59 大自然
◯ 59 大自然
その後、メレディーナさんは用があったので、一緒には回れなかったが、僕は一人ゆっくりと回り、先ずは動植物研究部にお世話になる事にした。色々な野菜の育て方が分かりそうだったからだ。
ついでに、新種の野菜などのレシピの研究までやっていたので、今興味ある事、という理由で決めたのだが……問題ないと思う。新人の内はいつでもどこに変わっても良いし、掛け持ちでも良いと言われたからだ。それに案内してくれた人もなんだか人の良さそうな感じで、安心出来たというのもある。
「じゃあ、今日からここで面倒見る事になった、鮎川君だ。皆、よろしくしてやってくれ」
次の日の朝、皆が集まった頃に、菜園班の班長のルカードさんに紹介されたので、頭を下げながら、
「よろしくお願いします。鮎川 千皓です」
と、緊張しながら挨拶をした。大体10人くらいだろうか、口々によろしく、と返されながら割とフランクな感じで硬い印象はしない。ちょっと拍子抜けしながらも、ここの雰囲気はこんな感じなんだとちょっと安心した。
「最近はここの部も新人が減ってな、入ってくれてよかったよ。オレは副班長のザハーダだ。よろしくな」
ザハーダさんが僕の面倒を当分見てくれるそうで、早速案内しながら説明してくれた。大柄で結構がっしりした体格なので、ちょっと威圧感がある感じだ。この部には管理組合の関係者は、部長だけみたいだ。
「菜園も育成と研究に少し分かれててな、どっちも入り込むと専門知識が要るんが、最初は触りだけでも大丈夫だ。楽しんでればそう難しくないさ」
「はい。今までサボテンくらいしか育てた事無かったのに、職員の家に付いてる庭にいきなりカシガナとか植えたんです。けど、水とかどのくらい上げたら良いとか分からなくて」
「なんだ、もうやりかけてるのか」
意外そうにこっちを見た。
「えと、はい、そうです。一昨日からですけど」
「一応、興味はあるんだな、よし、じゃあそいつからやってみるか」
大きく口を開けて豪快に笑いながら、歩き出した。笑うと人の良さそうな感じがして、最初の威圧感は無くなった。
「はい。ありがとうございます」
「ところでサボテンってなんだ?」
「えーと、植物です。あ、地球のです。こっちには無いんですか?」
「聞いた事無いな……どんなだ?」
「あ、ええと、砂漠に元々ある植物で、水とかあんまり要らないんです。後、刺が付いてます」
サボテンがどんな植物か聞かれて、たいして知ってない事に気が付いた。
「砂漠か……アストリューじゃ見ないはずだ。どこも霊泉水で溢れているからな」
「じゃあ、砂漠とか無いんですか?」
「ああ、無いな。植物の多様性を考えたらあった方が良いんだろうけど……。その代わり、水の中で育つものが多くなってるな」
「へえ……」
「外の世界のものをここで栽培して、ここで根付くか見るのも仕事だ。ここの環境に害が無いかとか、環境に合うかどうかを観察し研究するんだ。まあ、そこら辺は研究班がやってるから、こっちは許可の出たものを一般でも栽培しやすい様に品種改良したり、出来た品種を活用する方法を調べるんだ。まあ、調理方法とかだな。オレはそれが一番楽しみだな」
「じゃあ、ザハーダさんは料理とか得意なんですか?」
「ああ、昔はシェフを目指してたんだが、食材の追求をしてたら何故か野菜を作る方になっちまって……。ま、ここでは両方出来るけどな」
がははと笑いながらも、ちょっぴり照れが入っている感じで、見た目と違って意外と繊細なところもある見たいだ。いい人そうで良かった。
その後、カシガナの育て方や、特徴を教えて貰いながら、栽培している所へ案内された。と言っても扉をくぐるだけで、その場所に勝手に移動するのだけど……。大分これにも慣れたけど、いきなり森の中というのは流石に今まで無かったので、驚いても良いと思うんだ。
「わあ……すごい。綺麗だ」
どこかの岩山の上らしく、360度見渡せた。目の前には森がずっと続いていて、奥の方に湖らしいのが見える。その奥もずっと森のようだ。右手には川が流れていて、かなり蛇行し枝分かれしながら一部は湖に流れ込んでいる。左手奥には山が見え、ずっと奥の山からは煙が上がってる様に見える……火山なんだろうか。後ろは今いるような岩山のもっと大きな山があり、所々切り立った崖の所から水が流れ落ち、滝になっいた。沢山ある滝壺には虹が掛かっていた。
森の中は緑だけじゃなくて、赤や黄色に色付いた所があり、更にピンクや青まであった。あれも紅葉なんだろうか、それともそういう種類なんだろうか、なんだかワクワクするなあ。
「アストリューは自然豊かだからな。先にここにつれて来て正解だな。カシガナの野生種は割とどこでも見られるんだが、ここに一番多いからな。先に見といた方が良いだろう。割と強くて環境に順応しやすいんだ。だからか、環境で色や形が違っててな、だがここで多いという事は、この環境が一番合ってるんだろう」
「へえ、森にいたんですね……」
「ああ、だからか単体で植えるより、何かと植えた方が良いんだ。じゃあ、天気も好い、ちょっと散策行ってみるか」
「え、良いんですか?」
「そんな思いっきり期待に満ちた目で言われてもな」
「はっ、そ、そんな顔してますか?!」
自分の顔を触りながら聞き返してしまったが、そんな様子を見ながらザハーダさんは笑うだけだった。
「じゃあ、小屋に戻って着替えだ」
「はい」
少し下った位置に神殿と繋がった小屋が建っていて、そこに向かった。




