27 分離
◯ 27 分離
「えーと、後なんだったかな? そうそう、キミの家族なんだけど、ちょっと暗示をかけさせてもらったよ。その、キミが雷に打たれた事にして倒れてしまったように偽装したんだよ。まあ、瘴気の傷がやけどみたいだからね。夜中に救急車で運ばれた事にしたから。で、入院という形でゆっくり治療出来るように態勢を整えたから安心して」
[え、雷に打たれた……]
「そう、窓辺で外を覗いてたときに、残りにかすって感電した事になったから。まともに当たったら死ぬからね、そこら辺はうまく暗示で誤摩化されてるから、こっちからは言わない様にね」
レイが肩をすくめながらそんなことを言う。
[そ、うなんだ。でもまた、心配かけちゃうな]
「んー、そこら辺も少しフォローしとこうか? 希望があればあんまり心配しないしすぎない様に出来るけど……どうする?」
[うん、そうして欲しい]
「そう? じゃあそうしようか。後は何か聞きたい事あるかな?」
[えーと、体はどこにいったの?]
「ああ、隣の部屋だよ。見てみる?」
[どうなってるのか見ておきたい。……グロい事無いよ、ね?]
鍵村達に殴られた事を思い出し、死にかけてると聞いては嫌な想像しか出てこない。
「……大丈夫だよ、殴られた腫れは治しといたよ。顔を殴るなんて、最低だよね」
レイは何かを耐えるように拳を握りながら力説している。きっと殴られた事を思い出してるんだな……そっとしとこう。そういえば、蒼史さんが瘴気を受けたって言ってた。あの時の背中は蒼史さんだったのか、あんな不気味な物を受けて大丈夫だったんだろうか。後で会えるかな。
レイに連れられて隣の部屋に移動した。後ろから女性と男性が付いてくるのが分かったが、あえて後ろは振り返らなかった。どう対処していいか全く分からない。
「えーと、こっちだよ」
なんか、近未来の映画に出てきそうな、透明なカプセルっぽい中に体が横たわっていた。右肩から腕にかけてと脚が赤く腫れていて、所々に黒いまだら模様が浮かび上がりなんだか痛々しそうだった。僕ってこんななんだ。鏡で見る感じとは違った印象に見えるので変な感覚だ。……中学生に間違われるはずだ。ちょっと気落ちしながらそんな事を思った。
[思ったより酷くなさそうで、良かったよ]
「そう、良かった。やっぱり顔だけでも綺麗にしとかないとね……印象が違うから。体の方はキミの許可を取ってから研究させてもらおうと思って、先に魂の方をスピリットと一緒に取り出して……霊魂って言った方が通じるのかな? まあ良いや、今のキミの状態にして少しだけ時間を早めて、話をしても支障無いくらいに回復させたんだよ」
[え、回復? そんなに悪かったんだ]
「うーん、まあそうだね、それについてはまた後で色々説明するよ。後ろの御仁が我慢出来なくなってるみたいだから、先に手続きを許可して欲しいんだけど……どうかな? クレハちゃんやソウシ、他の管理員達がなるべく安全になる様に研究したいんだけどな?」
[う……]
返事をしようと思った瞬間、僕はまた悪寒が背中を走るのを感じた。後ろから何かが襲ってきている感覚がする。
「マシュ! 市松クン、外に連れ出して!」
またレイが青筋を立てながら男の人に指示した。言われた男性は暴れる女性を羽交い締めにしながら、外に連れ出して行く。
「大丈夫! 3日以上の体の拘束はさせないから、それに、監視する人もつけるし変な事したら即、契約違反で罰を与えるよう契約に盛り込んでるし、だから安心して……? 異常に仕事熱心なだけだから……多分」
僕はレイが目を逸らして小さく呟いた“多分”を珍しく聞き逃さなかった。それだけ警戒しているのだろう。もう本能だ。
[多分?]
レイがはっとしてから慌てた。
「いや、まあ、その変態なのは僕にもどうしようもないんだよ。変態を矯正しようとしても無駄だし」
頬を掻きながら目をそらしつつ答えるレイを見ながら、まあ、確かに人の趣味は無理に変えれないかも……。
[本当に変な事、無い?]
恐る恐る聞いてみる。
「大丈夫! 検査研究だけしかさせないよ。約束するよ」
レイが必死に説得してくる。こんなに言うなら大丈夫かな……。
[うん、分かった協力するよ。]
「よかったよ、じゃあ早速契約だね」
ホッとした様にレイが顔の表情を緩めて、契約の書類を出し始めた。また前の時みたいに書類に手を当てていき、必要な契約はすべて完了した。協力により少しは報酬も出るらしい、それを聞いてちょっとホッとした。
「じゃあ、行こう……」
レイが話しかけてきたところで、マシュディリィさんが部屋に乱入してきて、
「契約はされたんだな? この体、貰って行く! くくっくくふふふふふ。これで研究が出来る、呪いにおかされ、弱った普通の体……あの瘴気に蝕まれて猶、生きている、これ以上無い状態っ。くくくくくっ……これで◯◯や×××で改造して……あれを注入して脳内には……」
言いながら体の入ったカプセルごと引きずって持って行った。最後は聞こえなかったが怪しい単語が聞こえた様な……。
[うあああああぁ]
僕は思わず悲鳴を上げ取り乱してしまった。
[うわあぁいやだぁー、離して……えぐ、うあぁーん]
レイが、体を追いかけようとしている僕を捕まえて止めている。
「全くもう!! マシュの奴は! 刺激させるなって言ってるのに、全然聞いてないんだからっ」
僕を抱きしめながら、文句を吐いている。
「ごめんね、あの人は周りの人に気を使うってのが出来なくて……会わせるんじゃなかったよ。配慮が足りなかったごめんね、ただでさえ弱ってるのに体から離されて、更に不安定になってるんだ。泣かないで、過敏に反応してしまってるだけだよ。大丈夫。忘れて……もう眠ると良いよ。目が覚めたら、たっぷり癒されようね」
言いながら、レイが瞼を押さえた。そこで意識が途切れた。
ありがとうございます。やっと一章が終った。




