43 中間
◯ 43 中間
「もう、昨日は目が覚めないし、心配したんだから。階段から落ちたと思ったらまた怪我をして、どうしてなのかしら」
母さんが病院の椅子に座りながら僕と陽護医師に話しかけている。僕にとっては十日ぶりの母さんはいつも通りだった。それがかなり嬉しくて一番落ち着いた。
「母さん、ごめん。わざとじゃないんだ」
「バカね。わざと雷に当たるなんて無理に決まってるでしょ」
僕の返答が可笑しかったのか笑っている。
「う、うん」
まあ、確かにそんな事あり得ない。
「それより後が大変だわ、ガラスも割れてるし部屋に焦げ跡が出来てて、父さんとどうしようって言ってるのよ」
母さんは頬に手を当て、困った感じで眉をひそめた。何かを思案しているみたいだ。
「焦げ跡?」
「千皓が知らないのは仕方ないわね、気を失ってたから。結構大きな跡がついてるのよ、もう本当、どうしようかしらね。とにかくあれに直撃じゃ無かったから、無事だったのよね。良かったわ」
どうやら、そういう工作がされたらしい。
「家は無事なんだね」
「ええ、千皓の部屋だけよ。それは兎も角、しっかり治すのよ?」
頭を撫でられ、目でも念を押された。
「うん」
「うちの息子をよろしくお願いします」
「勿論です、奥さん。しっかり治療しますよ、息子さんは任せて下さい」
人の良さそうな笑みを浮かべながら、陽護医師はしっかりと母さんに取り入っていた。父さん達は夜に顔を見にくると言っていたので、ゆっくりと病室で待つ事にした。
点滴が落ちるのを見ながら、ここって個室だけど料金高くないのかなと一瞬考えたが、霊泉にあるから関係ないのかと思い直し、複雑な事になってるなと改めて思い知った。
レイと初めてあった後から、そういえば色々あったと思い返していたが、あの日からまだこっちでは三日しか経ってない事に気が付いた。なんだか倍は経ってる気がするけど変な感覚だ。
日が落ちた頃、トシが見舞いに来てくれた。
「お、雷に打たれたって? 超能力には目覚めたか? 何かやってみろよ」
顔を見た途端、ちょっと興奮気味にそんな事を言い出した。
「それは漫画かアニメの見過ぎだって。なにも出来ないよ」
「ちっ、夢が無いなあ。幽体離脱くらいあって欲しかったぞ」
心底悔しげに、そんなことを言う。
「む、う」
それは体験したかもしれない……。
「まあ、現実はそんなもんか。大丈夫か?」
「うん、何か痛いところが増えたけど、意外と元気だよ」
「そっか、よかったよ」
割と心配してくれてたみたいだ。
「心配かけてごめん」
「本当だぞ。ここはやっぱり、超能力にでも目覚めて貰わないと割に合わないな」
何やら漫画で見るような、念を込める動作をしながら冗談を言うトシを見て笑った。
「ぶっ、無茶言うなよ。まあ、試してみるよ」
「そうこなくちゃ、試したら出来るかもしれないだろ」
まだ諦めてなかったか。まあ、確かに出来たら面白いよね。
「もし出来たらどうする?」
「そんなの決まってるだろ? 超能力があれば、次の中間テストはばっちりだ。日程決まってるから勉強しとけよ」
「げっ、もうそんな時季か……本当に欲しくなって来たよ、超能力」
それでこだわってたのか、納得だよ。
「だろ? 答えが分かれば怖いもの無しだ」
腕を組んで頷きながら喋ってる。きっと超能力でのカンニングの方法でも考えてるんだろう、顔がにやけている。
「はあー、テストかぁ」
ため息が出た。一気に現実に戻された気分だ。とりあえず超能力は期待出来そうにないから、勉強するしかなさそうだ。




