25 深紫
◯ 25 深紫
「くそっ」
鍵村が突進してきた紅芭の攻撃を受け流しながら、苦痛の表情を見せる。どこか傷めているらしい。
「はっ」
足を狙った蹴りは当たるが倒れない、かなりタフだ。だが、紅芭も攻撃の度に少しずつ鍵村の動きが鈍くなっている事に気が付いていたので攻撃を止めない。少し開いた空間を利用して回し蹴りを入れたが、腕でブロックされた。だが、避ける事はもう出来てない。
「ち、しょうがない」
鍵村が呟き手を交差させて気を集中した。腕に何か仕込んでいたのか、それがはじけた途端に体中から瘴気が溢れ出した。
「な……」
さっきまでの様子とすっかり変わってしまった鍵村に力負けし、押され始める……たまらず離れた所を追撃されかけた時、蒼炎を腕に纏った蒼史が割って入った。
「兄さんっ!」
「大丈夫だ、千皓殿は組合の方に送った。いくぞ」
「はい」
二人が代わる代わる目まぐるしく攻防を繰り返し、鍵村との均衡を保つ。戦闘によって周りに積まれていた荷物が、次々に音を立てて崩れた。不意に足音が聞こえ、武藤が肩を押さえながら走ってきた。
「ここに居やがったかっ!!」
鍵村がそっちに一瞬、気を取られたのを見逃さず、蒼史が蒼炎を叩き込み、一瞬遅れて紅芭が放った紅炎が蒼炎と重なった。瞬間、炎の周囲を紫の光が奔った。
「ぎゃぁあああああ!!」
鍵村が衝撃で転げ回り叫んでいたが、地面に体を横たえたままこっちをみて警戒している。もうまともに動くのは無理そうだ。
「くそうっ」
鍵村がくぐもった声で悪態をつきながら睨んでいる。
「そこを動くな!」
武藤が鍵村を押さえながら、何やら模様が刻まれた拘束用の道具を出した。体ごと両腕までがっちりと固められ、瘴気も押さえられているようだ。
「武藤さん、後は……」
「ああ、手間をかけさせた。すまんな、後はやっておくから詳細はまた連絡する」
「分かりました。兄さんも早く手当を……」
紅芭は蒼史の顔色を見ながら、帰ろうと促した。
「ああ、だがあれのサンプルを貰って行きたい」
地面に残った未だに瘴気を放つ謎の物質を指差した。
「なんだ?」
武藤が駆けつけた捜査員の一人に鍵村を渡し、近づいて行った。
「何じゃこりゃ、厄介ごとのにおいがプンプンしやがる。付いてねぇ」
武藤が頭をかきながら悪態をつき、顔を歪めた。
「そうですね、これは調べなくてはなりませんね。少し分けて貰いますよ」
紅芭はそう言いながら物体を採取し、組合に報告に戻った。




