24 突入
◯ 24 突入
蒼史は怒りと後悔に襲われていた。先に忍び込んで、強引にでも渡しておけば良かったと今更ながら思う。また驚かせては悪いかと、飼い猫に頼もうとしたのだが、裏目に出たようだ。まんまと目の前で攫われてしまった。
「く、修行が足りぬな……」
「兄さん、こっちは捜査の方の協力を頼みました。拠点の方を押さえに行ってるようです。転移ポイントの行き先は判明しましたか?」
イヤホンから妹の声が聞こえた。
「ああ、今終った。情報を送る……先に行く」
「気をつけて、すぐ合流します」
スマホを操作し、情報を送った後、移転用の画面を開きスマホを地面へと置いた。すると立体紋様が現れた。しばらく動いていたが固定されたようで動きが止まった。蒼史は迷わず紋様の間に入り、通り抜けた。
蒼史は辺りをうかがいながら足下に転がっていた携帯を回収し、濃い瘴気を含み澱んだ空気が流れてくる方から話し声が聞こえるのを確認し、そちらに向かった。
3人か? 応援を待った方が良いか……。
そう思った途端に、今までに無い激しい瘴気を感じ、嫌な気分を何とか抑えて近づき物陰から様子を見る。
「なに?」
鳥肌が立ち、足がすくむ様な……そんな異常な瘴気の渦ができていた。禍々しい赤と黒の物体があった。生物の様にうごめいている……あれは一体何なんだと逡巡していると、男が倒れている人物に向かってそれを投げつけた。
その先に千皓の姿を確認し、防護を張りながら千皓の前へとダッシュしたが、謎の瘴気の渦は防護の意味も無かったかのように張った防護を打ち破り、蒼史を襲った。瘴気の勢いを殺せず、千皓を敷いてしまったが、大半は蒼史の体に掛かった。
「ぐああ……があっ」
蒼史は苦痛に体が硬直し、声が勝手に出るのを止めれなかった。
「なんだっ、こいつ!」
慌てた鍵村の声のすぐ後、
「兄さん!!」
紅芭の叫び声が響いた。
「もう追っ手が?! ずらかれ!!」
鍵村達が慌てて走り出した。
「逃がすな! 追え!! 尾藤! そっちは任せた」
武藤の声がし、後ろから5人くらいの捜査員達が走ってくる。
「了解!」
混乱の中、真っ白な光が淡く広がった。駆けつけた紅芭が兄を抱き起こそうと手を伸ばしたときに、それは起こった。
これは……お守りの浄化?
紅芭が目を細めて光を確かめれば瘴気を放っていた物質は、大半が動きを止め灰色に変わっていった。が、少量は鈍くなりながらも動き、しつこく生き残っていた。
「この物質はいったい……」
紅芭が見た事も無い物質に気を取られている間に蒼史が身じろぎした。
「ぐ、紅芭、千皓殿を……俺は大丈夫だ」
「は、はい」
千皓を見ると手足に掛かったようで、火傷の様に赤く腫上がって、そこに黒いまだら模様も薄く浮き上がっていた。意識は無く危ない状態だった。
早く手当をしなくてはと紅芭は焦る。こんな弱った状態であれだけの瘴気に触れるなんて、今も抵抗が弱くてじわじわと命が削られていっている。応急処置をしても危うい。
「千皓殿に渡すはずの霊泉のお守りで助かったようだ。早く運ぼう……」
その時、近くで物音がし、残党が逃げ惑っているのが分かった。一人がこっちに逃げてきたらしい。
「ち、貴様ら……死んでなかったか」
鍵村が言いながら瘴気の固まりを投げつけてくる。が、紅芭の紅炎を纏った手で破砕された。
「よくも兄さんを……」
相手を睨みつけて紅芭は突進した。




