29 霊泉
◯ 29 霊泉
案内された場所は広くて、もうそこだけで迷子になりそうなくらいだった。ホテル一個分はありそうな施設がすべて貸し切りだった。どうも見ていたら霊泉の従業員達のレイへの扱いがVIPな感じだから、きっとレイのせいなんだろう。庶民な僕はどこにいていいのかすらさっぱり分からない。なんせ、置いてる家具や調度品、内装やらすべてがどう見ても高級そうで、触って壊しでもしたらヤバそうな感じだ。そんな僕を見てレイが話しかけてきた。
「アキ、キミに壊せる物は今の所、無いと思うよ。ここの物は壊れない様に出来てるからね。多少暴れても大丈夫だよ」
[そうなんだ、それを聞いてホッとしたよ。なんだかどこも豪華だから]
「そう? 僕はよくわからないな。それより気分は悪くない? ここももう霊泉の影響を受けるからね」
[? 特に感じないけど、大丈夫だよ]
「そう、良かった。あ、紹介だったね。こっちがアキで、彼女はここの管理をしているメレディーナだよ」
[鮎川 千皓です。お世話になります。よろしくお願いします]
僕は緊張でちょっと固くなりながら挨拶した。
「私はこのアストリュー霊泉の管理責任をしておりますメレディーナと申します。ようこそいらっしゃいました。こちらでたっぷりと霊泉を御堪能頂けますように、精一杯お世話させて頂きます。安心してお任せ下さいね」
[は、はいメレディーナさん]
「お名前は鮎川様、と御呼びすればよろしいでしょうか?」
[え、あ、ええとアキで大丈夫です]
「では、アキ様とお呼びいたしますね」
[は、はい]
「そんな緊張なさらずに……大丈夫ですよ」
メレディーナさんが柔らかい表情と優しげな眼差しで、ゆっくりこっちを見ながら語りかけてくれた。僕は多分、それだけで顔が赤くなってたと思う。
「まあ、ずいぶんかわいらしい方ですのね」
レイの方を見ながらくすくす笑っている。
「そうなんだー、メレディーナも気に入ると思うよ」
「ええ、本当に」
二人して何やら分かった様な顔で笑い合っている。
「アキ様はこちらが初めてという事で、まずは案内をさせて頂きますね。サレーナ、アキ様の案内を」
「はい、畏まりました。ようこそいらっしゃいました、アキ様。こちらでの案内とお世話をさせて頂きますサレーナと申します。ご満足して頂けますように頑張りますので、よろしくお願いします」
優雅なお辞儀で挨拶された。
[はい、こちらこそお願いします]
またもや緊張しながら頭を下げる。う、僕、浮いてないかな……周りになじめてない感じがするよ。
「では早速、施設の案内と説明をさせて頂きますね。どうぞこちらへ」
サレーナさんは僕を連れて色々と説明をしてくれた。部屋は気に入った所を好きに使って良いそうで、後でお気に入りの部屋を見つけて下さいと言われた。
「ここ、アストリュー霊泉は神々の癒しの場として、開発されて現在の様になったのですよ。異世界間管理組合とも共同で事業の方を進めてますので、遠慮なさらないで下さいね。組合の方の保養所としても存在してますから。霊泉の効能は癒しと治癒促進、高い浄化の効果があります。源泉は効能が高すぎて逆に気分が悪くなる方もいるほどですので、目的に合わせて少しずつ違った霊泉へと変えて提供しております。勿論、ご希望があれば源泉へと案内はしておりますが、大抵御気分が悪くなるので入浴はお勧めは致しておりません。ご了承下さいね」
[へえー、すごいんですね]
「ええ、とても自慢の霊泉ですわ。それにレイン様はここの霊泉とはお力との親和性が高く、効能の凝縮や美肌効果を高める事が出来ますので大変助かるんです。ですが長らく来て下さってなかったので、特に女性の集客が落ちてまして……こちらにお見えになると聞いたときは、皆で大歓迎をと盛り上がってました」
[美肌効果……]
何かレイらしいなあ。でも、それを聞くとあの歓迎ぶりもなんだか納得だ。特に女性に人気なのも美肌効果のおかげということか。




