53 良癖
◯ 53 良僻
「どうしたんだい? あんまり身が入ってないね、考え事してたら危ないよ」
陽護医師にそう言われて、はっと気が付いた。本当にその通りだと反省した。リハビリ中に何やってるんだか。
「ごめ……すいません」
「悩み事なら相談に乗るよ。やる気もコントロールしないといけないからね、どうなんだい?」
心配そうに覗き込まれて、目を合わすのが恥ずかしかったので思わず逸らした。
「そんなに言ってもらうほどの悩みじゃないです。というかただの考え事です」
なにせ、感想が中々文章にならないからと、変なペン作りにはしって現実逃避していたのだ。そんな事、どうでも良さ過ぎて、逆に恥ずかしくて言えそうも無い。
「どんな小さな事でもいいよ、笑ったりしないから、もっとリラックスしないと」
両腕を少し広げて手のひらをみせ、微笑んでいる……まあいいか。僕は感想に行き詰まって、変な事をし始めたのを言ってみた。
「ああ、別に変ではないよ。多分その行動で無意識と繋げようとしているんだろう。意識だけだと解決出来ない事を、無意識まで使って感覚を広げることで解決しようしてるんだ。それを何となく分かってるから、そういう行動になるんだよ。まあ、ペンに変な物を付けるのは、やり過ぎかもしれないが」
「そうなんだ。こんな事にも意味があったんだ……。意外です」
「……ところで、君は左利きなのかい?」
「あ」
ものすごく間抜けな事に、ペンを使うのは右手だけだった。お箸は左手の練習とかやった事があるから、使えたりするんだけど。今、右手の調子はペンを持って遊べるほどは回復してない。特に肩や、肘、手首などの関節に痛みが残っていて、腕をスムーズに動かすのは無理だった。
「間抜けなところもあるんだね」
表情で察したのか、陽護医師は笑うのを耐える様な表情で、明後日の方向を見ている。
「う……」
自分のバカさ加減をなんとかしたい。恥ずかしいを通り越して、自分でも呆れるくらいだ。肝心なところがすっぽ抜けてる。俯いて恥ずかしさに耐えた。
「何やってるんだろう……」
「まあ、落ち込まないで、方法はあるよ。ペンを触って色々と言ってたから、まだ完全にこれという動きには定まってないんだろう。別のアプローチも入る余地はあるはずだ」
陽護医師が大丈夫だと宥めるように、こっちを見ながら説明してくれた。
「えーと?」
「無意識の感覚と繋がれば良いんだ。今まで何となくだけでやってたのを、意識的に行う。そうだね、代表的なのは瞑想とかかな。難しいなら、単にリラックスするだけでも効果はあるはずだ。自分なりの無意識への繋がりを作る、という事かな。色々あるけど、大げさに考えなくていいよ。ペンが使えない状態でも出来るようにする良い機会と思えばいいよ」
「へえ……」
瞑想といえば、召喚の時にそういえばしたかもしれない。単に深呼吸して落ち着かせる為にしただけだけど。……あれで良いのだろうか。まあ、試してみよう。
「これが終ったら試してみます」
「そうか、慣れればスイッチを押したみたいに自然に繋がるよ。それにいつでも相談に乗るから、遠慮無く言ってくれると嬉しいよ」
肩に手を乗せられて、イケメンスマイルを向けられてしまった。
「ありがとうございます」
「じゃあ、続きをやろうか。もう大丈夫だね?」
「はい、すいませんでした」
「謝らなくていいよ、これも医師としての役割だからね」
そう言いながら微笑む陽護医師は、今までで一番爽やかに見えた。うーむ、昨日までの陽護医師はどこに行ったんだろう。メレディーナさんがきっと何かしたんだと思うけど、すごい変わりようだ。流石、女神様の治療だ。




