148 交流会
◯ 148 交流会
気が付くと、12月に入り、管理員の新人交流会の日が来た。場所は良く知らない世界のどこかの惑星だった。月が三つもある……。それを眺めながら酷く遠い所に来たんだと感じた。開催担当の人にお礼を言った。
「やあ、良くこんなの見つけたな、こんなレアな依頼。中々こういうのは見つからないんだ」
何の事だろう、よく分からないので適当に返事をしてみる。去年入った新人でトーキュさんがうらやましそうにこっちを見ていた。去年と言っても組合でのカレンダーはまたちょっと違う。大体、地球の倍だ。
「そうなんですか」
「そうだよ。こんなちゃんとした仕事なんて、中々新人に回って来ないからさ、してやられたって感じだぜ」
こちらももうすぐ一年目が終るというマークスさんだ。
「ちゃんとしてますかね」
「俺なんか、パシリだよ。いつもそこの備品を補充しとけとか、買い出しとかそんなだ。レポート作成だとかまだましだぜ」
「俺の所もそんな感じだ。上の奴がうざくてたまんないんだ」
「そんな事いってるから、仕事が貰えないのよ。気にしちゃダメよ? こんなだから仕事が貰えないって分かってないのよ」
この人は二年目のヒホリさんだ。この三人が開催の準備をしていたみたいで、この仕事依頼を見つけて取ったそうだ。ところで何時まで新人と言われるのだろう。それとなく聞いてみる事にした。
「この新人の交流会って何年くらいまでの人が集まるんですか?」
「新人って言ったら、三年までだろ?」
マークスさんが当然だろって顔で、こっちを見て来た。
「そうよ、確か二年間はここに顔を出せるけど、三年を過ぎたらもう一人前になってないとダメなのよ」
「じゃあ、ヒホリは今回でラストだな」
「トーキュももうすぐでしょーが」
噛み付くみたいにヒホリさんが、トーキュさんの嫌みの入った笑みに反応していた。
「研修期間は免除だからな、ちゃんと計算してみろよ」
「そうなんだ、それはいい事聞いたわ。三ヶ月も研修期間があったんだもん、半年後のがラストよ」
「半年に一回あるんですか?」
交流会の情報が入った。
「そうよ、なに? あなた今回が初めてなの?」
「え、と、まあそうです」
「それでそのクエストに当たるなんて運がいい奴だぜ、何処で見つけたんだよ」
マークスさんが聞いて来た。
「え、あの、アストリューです」
「……なんだ、サービス業か」
聞いて損したという顔で、急に態度が変わった。
「ああ、取り潰しになるって噂のあそこなの?」
ヒホリさんがそんな事を聞いている。何処でそんな事を聞いたんだろう、間違ってるよその情報。
「なんだ今頃焦って、そんなアンケートとか取ってるんだ?」
トーキュさんも同調して、可哀想な目を向けて来た。
「お前、馬鹿だな。そんなとこの仕事とっても出世は出来ないぜ?」
マークスさんまでそんなことを言う。出世と言われても今一、ピンと来ないな。管理員事態を今一分かって無いせいだけど……。まあ、今日のテーマだ、我慢して情報を取ってくるように言われている。
「そうよ、一回行ったけど、ど田舎で、なんにもなかったわ。温泉だけが唯一の辛気くさい所よ」
でも、限度があるよ……僕だって不機嫌になる。
「げぇ、そんな所、何の仕事だったんだよ」
「さあ、もう忘れたわ。いいからもう行きましょう」
「ああ、大分集まったし、始めの挨拶だな」
「一応、正式に頼まれたから紹介するけど、アストリューじゃ、回答は望まない方が良いわよ。それとも何か良い情報があるなら、アストリューの名前は伏せてあげるわ」
む、なんだろう、その恩着せがましい言い方は……。良いと思ってる人もいるかもしれないのに。それにアストリューは無くなるなんて聞いてないよ。その事を言おうかと口を開いたら、
「おい、よせよ」
横から、トーキュさんが止めてくれた。
「何よ、後輩に教えて上げてるんじゃない。ここでのやり方を」
「そんな、初参加の奴が情報なんて持ってなんてないだろ? ばあか」
マークスさんが、諭す様にヒホリさんに言って、軽く頭を叩いた。
「はっ、それもそうね、損したわ。ありがと止めてくれて」
ヒホリさんは直ぐに笑って、気分を直したみたいだ。
「それより早く行こうぜ」
僕を置いてどこかへと小走りに去って行った。どうやら、あの人達にはアストリューはそんなイメージなんだ。
「皆さんようこそ、恒例の新人の為の交流会に参加して下さいました」
そんな感じで挨拶が始まった。参加人数は154名だそうだ。皆で情報交換なり親睦を深めるなり、パートナーを捜すなり自由に過ごして下さい、と説明している。
最後にアストリューから、アンケートが配信されるので興味のある方は答えて上げて下さい。可哀想な後輩の為にも、と僕を指さしてご丁寧に頼んでくれた。周りが爆笑の渦に包まれたが、全く面白くない。アンケートの事がなければ、さっさと帰りたかった。気分が悪かったが、頭を軽く下げて周りにお願いしておいた。
「よう、新入りには良くある事だよ、気にするな。俺はヴァリーだ」
手を出して来たので握手をした。褐色の肌に銀色の髪だ。目立つ人だな。
「あ、ありがとうございます。アキです」
「で、アストリューにいる訳じゃないんだろ?」
「いえ……あそこ出身なので」
レイ達と考えた設定ではそうなっている。
「そうか……それじゃ気分悪いな。ちっ、あいつら人の気持ちを考えやがらねえ、嫌な奴らだな」
「まあ、彼らにはその話しはしてないので……」
頭を掻きながら説明をした。
「それでもだよ。他にもそこ出身の奴だって、いるかもしれないだろ?」
「そうですね、傷つきますよね……」
僕でさえそうなのだ、本当にアストリューの人ならあれを聞いて怒るに決まっている。
「アンケートは答えてやるから、気を持ち直せよ」
「はい、ありがとうございます。ヴァリーさんはここに入ってどのくらいですか?」
「研修が二ヶ月で、採用から調度半年だな、この会合も二回目だ。どうもここの連中は、こんな奴らが多いみたいだな。俺なんか旅行が出来れば何でも良いんだがな」
「異世界の旅行は興味ありますよ。まだ、出た事ないですけど……」
「仕事のついでに、ちょっと立ち寄る、とか出来るからここを選んだんだ。あいつらも人気の職業だとかを追いかけるんじゃなくて、もっと自分のしたい事を追いかけろって言いたいよ」
「ヴァリーさんまたそんな事を言ってるんですか? そんなだから、周りから浮くんですよ。自覚して下さいよ?」
若草色の髪の人が、話しかけてきた。
「んあ、嫌な奴が来た。俺はもう行くわ、じゃあな」
僕の耳元でそう言って、人ごみの方へと逃げて行った。
「あっ、待って下さいよ……」
後ろを若草色の髪をした人が、追いかけて行った。僕は飲み物を貰って各グループに別れている人達を眺めながら、自分はどのグループに属するんだろう、とぼんやりと考えていた。まばらにまだ何処にも入れていない人がいるな……。同じ境遇の人かもしれない。
近くに居た人に話しかけてみた。何故か嫌そうな顔をして去ってしまった。違う人に話しかけてみたら、返してくれた。
「やあ、僕も今日が初めてで、全然訳が分からなくて……」
頭を掻きながらホリィングさんは、情けない笑顔をこっちに向けた。
「僕もです。みんなグループになってるけど、何処で知り合ったんだろう」
「ああ、知らないの? 新人や、研修中の人専用の情報が見れるコミュニティーがあるんですよ。そこで皆、自分の希望する分野を探して仲間を集めてるんですよ」
「へえ、そんなのがあるんですか……。僕はまだ管理員用のネットに入ったばかりだから……」
「なんだ、本当に入りたてなんだ。それなら仕方ないよ」
「今度、見てみます。ところでホリィングさんは……」
「ホングでいいよ」
「ありがとう、ホングさんの希望は何ですか?」
「僕は審判とかになりたいんだけど、これを言うとみんなに避けられてしまうんだ」
ちょっと迷った顔をし、少し寂しげな笑顔で答えてくれた。審判というと、この前会った真偽の審判だよね?
「すごいですね。嘘とか分からないとダメですよね?」
一応確かめてみると、頷いている。嘘だけじゃなくて、法律系の勉強もだから大変だよ。
「そうなんだ。だからみんな避けるんだよ」
悲しそうな顔でホングさんは俯いた。確かに、真偽の見極めは緊張したかもしれない。
「はあ、なんか大変ですね」
「そうなんだよ。君もそう思っただろ?」
「う、ん。真偽のときを思い出すよ」
正直に、感想を言った。審判になる人に誤摩化しはきかないしね。
「え、研修員のくせにもう、審判の前に立ったのか?」
顔が引きつっている。
「あー、うん。そうなんだ、詳しくは話せないけど」
「うわ、どんなだった?」
真剣に聞いてくる。
「どんなって……えーと、普通でしたよ?」
ガクッと崩れながらホングさんは何だそれと呟き、額に手を当てて溜息をついて抗議の目を向けて来た。
「聞き方が悪かった。方法はどれを取ったんだ? 進め方とかどんなだった?」
「ああ、ごめん漠然とし過ぎだったね」
僕も自分の回答が不味かったのに気が付いた。
「それは良いよ、君が面白い奴だってことは分かったから、続きをお願いしてもいいかな」
苦笑いをしてホングさんは話を促してきた。
「いいよ」
僕はその時の事件の事は言わずに話した。方法は審判が指定して来て、一人ずつ前に立った事。星深零の間での審判の様子等を話した。
「ありがとう、参考になったよ」
嬉しそうにホングさんはこっちを見て笑った。
「本当?」
「ああ、なかなか経験する人は語ってくれないからね」
「え、そうなんだ」
「自分の罪を見られるのを怖がってるのさ……。でも君はちゃんと僕の知りたい事を分かってくれたみたいだ。罪を問うつもりじゃないのに、避けられるのは辛いからね」
「苦労してるんですね」
「出来ればこのまま友達になって欲しいよ。君の様な人は貴重だから」
「うん、いいよ。よろしくホング」
新しい友達が出来た。レイは嫌がるかな? いや、大丈夫だ、レイが苦手なのは罪を決める事だと思うから。
いつの間にか会場はグループから外れた人もいなくなり、盛り上がっているみたいだった。ヴァリーさんがこっちに向かって歩いて来た。
「お、仲間を見つけたのか? 良かったな」
「はい、ありがとうございます。えと、こちらはヴァリーさんで、この人はホングです」
つたない紹介だったが、お互い挨拶は出来たみたいだった。
「頼り無さげだったが、仲間が出来たなら良いか。で、二人とも希望は何だ?」
「その前に、自分の希望を言うべきだと思うよ」
ホングの目が、何故か冷たくヴァリーさんを見つめていた。
「あれ? 言ってなかったか」
ヴァリーさんはそんな様子のホングなど、気にもせずに問い返していた。
「旅行でしたよね」
僕はヴァリーさんの話を思い出して言った。
「そうか、お前には言ったんだった」
肩をすくめてホングの方を見て、納得したか? と目で問いかけていた。
「僕はまだ入ったばかりで、希望と言われた方が困るんだけど……」
空気が悪くならないうちに、自分の希望を言おうと思ったが、全くないので困った。
「そうだね、ネットワークも最近だって話だから、今からってところだろうね。僕は審判を目指してるよ」
ホングは僕のフォローをしてくれ、後半は少し挑む様にヴァリーさんに向かって言った。
「これはまた、厄介な仕事を選んだもんだ」
ヴァリーさんは本気でそう思っている感じで、嫌そうな目をホングに向けた。
「うわ、それ本気で言ってるし……」
遠慮のないヴァリーさんの視線に、ホングも負けずに嫌な顔をした。
「何だよ、悪いのか?」
ちょっとふてくされた表情のヴァリーさんがホングに聞くと、
「いや、そうじゃないけど、また個性的なのが来たと思ったんだよ」
ちょっと呆れているけど、おもしろがるホングの表情が見えた。
「それは褒めてるんだろうな?」
ヴァリーさんも負けずに妙な聞き方をしている。
「勿論だよ」
今度はちゃんと微笑んで握手を求めていた。
「ならいい、よろしくな」
その手を握ってヴァリーさんも笑った。その後、話は断罪の儀の話しになった。もう、そんな経験したのか、とヴァリーにも驚かれた。そう経験する事じゃないのかもしれない。レイですら、新人が撒きこまれるなんて、とか言ってた気がする。
「それで、罰はあったのか?」
ヴァリーが興味を示して来た。
「えと、無かった……じゃ無くてあったのかな?」
魔法の拘束は無かったけど、口頭では言われたなと思い出した。
「「どっちだよ」」
突っ込みがが揃った。なにげに気が合ってるよね、二人。
「えと、鍛えるように言われたよ」
「それが罰なのか?」
ホングが冗談だろ? という感じで聞いてきた。
「そうだよ。本当だよ」
「な、なんか神聖なイメージが……何かが崩れる」
ホングは頭を抱えて悩み出した。
「ぷぶはははっ、あっはっはっはっは、はははは……」
ヴァリーは何かつぼに入ったらしく、狂った様に笑っていた。
「ひー、ひー、酷い目にあった。……それでちゃんと鍛えてるのか?」
やっと笑い終わったみたいで、ヴァリーは涙を拭いながら聞いて来た。
「笑い過ぎだよヴァリー、一応は鍛えてるよ」
スフォラがだけど。
「まあ、気を落とすなホング、こいつはきっと例外だ。敷居が低くなってよかったじゃないか」
未だに頭を抱えて、そんなはずはないとか、でも彼は嘘はついてない、とかブツブツ言ってるホングをヴァリーは背中を軽く叩いて慰めた。
「そうだよ、ホングそんなに悩まないでよ、僕が悪いみたいじゃないか」
「「お前のせいだろう」」
即答された。え、そうなの? ねえ、ほんとに? おかしくない? ヴァリーが厳しい顔で続けた。
「そんな顔してもダメだぞ、お前がそもそもそんな訳の分からない罰を受けるからだろう」
そこなんですか? まあ、仕方ないだろう、そこは僕にはどうしようもない、文句があるならリシィタンドさんに言うしかない。
「そ、そうですね……ごめんねホング」
「冗談だよ、本気にするな。かなりショックだったけど、そういう臨機応変なものがあるって分かったからいいよ」
そう言って、ホングは晴れやかに笑った。どうやら立ち直ったらしい。
「そうか、答えが出たか。インテリはさすがだな」
「君こそ、人が悪いぞ。あんなに笑って……。分かるけど」
クククと笑って、ホングが今一責めきれてない台詞をヴァリーに言った。
「お前こそ笑ってるじゃないか、人の事を責めれないぞ」
「むー、そこは僕は怒って良いと思うんだ」
笑われてる身としては、何となく居心地が悪いんだけど。
「自業自得って言うんだよ、それは」
「その通りだよ、これも罰だよ君のね」
「言うんじゃなかった。ぶう」
もう拗ねておこう。レイのよく使う手だ、拝借しておこう。
「そういえば、この前、面白い罰が下されたというのを聞いたか?」
ヴァリーがホングに聞いている。面白い罰? 僕に向かってあれだけ笑った以上のものだろうか。
「ああ、あれだろう、幹部に文句をつけてこいって言う……」
ホングがすぐに答えた。あああ、あれなのっ? 何かさっき以上に不味い展開だ。僕はすぐそばのデザートを取って食べ始めた。
「そう、それだ。あれは実は要求した者がいるって聞いたが本当か?」
非常に恥ずかしいが本当だ。意外にプリンはおいしい。
「そう聞いている。権力のある方に文句を言えって要求した強者がいるみたいだ」
「ひゃー、やるねえ。言ってみたいもんだぜ」
「甘い物が好きなのか? そんなにがっついて」
ホングが誤摩化す様に食べてたプリンを見て、そんな事を聞いた。
「うん、美味しいよ」
「お前も、さっきの奴くらいがつんと言える人間になれよ、そんな訳のわからない罰を貰ってないで」
「うん。そ、うだね」
「嘘だ」
ギクリ。間髪入れずにホングが呟き、僕は咽せてしまった。
「おい、大丈夫か? 脅かすなよ」
ヴァリーが背中をさすってくれた。
「何でそこで嘘なんだ……?」
ホングが首を傾げて聞いてきた。
「すいません」
僕は罪を認めた。ええ、その要求は僕ですとも。それを聞いて二人は呆れていた。
「やってくれるね」
ホングがマジマジとこっちを見て言った。
「見直したぞ、話題を作ったって事だしな。情報の発信源だ」
ヴァリーは上機嫌だ。
「全くだ。プリンで咽せてるなんて台無しだけど」
ホングが苦笑いしている。
「実物を見てがっかりってやつか?」
「いや、そこまでは思ってないさ。変な奴だと思って」
「確かに」
いや、そこは否定してよ。絶対普通だからね? 僕の感覚からしたら君達の方が普通じゃないよ?




