60 寄道
◯ 60 寄道
ザハーダさんにがっしりしたブーツとフード付きのコートを渡され、それを服の上から着た。
「そのコートを着てれば、大抵の動物は襲ってこない。ま、今日はそんなに歩きはないからな」
僕の足を見ながらそう言った。一応気を使ってくれてるみたいだ。小屋の中は岩山の洞穴と繋がっていて中は広かった。いくつか岩をくりぬいた階段を下りると、倉庫らしい部屋にたどり着いた。そこにおいてある機械をザハーダさんが触って何かすると、突然壁が動き出して外と繋がった。僕がそれに見とれている間に用意したのか、乗り物らしきものに跨がって、スーと音も無く僕の横に乗り付けた。スクーターのタイヤが無いみたいな感じのものだ。ヘルメットを渡され、後ろを指さしてる。小さくだけどシートがあって、座れるみたいだ。
「そのうち運転も覚えてもらうが、今日は後ろだ」
「分かりました」
急いでヘルメットをかぶり、後ろの席に座った。乗ったと同時に動き出し、外へと飛び出した。後ろを振り返ると、岩山にある発着場は自動で閉じていった。なんか秘密基地みたいだ……。ゆっくりと高度を下げながら進み、木々の上すれすれを通り、そのまま川まで出ると川の上をゆっくり通って少し開けた所に着いた。そこに乗り物を置いて歩く事になった。
50メートルほど森を進んだ所に、目当てのカシガナがあった。緑色の茎に葉っぱ、実は黄緑だった。
「あれ、ショッキングピンクじゃないんだ」
「ああ、あれはソート地方で育った奴だ、割と有名だな。熱を通すとうまみが出るタイプだ。こいつは生でも食べれるぞ、味が薄いけどな」
そう言いながら、よく熟れてそうなのを一つ採取した。
「帰って食べてみよう。味の違いも分かるだろう」
「はい」
そして、乗り物の所に戻る途中、ザハーダさんが慌てた様子でちょっと待ってろ、と言って違う方向へと急いで進んで行った。何か見つけたらしい。戻って来たザハーダさんは嬉しそうに何かを持って帰って来た。
「こいつは中々手に入らなくてな、ここで見つけたのはラッキーだ」
「何ですか?」
「キノコだ。こいつが好物でな、栽培はどうもうまくいかなくてな。どうしても味の劣化があって納得いかないんだ。だが、こいつは絶品のはずだ。」
よだれを垂らしそうな顔で白いキノコを見ている。先っぽがちょっぴり青いけど……大丈夫なんだろうか。
「んー、この匂い間違いないマトラノキノコだ。鮎川もこの匂いと形覚えとけ、そして見つけたらオレに連絡を入れるんだぞ。料理したらちょっとは分けてやる」
「……はあ。本当に好きなんですね」
思い切り私的な命令をしているのをちょっと呆れながらも、ご機嫌なザハーダさんの後を付いて乗り物の所に帰った。
「こうなったら、カコの実も採りに行くぞ、マトラノキノコによく合うんだ」
そう言って、あちこちに採取に行く事になった。完全に仕事じゃ無い気がするけど、良いんだろうか。まあ、一応色々説明はしてくれてるけど、ほぼ料理の話になってる気がしないでもない。小屋への帰り道、遠くの空を何かが団体で飛んでいるのを見て聞いてみた。
「あれは、セイカ鳥だ。渡り鳥で、冬になる前に南に飛ぶんだ。味は淡白な感じだな」
「へえ、こっちにも渡り鳥がいるんですね」
「地球とやらにもいるのか」
「はい、います。季節によって飛んで来ます」
「そうか、アストリューは季節と言っても緩やかだからな」
「そうなんですか」
「ああ、そう聞いてる。外から来る連中によくそう言われるんだ」
「なるほど、僕はここに来たばかりなので、まだ分からないですけど」
「ああ、極圏に近い所しか雪は降らないからな」
「そうなんだ」
小屋に戻ってザハーダさんが乗り物を片付けている間、壁に張られていた地図を見ていた。地球とは全く違う大陸の形と海が描かれていて、現在値を示す赤丸で自分の居場所が分かった。移動があっという間なので自分がどこにいるか把握出来てなかったのだ。神殿の位置からするとかなり離れている事が分かった。
「なんだ、地図なんか見て」
「あ、僕、ここの地図は見た事無かったんです」
「そうか、これからあちこち行くから、大陸と位置ぐらいは覚えとけよ」
「分かりました」
体内にいるスフォラに地図を覚えて貰おうと思ったら、データがあると言われてしまった。後でアストリューの基本データを見せて貰おう。あ、でもそろそろ地球で試験の続きだ。細かい時間は調整出来るらしく、きっちりこの時間に帰るとかはしなくていいので、そこが融通利くのは嬉しい。
「さあ、料理だ」
そう言って、ザハーダさんは先に神殿の菜園部に戻って行ってしまった。
「あれ、置いて行かれたよ。気が早いなあ」
僕はもう少し地図を見て、さっき見た景色を思い出しながら、ここの大陸の地図をなぞった。メリトラード大陸のカラザ大森林というのが、ここの位置らしい。大陸自体は4つあって、後は大小の島が点在している感じだ。最後に、大陸の位置と名前だけ見て神殿に帰った。




