48 名前
◯ 48 名前
「で、どうやって使えば良いの?」
具体的な話が出てなかったので、聞いてみた。
「ああ、持ち主の認証登録からだな。まあ、体の方の調節は終ってるから、意識の方と魂の波長を登録してと……こんなもんか? 気分は悪くないか?」
一瞬、乗り物酔いの様な目眩と、気持ちの悪さが来たが、その後は何ともないのでそう伝えると、
「何ともないなら、これで何日か様子を見よう。異常があったら、実体化してるときはここを押せば私に直接連絡を入れれる仕様にしておくから。後は、非常時の扱いと……ああ、一応持ち主にあわせて順応するから、使い込めばそれだけ使い安くなる。操作も楽になるぞ。もっと言うなら、自立思考も持たせれるが……そこまでするのは嫌がるのもいるからな、好きにして良いぞ」
「えーと? わかりません」
「……んーとだな。ペットを飼う感覚になる。頭の中に」
「へえ、いつも一緒にいられるってこと?」
そうだとちょっと面白そうだな。
「なんだ、興味あるのか」
「え、う、うん」
「ふうん、じゃあそっちのモードにしとくか」
「うん、形はこれだけ?」
マシュディリィさんの持ってる半透明の球体を指差して聞いた。何やら、銀色の文字っぽいのが、中に出てくるくる回っている。操作される度に文字と映像が、空中に表示されたり消えたりしている。
「ああそうだが、何か言いたげだな。悪いセンスじゃないはずだ」
うん、これはこれでカッコいい感じだけど。
「え、でも、この感じだとペットっぽくないかなと……」
「どんなのが良いんだ」
「もふもふとか……触って気持ちいいとか」
「…………」
何か冷たい目線が、刺さってくる。ま、負けないぞ!
「顔が無いのは何か愛着が湧きにくいかなと……」
僕がそう言うと、少し眉が動いて意外そうな顔で、
「それは一理あるな。考えとく」
と、言い頷いてくれた。良かった。少しは意見を通せたぞ。心の中で小さなガッツポーズをしつつ、ペットならなんて呼ぼうかなと考えた。
「スフォラにしよう」
「なに? どうした突然」
「え、名前……考えたんだけど」
「これのか?」
呆れと何か怪しげな顔でこっちを見ているマシュディリィさんは、ちょっと愛嬌が出てた。それとも僕がちょっと毒されて来たのだろうか。いや、慣れただけだと思いたい。
「うん、変かな?」
「いや、何とも言えない感じだが、良いんじゃないか? 名付けはペットの基本だな。どういう意味だ?」
「え、意味? 無いよ。……何となく語感で、音の感じで」
「……まあ、人それぞれだしな」
……おかしいだろうか。もうちょっと日本語的な名前の方が良かったかな。まあ良いや、この見た目になんとか太郎とかは似合わないと思ったんだ。何となく、外国語の舌足らずな感じが似合いそうだから、そうしたんだけどな。
その後、色々聞きながら扱いを覚え、モニター中の調整の他に、メンテナンスもあるからと説明された。ちなみに餌はいらないぞ、と念を押されたが、僕もそこまでは馬鹿じゃないよと答えといた。
「いや、鈍いから……どこまで言えば良いか分からん」
「……それを素で言えるマシュディリィさんも、ずれてる人だと思いますけど」
……何となく沈黙が痛い感じであったが、多分痛み分けだと思う。
「その台詞は時々聞くな、お前さんから聞くとは思わなかったが……」
それはそうだろうな、とは思ったが言わないでおいた。まあ、合う人もきっといるだろうし。そんなに苦手でもなくなってきたし。
「……まあ、気にしなくて良いです。今のところ許容範囲です。最初のを覗けばですけど」
「そうか、だが考えさせられるな」
マシュディリィさん的には、僕に言われたのがショックだったらしい。なんだか考え込んでる。何でだ……。
「……お前さん、は何か言われ慣れないので、アキで良いですよ、呼び方」
「どう呼ぼうが勝手だと思うが、いやというなら変えても良い。アキ?」
「ありがとうございます」
「何か気持ち悪いな、落ち着かない」
そう言いながら、急に苦虫を噛んだかの表情を見せ、背中を掻き出した。それは酷すぎるよ、折角お礼まで言ったのに。ちょっと拗ねるぞ。
「いや、悪気は無いんだ。ストレートなお礼に慣れてないだけだ。気にするな」
……なんて答えたら良いんだろうか、全く分からないよ。まあ、マシュディリィさんらしい、と言えばそうなのかも知れない、と僕はぼんやりと思った。




