36 個性
◯ 36 個性
食事の時間になったので女将さんが料理を運んで来てくれた。用意が終る頃に蒼史達がやって来た。紅芭さんは小振りの簪でまとめた髪が浴衣姿を引き立てていてとても素敵で、うっかりしてるとじっと見とれてしまいそうになる。
料理はやっぱり秋の味覚たっぷりの僕には贅沢づくしだ。というか僕の舌には贅沢すぎたみたいだ。とりあえず美味しかった。これに慣れたらダメだというくらいの美味しさだったので、元の感覚に戻すのはどうすれば良いかなんて考えたほどだ。
「いつの間にか皆さん仲良くなってるんですね」
紅芭さんが食事がほぼ終った頃に聞いて来た。
[え?]
「名前を呼び合う仲になってるので……」
「裸の付き合いはやっぱり距離を縮めるんだね」
とか言いながらレイが二、三度頷いてる。
「お風呂で一緒だったんですか? 兄さんもレイン様達と会った事、言ってくれれば良いのに」
紅芭さんが蒼史の方をみて眉を少し下げ、微妙に不満な表情を見せた。
「あれ、言って無かったんだ」
「はい、食事を一緒にとる事になったと聞いただけです」
「んー、まあ、ソウシはあんまり喋る方じゃないからね、喋り方も硬いし」
「そうなんです、話し方も直そうとしてるんですけど……本人が余りしてくれなくて」
蒼史の方をちらりと見て紅芭さんは軽く溜息を付いた。
「確かにちょっと時代錯誤な感じだよね」
レイが頷きながら言った。
「そうなんですよ、ほら、兄さん言われてるじゃない。時代に合わせるのも仕事ですよ」
紅芭さんが蒼史にちょっぴり頬を膨らませて、いつも言ってるじゃないと言わんばかりに責めた。
「う、うむ、そうか……」
蒼史は俯き、何やら真剣に考え込んでしまった。
「まあ、紅芭ちゃんも仕事の為だけじゃなくて、色々気を抜いていいんだよ、頑張りすぎてそうだよ」
「そんな事は無いです。このくらいで私には調度いいです」
「そう? まあ、それなら良いんだけどね。でも、ソウシはちょっと見た目も中身も硬いからね。アキはどう思う?」
[え、まあ、個性的かなとは思うけど……]
いきなり振られて、迷いながら答えると、
「ん、うまいね。個性としては良いけど近寄りがたさはあるよね?」
もう一度、念を押すように確認されてしまった。
[それは……まあ、あるかな、第一印象も硬い感じはしたけど、今は大丈夫だよ]
「うん、まあちょっと軟らかくしないと、取っ付き難いよ。アキみたいにとまで言わないから、ちょっと変わると良いんだけどな。まあ、これから一緒に居れば、嫌でも影響受けるし良くなるよ」
「はい、努力致します」
蒼史の顔が強張ってきている。
「んー、努力というより性格が丸くなればいいんだけどねぇ、まあいいか」
レイがやや諦めの入った気の抜けた感じで言った。
[レイもああいってるし、蒼史もあんまり考えすぎなくていいんじゃないかな]
「う、うむ」
困惑した顔で居心地悪そうにしている蒼史は、真面目な分ちょっと可哀想だった。でも、紅芭さんも言うように、確かに時代劇な言葉は日本の街中では浮きそうだ。
[プライベートと分けれれば良いけど、難しそうだよね言葉って。僕も敬語とか出来ないよ]
「アキはこれから覚えないとダメだろうね、まあ、慌てなくて良いよ。あ、ボクには敬語で話しかけたら怒るからね」
[うん、わかったよ。そういえば、みんな明日からの予定はどうなってるの?]
「ボクは明日からまた仕事かなぁ。あっちに戻った方が都合いいから元の所に戻るけど、アキは少しこっちでのんびりしたら?」
[うん、そうしようかな……]
「私たちも明日の午後には、地球の方に戻る予定です」
「あれ、もう戻るの?」
[そうなんだ]
「はい、仕事もあるので……」
蒼史にここら辺の案内をして貰おうかと思っていたが、仕事では仕方ないなと諦めた。後でお勧めの場所とか聞いてみよう。
「もっと休めば良いのに」
「いえ、休んでばかりだと体が鈍りますから……」
蒼史が相変わらず真面目に答えると、
「はあー、肉体派だね相変わらず」
そう言って、レイが呆れていた。




