18 調査
◯ 18 調査
気が付くと、リビングのソファーを占領して横になってた。いつの間にか側でお福さんも一緒になって寝てたみたいだ。まだ、ダルい感じで、喉の渇きにキッチンへと水を飲みに行こうとしたが、起き上がれなかった。
力が入らない。やだなあ、こんな所で寝てたから風邪でも引いたのかな。怪我とのダブルパンチは遠慮したい。
「……っ!」
叫んだつもりが声にならなかった。二階から知らない男女が降りてきていた。泥棒?! いやに堂々とした泥棒だ。違うのかな、玖美の友達だろうか? いや、塾に出かけるとは聞いてたけど、誰か来るなんて聞いてないぞ、ってこんな格好のときに……。
「あれ? 目が覚めてるぞ」
「本当だー。おかしいなぁ、ちゃんと術が掛かってたはずなのに」
「効いてなかったのか? そうだ、覚醒者だ」
「そうなの? あんな状態で?」
「依頼書は読めって言ってるだろ、ちゃんと書いてあったぞ」
「どうせ、優基が読むんだから良いでしょ、って優基も忘れてたじゃん」
「俺のせいにするなよ、情報はちゃんと共有してないとやりにくい」
僕がパジャマ姿で焦っていたら、何やらヒソヒソ話しながらこっちに近づいてきた。
「えっと、怪しいもんじゃないです」
男の方が声をかけてきた。
「お……き……っ」
答えようとしたけど、かすれた声しか出なかった。
「いや、それ、思いっきり怪しい人じゃん」
女の方が男に突っ込みを入れた。僕の台詞を代弁してくれてる。どう聞いてもこの状況では怪しさ全開だ。
「あー、仕切り直して良い? えー、異世界間管理組合からの要請により調査に来ました。成田 優基です。で、こっちが沖野 愛美」
首の後ろを掻きながら、慣れない感じで自己紹介された。なんか頼りない感じだけど、どうやら管理組合の関係らしい事が分かってちょっと落ち着いた。
「そ、れは……ざわざ、こ、ちらこ、「あー、水持ってくるよ」」
途中で沖野さんが言ってくれたので、持ってきてもらう事にした。
「あー、術が効いてるから動きにくいんだ。鮎川 千皓、君だよな?」
そう言いながら、成田さんがソファにちゃんと座らせてくれたので、頷いて肯定した。沖野さんが持ってきたグラスから成田さんが水を飲ませてくれようとした。そこまでされるほどでは……しかし断ろうにも腕を上げるのも億劫だし、何より声が出ない。他人にこんなにされるなんてなんか気恥ずかしいが、されるがままに水を飲んで一息着いた。
「あ、ありがとうございます」
「ぶっ、赤くなってるー、かわいい〜」
なにげに凹む台詞が聞こえてきたせいで、余計に顔が赤くなる感じがした。
「う、え」
「ねえ、歳幾つー?」
まだ笑いながら、沖野さんが隣に座り聞いてきた。
「こら、いい加減にしろよ」
「えーだって、中学生くらいでしょ、可愛いじゃん〜、優基には無い純粋さがあるしー」
う、中学生?! 更に凹むような台詞が聞こえてきた。
「バカな事言うなよ、いいから帰るぞ」
「えー、ちょっとくらい、いいじゃん」
沖野さんが腕を絡めてきた。う、柔らかい感触が……顔の熱が上るのを感じた。
「あー、俺たちは調査に来ただけだから、またそっちには管理組合の方から連絡あると思うし、あー、俺らアルバイトじゃあんまり分かんないから、そっちで確認してくれ、じゃあな。ほら、行くぞ」
ちょっぴり不機嫌さを滲ませながら僕に言って、沖野さんに呼びかけた。腕を絡ませているのが気に入らないんだろうか? 微妙な嫉妬を感じる……沖野さんのはわざとっぽいけどな。
「待って、これって霊傷じゃない?」
僕の右手の指先を見て、何やら慌てている。
「はあ? 本当だ。これ、どこでやったんだ?」
成田さんが真剣な顔になり聞いてきた。
「これはさっき、椅子の下に貼ってあったシールをはがそうとしたら、「椅子の下? どこのだ?」」
「僕の部屋の「もう一回見てくる」」
成田さんが二階へと上がって行った。
「ごめんね、優基ってせっかちだから」
「う、うん、でも、触ったら消えちゃって。もう無いと思うんだけど」
「そうなの? まあ、残滓くらいは分かるわよ、多分だけどね。えーと、これも一応撮っておきたいから、撮らせてもらえるかな?」
よく見ると赤くなってた指先が、赤と紫の斑になり何かの模様みたいになっていた。了承すると取り出したスマホで傷を写真に撮られた。
「これで良しっと、どうだったー?」
二階から成田さんがスマホで何やら話しながら降りてきた。
「起動方法? 何それ、情況? ちょっと聞いてみる」
「あー、とりあえず触った時、どんな情況だった?」
成田さんがこっちを見ながら尋ねてくる。
「情況?」
「部屋に行った方が早いな」
言うか早いか、抱き上げられた。
「うわっ」
「耳元で大声出すなよ」
「す、いません」
「えーいいなー、優基〜、わたしも抱っこ」
僕は良くない〜と心の中で呟きつつ大人しくした。
「愛美は黙れ」
「えー、差別だー」
話しながら二階へと姫抱っこで連れて行かれ、ベッドの上に乗せられた。と思ったら、成田さんがベッドの下を覗き込んでいる。
「本人起動でもないか、反応しないな。何か切っ掛けがあるはずなんだが」
「切っ掛けかぁ、呪文とか、音とか? なんか無かった? 千皓クン」
「え、えーと音? 妹が曲かけてたけど……」
何かそれじゃない気もするけど。
「それか?」
「何の曲?」
「ジェッダルって言うアイドルの曲で、妹が好きで良くかけてて」
確か、前に買ってあげたCDも同じアイドルだったはずだ。
「あ、わたしも好きー、タキくんがかっこいいんだー」
「一応かけてみるか?」
「はいはい、わたしスマホにダウンロードしてます。かけるよ?」
曲が流れた。また成田さんがベッドの下を覗いている。
「ち、手が込んでる。これじゃ分からないはずだ、見てみろよ愛美」
「えー、千皓クン、向こう向いててね?」
「は、はい」
ちょっぴり恥じらいながらお願いされて、慌てて壁の方を向いた。
「うわ、反応してる……。これは動画で撮った方が良いかな」
「だな、一旦止めて、始めから。いけるか?」
「うん……」
ごそごそと、ベッド下で何やらやっているが覗き込む訳に行かない。その後も成田さんがスマホで誰かと話をしだして、色々検証が行われた。違う曲や誰も部屋にいないバージョンやら、どの距離で反応するか等だ。
「ごめんね、怪我してるのにこんなに付き合わせて。体、痛くない?」
沖野さんが表情を確かめながら尋ねてくれる。
「は、はい。こっちこそお茶も出さずに。すいません」
「いやーん、かわいい事言ってくれてー。優基も見習いなよ」
唇を尖らせながら成田さんに向かって文句を言ってる。うーん、完全にダシに使われてるなこれは。
「……お前な」
苦々しそうな目線が帰ってきた。
「そろそろ帰るよ。あー詳しくはそっちの組合から連絡来ると思うから。えーと下にいたから戻すか」
また、そう言いながら抱き上げられて、リビングまで運ばれてしまった。
「後、10分くらいで術も切れるから、体は動くはずだ。協力ありがとな」
そう言ってイケメンスマイルを向けられた。なるほど、この効果で沖野さんがああなるのか。勉強になったような、参考になるのかな、これ?
「結構ギリギリだったね」
「ああ、俺たちだけじゃ分からなかったよ。助かった、じゃあな。また会うかもな」
「はい、その時はよろしくお願いします。えと、ありがとうございます」
僕は軽く頭を下げた。まだあんまり動けない。
「じゃあまたねー、千皓クン」
沖野さんが手を振って来たのでなんとか手を振り返し、二人が玄関に向かって出て行くのを見送った。




