26 威圧
◯ 26 威圧
気が付くとレイが心配そうにこっちを覗き込んでいた。
「気が付いたみたいだね。気分は? 大丈夫? もうちょっと寝てても良いんだよ」
[うん、でも僕どうなったの?]
起き上がろうと思ったら、手が透けてるのに気が付いた。
[っええっ? ……僕? あぁ、ゆ、幽霊?]
震えながら透けた両手を恐る恐る動かしてみる。どこから見ても向こう側が見える。
「あー死んではないんだよ? ぎりぎりだったけどちゃんと間に合ったから。ただ、キミが受けた瘴気がちょっと特殊で……体と魂を別で治療する事になったんだ。」
「そんな事より早く契約を!」
白衣を着た女性が、手に契約書らしき物を持って振ってこっちにこようとしているが、その横でその女性の腕を押さえる様にしている男性が一人いて、こっちには来れないようだ。何だあれは。
「マシュは黙って、まだ説明が終ってないから! 五月蝿くするなら契約させないからねっ」
レイに一括されて黙ったが、その女性は獲物を捕獲しようとしている肉食獣のごとく、舌なめずりしながらこっちを見ている。背中に悪寒が走った。何かいけない気がする……あれは、目を合わせちゃダメだっ!! 体中から冷や汗が出てくる感じがした。幽霊になったのに!!
「えーと、どこまで説明したかな……ああ、治療方法なんだけど、実はキミは今は体も魂もかなり弱っててね、呪の状態異常にも掛かってるし、生命エネルギーも落ち込んでる上に今回の誘拐で受けた瘴気とで、一気に回復はさせられないんだ。少しずつ回復させないと、どこに異常が出るか分からないくらいなんだ。だからしばらくの間、このままの状態で回復をさせてもらう事にしたんだ」
レイが後ろの女性をちらっと見たが、すぐにこっちを見直した。レイのこんな困った顔は初めて見る。
「で、魂の方はまあ、ボクと霊泉にでも行ってゆっくり癒しを堪能したらどうかなと思ってるんだ。で、体の方だけど、後ろの変た……あー組合の研究班の人でマシュディリィ クレェーラといって、その、研究が生き甲斐の人なんだけど、あー、キミの特殊な瘴気を受けた体が欲しい……じゃ無くて、体を研究したいそうなんだサンプルとしては、キミと蒼史がいるんだけど、蒼史はもう、一通り終ってるんだ。ただ、キミの場合は、複合してるからかなり研究しがいがあるみたいで……これからの敵対勢力がこんな風に搦め手で来るようなら、対応出来る様に研究して把握しておきたいそうなんだ。研究の成果によっては対抗、抑制力になる事が発明されるかもしれないしね。まあ、魂も要求されたけど断っといたよ、取れるデータだけ渡したけど」
こんなにレイが言い淀むなんて……よっぽど何かあるとしか言いようが無い。と言うか後ろの女性からのプレッシャーが怖い。無言でこっちを見てくる様子が異常な雰囲気だ、体が……いや、魂の状態なのに震えが止まらない。
「マシュ、威圧してどうするの! 怖がらせてたら契約してもらえないよ?! もう、後ろ向いててっ!」
レイが横目で睨みをきかせながら、マシュディリィさんに向かって叫んでる。




