56 二重
◯ 56 二重
サレーナさんに連れて行って貰ったアストリューでの部屋は、部屋というより家だった。(先輩呼びは恥ずかしいのでと却下された)一階にリビング、キッチンお風呂にトイレ等があって、二階に書斎と寝室が一緒になった部屋があり、小さなバルコニーも付いていて、外には小さな庭まであった。使い方を一通り教えて貰い、分からない事があったらメールで連絡を、と言ってサレーナさんは帰って行った。
「ええと、こう、かな?」
家のメインシステムを呼び出した。温度調節や照度調節、模様替えも出来るみたいで、床の色や壁の色も自由に出来た。家具は支給される物の中から好きに選んで良いみたいで、どうしようかと迷っていたら、お勧めのインテリアセットがあったのでそれを開いたら、ちゃんとコーディネイトされた一式を見つけたので好みの物にした。
「こんなのかな……? あんまり凝りすぎてもすぐ飽きるから、シンプルでいいよね」
猫の姿にしたスフオラに話しかけつつ、すぐに届いた家具を整えた。霊泉で働く人は接客が多いので、そのストレス軽減に一人時間がとりやすい静かな設計になってるとかで、サレーナさんが帰った後は静まり返っていた。一人暮らしとか寂しいのが苦手なら、談話ルームに行くと大抵話し相手が見つかるらしい。出会いの場にもなってるそうで、時々カップルが出来るとか。トシが喜びそうだ、連れて来れないけど。
「でも、今日はここを使えるようにしないと……職員として働くのも感想としてレポート出さなきゃいけないし、この家の感想も書かなきゃいけないし。やる事が多いな……スフォラが居なかったら無理だったよ」
食料も買いに行かなくても、家具同様にすぐに魔法で届いた。うーん、便利なのか味気ないのかどうとるべきなのか……待たなくて良いというのは慣れない。そういえば、父さんが本を職場近くのコンビニに届くようにしたとか言ってた。家にいなくても、良く行くコンビニに届くようにすれば、そこで受け取れるとかで喜んでた。
「あれ、メール。宙翔からだ」
メールの通知音が脳内再生されて、宙翔の顔写真とメール内容が目の前に現れた。宙翔に皆のアンケート結果を送ってから、メールで連絡するようになった。スフォラに連絡を取れるように、アドレスを書いたメモを一緒に送ったのだ。
アンケートの中に、メレディーナさんのメッセージが入っていたので驚いた、とメールが届いたときは僕も驚いた。おかげで宙翔の曾爺ちゃんが腰を抜かしたらしい。僕もメレディーナさんがそんな事をしたのは知らなかったけど、おかげで宙翔に試作品があったら教えて貰える事になった。
僕はこっちに部屋を借りた事を書いて、住居番号も送った。これで宙翔はこの家に直接転移して遊びに来れる。というか早速来たようで、呼び鈴が鳴った。
「久しぶりだね」
宙翔が珍しく、服を着て玄関前に立っていた。
「本当だね、いらっしゃい。どうぞ」
ドアを広げて、中に入って貰った。あ、スリッパが無いや。
「さっき着いたところで、スリッパが無いんだ」
僕は謝りながら、リビングのソファーに宙翔を案内し、座って貰った。
「このままで良い。何か洒落た家だな、家とは大違いだ」
珍しいのか部屋を見回している。
「宙翔の家は和風だから、比較するのは難しいな……でも、あの雰囲気は好きだよ」
「そうか?」
「住んでると見慣れすぎて、良さが分からないのかも」
「うん、そうだな」
頭を掻きながら頷いた。ちょっと照れてるのかな。
「今日は、服を着てるんだね」
「姉ちゃんが、よその家に招待されてるのに、裸で行くのはダメだって言うんだ。アキは気にしないと思うぞって言ったら、余計に着ていけって無理矢理着せられたんだ。参ったよ。それで手土産も母ちゃんに持たされて来たよ」
「へえ、気を使わなくていいのに。でも、ありがとう。助かるよ」
温泉饅頭と柿が入った袋を受け取り、お礼を言った。お茶を入れて、貰ったばかりの柿を剥いた。
「どういたしまして。姉ちゃんのは神殿で働くとか言うのを聞いたからだな。憧れてるんだ」
僕の手つきが危ないのか遅いからか分からないけど、宙翔も一緒に剥き始めてくれた。さすが、饅頭作りで包丁使いも鍛えられるのか、すぐに剥き終わった。
「そうなんだ。やっぱりすごいの?」
剥き終わった柿をそれぞれ食べながら、話を続けた。
「そりゃ、エリートでないと、試験に受からないって聞いてるぞ。本当は姉ちゃんも神殿で働きたかったんだけど、人化が苦手で無理だと諦めたんだ」
「そうなんだ。人化出来ないと無理なのか」
確か、人間じゃない感じの方々も多かった気がするけど……。
「いや、あの制服というか、あの服が着たいだけらしい。人化した方が綺麗だからとか……動機が不純すぎて働くにはな」
「へえ、今日、デザインを考えてる人に教えて貰ったばかりだよ」
僕はサレーナさんに聞いた話を宙翔に話した。
「デザインや作るところがあるのか。神殿も色々やってるんだな。でも姉ちゃんはどうかなー、着る事に意識行ってるから作るのは……自分で服とか作ってるの見た事無いぞ」
「そういえば、宙翔は人化は出来るの?」
「出来ないな。練習したんだが、必要を感じないと難しいものらしい」
「ふうん、そういうものなんだ。毛皮で充分と思うけど、やっぱり女の子だと服とか憧れがあるのかな」
僕には折角の毛皮を堪能出来ない方が嫌だな。
「……服、脱いでもいいか?」
僕の毛皮で充分発言に押されたのか宙翔が聞いて来た。猫化スフォラを見て羨ましそうにしている。
「いいよ。着慣れないと窮屈だろ?」
「そうなんだよ、もう無理だ」
普通のTシャツに綿パンのラフな格好だけど、ダメだったらしい。その後、こっちでの食材とか素材で分からない物があったのを、色々聞いて夕飯を一緒に作る事になった。時々、宿の手伝いもしているらしく、料理は女将さんに教えて貰ってるそうだ。包丁も女将さん仕込みだったようだ。
「そうだな、こういうのは地球には無いって事か」
「うん、見た事無いよ。ショッキングピンクの野菜なんて、地球にあるのかな……」
そう思ったら、スフォラからこの食材はアストリューの固有種の物と教えられた。形はタマネギっぽいけど大きさは南瓜ほどある。名前もカシガナと言うらしい。恐る恐る切ってみると、中は白く真ん中に薄ピンクの種があった。目は痛くならなかった。
「ここの固有種だってスフォラが言ってるんだけど、この種って植えたらこれが出来るのかな……」
頭の中で、スフォラが野菜のデータを調べてくれて、育てやすい種類だと教えてくれた。スフォラに感謝して野菜と格闘し始めた。僕の包丁使いはやっぱりまだまだらしく、宙翔に要練習と言われた。ちょっぴり怪我をしたけど、霊泉の水(水道水)を掛ければしばらくすると綺麗に治るのでそこは便利だった。
「へえ、こいつ頭いいんだな」
ちょっと尊敬の眼差しでスフォラを見ている。僕もそう思う。最近のスフォラは本当に役に立つ、痒い所に手が届く感じだ。
「うん、助かってるよ。これ、庭で育ててみようかな。宙翔は何か知ってる?」
カシガナの種を見せながら聞いてみると、
「父ちゃんが裏庭で育ててるけど……帰ったら聞いてみるよ」
身近に育ててる人がいた。
「本当? 実際に育ててるなら詳しそうだよね、お願いするよ」
宙翔にその後も教えて貰いながら、なんとか出来上がったのを二人で食べた。余った料理は保存用のスペースに入れておくと、出来立てのまま保たれるのが分かったので、鍋ごと突っ込んでみた。食器がもう無かったのだ。これだとレンジでの暖めが要らないな。
宙翔が帰ってから、庭で野菜が育てれるか考えてたら、スフォラに家のメインシステム内に栽培専用の選択がある事を教えて貰った。明日はこれを試しに植えてみよう。




