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世界を繋ぐお仕事 〜非日常へ編〜  作者: na-ho
ゆけむりのむこう
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37 甘辛

 ◯ 37 甘辛


 次の日、紅芭さんお勧めのラーメン屋に案内されてお昼にしたのだけれど、かなり辛口で僕とレイはちょっと泣きながら食べた。


「クレハちゃん、これ、辛すぎない?」


 レイが遠慮がちに、恐る恐る紅芭さんに聞いている。


「え、そうですか? すごく良い感じですよ。兄さんもここは辛いって言うんですけど……この辛さが病み付きになるんです」


 [調度いいんだ……]


 食べるのを止めて僕達の顔を見比べ、困った様な顔で耳を伏せた紅芭さんは可愛かったけど、涙目な僕達はもはや誤摩化す事が出来ないくらいひりつく舌と喉の痛みに追いつめられていた。


「すいません、そんなに辛いですか?」


 紅芭さんが謝っている。


「まあ、個人の味覚だからしょうがないよ」


 [すごい辛党なんですね]


 ティッシュのお世話になりながら三分の一近くは食べたけど、そこで僕は音を上げた。この辛さはもう無理……。唇も腫れてるんじゃないかと思うくらい熱くて痛い。見ると蒼史は余り辛くなさそうなのを食べていた。僕の視線の先を見て、レイがブウと頬を膨らませ、恨みがましそうに蒼史を見た。僕達の視線に気が付いた蒼史は慌ててサッと目をそらした。まあ、言うに言えないよね。

 その後、伊奈兄妹は帰って行った。レイが二人が帰った後、これは口直しが必要だよ、仕事どころじゃないと言い張ったので、蒼史がお勧めしてくれた甘味屋に行く事にした。そこは甘さ控えめの素朴な味わいの甘味が置いてあってかなり良かった。


 [蒼史って意外と甘党なのかな]


 僕はレイに聞きながら宇治金時をほぐした。辛さでひりひりとした舌に冷たい氷が気持ちよかった。


「そうみたいだね、兄妹なのに味覚がこんなに違うなんて……」


 レイもお団子片手に首を傾げている。


 [そうだね、味覚は遺伝じゃないのかなぁ]


「あれは環境かな? それにしてもあれは辛かった。クレハちゃんの作る料理も辛そうだね」


 [……そうだね]


 今度こそ舌を満足させたのでレイは仕事に戻って行った。僕は一人温泉街をぶらぶらと歩き、土産物とかを冷やかしつつ宿に戻った。宿の玄関の広間にいる猫達と戯れ、思う存分癒して貰いつつ、毛並みを堪能した。すごく人に慣れてるのもあって大満足である。その後、温泉に浸かりに浴場の方に向かうとそこには大型の猫が泡だらけになっていた。


「やあ、さっきは弟達がお世話になって、ありがとうございます」


 [えっ?]


 一瞬、僕に話しかけてると思わなくて聞き返してしまった。


「ああ、宿の玄関の所で遊んでくれてたでしょう?」


 [あっ、弟さん達だったんですか。知らなくて……こちらこそ癒されました、お互い様です]


 わあ、猫に話しかけられたよ、ファンタジーだ。僕は内心感動していた。


「そうでした? 猫好きな方だなとは思ってたけど」


 [はあ、まあ、どちらかというと好きです。猫さんに向かって言うのもなんか、変なんですけど]


 僕は思い切って隣に座って体を洗った。ポンプに入っていてこれ一本で全身使えるという優れものだ。実際、霊泉の浄化でかけ湯をすれば綺麗になるらしいので、気分だけなんだそうだけど、言われてみれば洗わずに入るのはなんだか抵抗ある、たとえ幽霊状態でも。


「うん、洗えたかな」


 [毛が多いと大変だね]


 僕はほぼ同じくらいに洗い終わっていた。


「いや、そうでもないよ。慣れだよ。露天には行った?」


 言いながら露天に向かった。立ち上がると同じくらいの目線だ。


 [うん、昨日入ったよ、ゆっくり出来ていいね]


 少し奥まった所にあるせいか、周りに緑も多くて、ここのご主人が手を入れた庭と重なっていい景色だ。


「あー、うちはあんまり宣伝してないから」


 [宣伝?]


「うん、元々姉ちゃんが肌が弱くて、ここに来て、すごく良くなったんで、そのまま居着いたんだ。だから宿はゆっくりしてるんだ」


 [そうだったんだ。良くなって、よかったね。でも、こんなに綺麗な庭なのに何かもったいないな]


 その後、色々話をしてたら、猫さんは月坂 宙翔(つきさか そらと)という名前でここの宿の息子さんだとわかった。今は手伝いで温泉饅頭をお姉さんと作っていて、美味しく頂いたのと猫の足跡印が可愛いと褒めたら、姉ちゃんが喜ぶと嬉しそうに言っていた。あのマークはお姉さん案だったらしい。

 後、ここらしい観光って何か聞いたら、夜中に霊泉を見ると良いと言われた。今夜、誘われたので一緒に見る事にした。


「なんだ今、一人で泊まりなのか、一緒に夕飯も食べるか?」


 [え、いいの?]


「いいさ、弟達も喜ぶ」


 僕達は夕飯も一緒に食べる約束をした。一人じゃ時間を持て余して困る所だったから助かった。


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