「美味しかったわ、じゃあね」


 そう言って、焼きたてパンを掴んだかと思うと、磯田部長はサッと出て行った。素早い。


「あ、ちょ、部長ーっ。逃げやがって、こういうときだけ調子よく押し付けるんだよ」


 ザハーダさんが、イラッとした表情を隠しもしないで頭を掻いている。結局、僕の食べかけの物から、鍋の中身から全部皆の胃袋に収まった所で、事態の収拾がついた。恐るべし菜園班の食欲……。

 妬みのこもった目で睨まれながらの食事は正直、喉が詰まるだけで美味しくなかったので仕方が無い。一口しか食べれなかった。


「食べれたか? 何か済まなかったな、これでもやるから元気出せよ?」


 と、カシガナの種を貰った。デザート用の生のカシガナも気が付いたら無くなっていて、一口も食べれなかった。野生種の黄色の種を持って帰って、菜園班の一日は終わった。最後にどっと疲れた気がする、先輩達のパワーに圧倒されたよ。こんなので大丈夫だろうか……早速不安だ。


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