45 饅頭
◯ 45 饅頭
「久しぶりだね、トウカちゃん」
部屋の真ん中で佇んでいた人物が振り返った。きれいな女の子だ。まだ小、中学生じゃないかな? 部屋にはいつの間にか椅子とテーブルが置いてあった。
「お久しぶり、レイ。元気そうで良かった。最近、噂を聞かないから、どうかしたのかと思ってた」
「やだなあ、この通りだよ。そういうトウカちゃんこそ、元気だった?」
「まあね、でも最近、あなたのおかげで忙しくなったかな」
ちょっと横目で、恨みがましそうにレイをちらっと見た。
「またまたそんな〜、恨みっこ無しだよ。どの道やらなくちゃいけなかったでしょ、早く手が打てて良かったじゃない〜」
「はあー、レイってばそういうときは調子いいのよね。思い出した」
手で椅子に座るように促しながら、女の子は肩をすくめた。
「それで、何か分かったのかな?」
「さっぱりよ」
「あれ、そうなの?」
レイが首を傾けて聞き直してる。少し残念そうな顔が見えた。黒スーツの人が皆にお茶を出してくれたのを受け取りながら二人の会話を聞いた。
「ええ、情報が漏れてた事も分かったけど、どれも今一ピンとこない物ばかり上がってくるわ」
不機嫌な顔を隠しもしないで、女の子は喋り始めた。
「そっか、大変だね、頑張ってね。ボクはそっちの事は口出し出来ないしね」
「よくいうわね。管理員にしてまで関わって来たくせに」
「えー、そんな事無いよ、考え過ぎだよ。そんな事、全然思ってないから、偶々だよ」
またしても横目で疑わしそうに、ちらっとレイの事を見た。レイは平然と微笑み返している。
「まあ、そういう事にしといたげるわ」
女の子はちょっと不満そうに、唇を尖らして腕を組んで仕方なさそうに頷いた。
「そお? 疑いは晴れたのかな」
レイがにこりと笑った。
「それでその管理員候補が、こっちの車椅子の子なんだけど、会いたがってたよね」
「仕方ないでしょ。一応形だけでも会っておかないと、そっちに渡すんだし」
腰に手を当て、方眉を上げてレイを睨んでるが、子供らしい感じだから迫力に欠けてる。
「んー、完全には無いかもよ、一応はここの住人でいるはずだし」
レイが首を傾げながら説明している。僕の事みたいだ。女の子がちらっとこっちを見てすぐに視線を外した。人見知りなのかな?
「そう? なら、手続きはすぐ出来るけど」
「そうしてくれると助かるよ。まだ、なんにも知らないからね」
何やら書類をどこからか出して渡している。
「確認だけど、夢縁にも入学する方向で良いの?」
テーブルの上で書類を広げて、ピンクの羽根ペンで何やら書きながら尋ねている。
「うん、お願いするよ。こっちと合わせてだから、融通聞く方がいいな」
書類を交換しながら、何やら話が進んでいる。
「ふうん、ご執心ね。感謝しなさい、留学生枠で許可を出したげる」
「やっぱりトウカちゃんに言うと、話が早くて助かるよ」
新しい書類を交換しながら、機嫌よくレイも何やら書き込んでいる。
「それは仕方ないわ。レイの要求が高すぎるのが悪いんでしょ」
「えー、そうかなあ」
「そりゃあそうでしょ、中々出せないわよ。ここに住んでるのに留学ってあり得ないんだから。私以外に誰が許可すると思うの」
「うーん、そういうものなの?」
「そういうものなの」
「相変わらずきっちりだね」
レイが肩をすくめて呆れている。
「当たり前でしょ。しっかりやらないでどうするの」
「ぶう、だってちっとも返事が返ってこなかったんだ、ちょっと文句も言いたくなるよ」
レイが頬を膨らませて拗ねだした。
「直接言えば良かったのよ」
そんなレイの様子にもしれっと返している。
「それだって、ちっとも連絡が帰ってこなかったんだもん」
「今、会ってるでしょ。文句言わないでくれる? これでも忙しいんだから」
「分かったよ。でも、せっかく用意してた温泉饅頭を、待ってる間に皆で全部食べちゃうくらいだったんだよ」
それを聞いた女の子は一瞬ぴたり、と動きが止まった。
「それはアストリュー霊泉のよね? ないの?」
顔を上げてレイの方を見ているが、米神に青筋がたちはじめている。
「うん、僕のは全部食べちゃった」
あっけらかんとレイが言い切った。
「なんでよ! ちゃんと残しときなさいよ! 誰よ食べたのは?!」
これは、完全に切れる手前だ。
「大丈夫、そこ開けたら霊泉だからすぐ用意出来るよ」
「そ、そう。ならいいわ……」
急に取り繕って大人しくなり、声を荒げた事をちょっと恥じるように視線を外した。
「アキの持って来た試作品もあるけど、食べてみる?」
振り返った女の子の目がきらり、と光った様な気がする。
「そんなに言うなら、貰ってあげる」
顎を上げて言い放ったが、威厳は全く出てなかった。どう見ても嬉しそうだったからだ。レイが僕の車椅子を押して来ていたサレーナさんにお願いして、持って来て貰った。もう一人の黒スーツの人が、お茶をもう一度用意しだした。お茶がちょうど配られたところに、サレーナさんが戻って来て温泉饅頭を並べはじめた。




