49 取扱
◯ 49 取扱
マシュさんからスフォラを支給されてから、霊泉で丸一が日経った。(あの後、マシュディリィさんの事はマシュさんと呼ぶ事になった)慣れるまで色々試したが、感想は便利すぎるんですけど、の一言だ。全部脳内で再生されてるらしいけど、映像とかは視界に直接画面が作られて、それを見る感じだった。こっちの時間と、地球での時間差も分かるようになったし、テスト勉強も調べたい事があったら、すぐに教えてくれるし、辞書いらずだ。
ネットもテレビもどうなってるのか見れた。ジェッダルの事件もテレビでは麻薬捜査として放送されてるだけで、進展は無かった。映像は見たいところだけピックアップしてくれるし、倍速、減速も自在だった。みそびれてた映画も観れたけど、映画を観て泣いてる時に、サレーナさんが来て焦った。勝手に心配させて気まずい思いをしたし、説明が大変だった。次からは人が絶対来ない状態か、実体化して見ようと心に誓った。
これは電話のときも、変な顔を誤摩化す為に実体化した方が良いかもしれない。脳内通信で喋らなくてもそのまま通じるらしいけど、どうしても顔の表情が変わってしまうし、声に出してしまうので、外でやると非常におかしい人に認定されてしまう。僕にはポーカーフェイスしながらのお喋りはまだ無理だ。
「スフォラ、出て来て」
それだけで、体からスウーっという感じで水色の球体が、胸の辺りから出て手の中に収まる。なんだか魂が抜けてる気分になる。僕の回復で浮いたままにも出来るらしいが、それはまだまだ先のようだ。
手に持って考える。形が変われば良いのになと、思う様に変われば携帯のように使う事も出来るし、ペットとしても動物の形になったりすれば……表情とか感情が分かり安くなるのにな。あーでも僕の力じゃ出来ないかな。まあ良いや明日、感想でマシュさんに伝えておこう。
「じゃあ、昨日伝えてあったと思うが、リハビリ開始だよ」
待ちわびてました、と言いたそうなぐらいの嬉しそうな顔で、陽護医師が言った。メレディーナさんが、罰を治療以外でのお障り禁止に格下げしたので、今日からリハビリが始まった。メレディーナさん曰く、陽護医師の病気(?)の矯正にもなるので治療の許可を出したとの事だ。それで良ければ協力して欲しいとお願いされては断れない。まあ、変な事は出来ないから良いか。
「あんまり寝たきりだと、筋力が落ちるだけだからね。まずはどのくらい痛みが残ってるか診る為に、少しずつ動いてみて貰おうか?」
何となく医者らしいことを言ってるので、大丈夫そうだ。左側はほぼ痛みは取れて動けるけど、右肩から指先までと、右足首は動かすと痛みが走った。特に足首は陽護医師に触られるだけでも痛みが走った。
「いっつ……」
僕が呻く度に涎を垂らしそうな顔で見るのは、止めて欲しい……。何が良いのかさっぱり分からない。
「ここは?」
「う……痛いです」
「なるほど。一応、左は動かせるから、立ち上がれるかな? 松葉杖だけでも使えれば良いんだけど」
「えと、わからないです」
「とりあえず試してみよう。ゆっくり、様子を見るだけだから……」
ベッドから降り体重が乗った瞬間、左足に激痛が走り、声を上げる事も出来ずに崩れかけたが、途中で陽護医師に抱きかかえられ、ベッドへと戻された。痛みのせいで汗が一気に出て、ちょっぴり涙が出た。
「大丈夫かい? んー、左足の骨は治ってるはずだが……やはり影響があったか。痛い思いをさせてすまない」
真剣な顔で謝っている、根は悪い人じゃなさそうだ。
「今日はこのくらいにしておこう」
「は、い」
「ふ、役得だ……泣き顔まで……」
後ろを向いて立ち去る時に、肩を震わせながら何か呟いていた……病気の矯正というより悪化してそうな感じだけど、大丈夫なんだろうか。その後、サレーナさんに、汗を綺麗にして貰って着替えをした。
「飲み物をどうぞ。リハビリは大丈夫でしたか? さっき陽護様とすれ違いましたが、何やら機嫌がよろしい感じでしたので……」
言葉を濁していたが、心配そうな顔だ。
「うん、大丈夫だったよ。なんとなく、僕のせいで病気が悪化してないか心配だけど」
飲み物を一口飲み、今日の陽護医師の感想を言った。
「そうですか。メレディーナ様から気を付けるように聞いておりますので、遠慮無く仰って下さい」
「ありがとう、そんなに気を使って貰えて有り難いです」
ちょっと照れながらお礼を言うと、
「そうですか? アキ様はお優しいですね」
サレーナさんは少し笑っていた。そのまま少し休むように言われて横になっていたら、いつの間にか眠っていて、目が覚めたら夜になっていた。寝過ぎだ。
仕方が無いので霊泉の感想の続きをやろうと、メモを探してたら、スフォラに脳内メモを教えられた。そっか、マシュさんがPCみたいに思っていい、とか言ってたな。予定の管理とかも出来るのかなと思ったら、すぐに予定表の画面が出て教えてくれた。なので、使ってみる事にした。
中間テストの日付やら、マシュさんとの定期調整の日付等の色々な予定を組んでいたら、そこに写真や動画も添付が出来て日記のように残せる事が分かった。ついでに日付を遡って、召喚されてからの事を、日付入れしておいた。
記憶の映像の添付まで出来たので、どうしようか迷ったがしてみた。会った人物の顔や名前の基本情報も整理して残しておいた。これで会ったときに忘れててもすぐに分かる。そう思ったら、自動で作成出来るようにセットされた、と画面に出た。便利すぎる……自分で記憶するのを止めてしまいそうになりそうだ。忘れてたらフォローして貰うぐらいにしておこう。
そんな事をしていたら、時間が経っていて感想を書くのを忘れていた。もう明日にしよう、早速予定に入れて眠った。なんだか眠ってばかりだ。




