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世界を繋ぐお仕事 〜非日常へ編〜  作者: na-ho
あくいのろんど
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144 要注意

 ◯ 144 要注意


 知らない間に地元警察の中で要注意人物に格上げされた池田先輩は、その後は余り接触をしてこなくなった。転校するんじゃないかとの噂まで陽護さんから聞いた。何が起っているのか分からないけれど、僕にとってはホッとする情報だった。

 陽護さんから美術部への復帰の許可が下りたと言われたので、僕はそこに戻る事になった。まだ描きかけの僕の静物画が残っていたのには驚いた。先生に上から直された後が残っている。この濃い色の修正の箇所はどうすればいいのか分からない。上から重ねるんじゃなくて、横にでも書いて並べてくれた方が分かりやすかったな……出来れば違う紙に。僕はその絵をそっとゴミにした。使ってた画材は全部何処かにいってなかった。デッサンノートのみ買ったのがあったのでそれに描いていく。

 蔑みの目を描いていた。元受付に池田先輩、ファンクラブの人の目。……嘲り、見下している目は特徴的だけど、描けない。歪んだ表情に一瞬籠るあの感じをとらえる事は出来ない。諦めてその日は帰った。題材は違うものにしよう、描いてて自分でも段々気持ち悪くなって来た。


「やあ、よくも陥れてくれたね……うちの組は解散にまで追い込まれているよ。さぞ気分いいだろうよ。だが、そこまでだ。やられてばかりじゃないからね。こっちはイチカ様が付いているんだ。お前なんか必要ない。主人を区別出来ない犬なんて要らないからね」


 金曜の夜に家に押し込んでくるなんて何するんだ……ビックリだよ。ガラスを割って何人か引き連れて庭から侵入して来た池田先輩は、目の下に隈ができて顔色が悪く、気がふれてそうな雰囲気で、ゆっくりと土足で入って来た。イケメンが台無しになっている。

 イチカ様って誰だろう? また知らない人だよ。僕に組をなんとかする力なんて、あるはずがないのにどうして分からないんだろう。元受付の人もだ。取り敢えず、この悪漢達がガラス窓を叩き割った時点で、緊急連絡先と神界警察に連絡を入れた。ライブ映像はレイ達に送っている。


「あの、先輩……こんな事してどうするんですか?」


 時間を稼がないといけない。リビングで強面の人達に囲まれながら、なんとか声を絞り出して聞いた。


「落とし前はつけてもらう」


 この前の朝のときと同じ強面の方だ。


「な、なんのですか」


 身に覚えのない事をまた言われている自覚はあるが、尋ねないと分からない。


「お兄ちゃん、危、きゃあ」


「うらぁ!」


 返事は持っている棒で返して来た。それじゃ分からないよ。すでに体はスフォラが乗っ取っているので受け流してくれたが、腕が折れたかもしれないくらい痛い。


「警察が家の周りをちょろちょろして、邪魔だったんだよ。もう、片付いたけどね」


 見回りが増えた事だろうか、この辺りも多いんだけどな。


「……」


「意外そうな顔だけど、そのくらいは出来るんだよ、うちはね」


「き、ききき、み達は何だっ、ひっ。ど、ちら様ですか」


 父さんが裏返った声で聞いていたが、ひと睨みで聞き方が変わった。処世術に長けていると思っておいてあげよう、父さんの為に。


「家に手を出したらどうなるか、分からせる為にはこうする他ないからね。君の仲間に警告だよ。君達には犠牲になって貰わないとね。それに、イチカ様から大事な実験も仰せつかっている」


 手に持っている容器に見覚えがあった。マシュさんが解析していた三重に封じられた例の瘴気の固まりの容器だ。いい加減これに名前でも付ければいいのにややこしい……。それよりまずい。レイ、董佳様、マリーさん早く!!


「先輩、それがなんだか知ってるんですか?」


「さあ……これで教団も箔がつくと仰ってたけれど、大事な物を託して下さる程、期待されてるんだよ。……そう、君の夢はおかしいと見抜いたのはイチカ様だ。この夢では教団に入れないってね、別の物を用意して下さるんだ。それにはちゃんと始末を……ね」


 先輩は喋りながら容器に付いている何かを取ろうとしている。僕は容器を奪うようにスフォラに頼んだ。そんな物を家で開けさせるなんて出来ない。

 お互いに容器を握って揉み合いになった。強面の人が加勢に入ろうと、持っていた武器を振り上げたのが見えた。スフォラが地面を蹴って突っ込んだ。

 庭に転がり出た所で、蒼史と目が合った。先輩に腹を蹴られて容器を手放してしまったが、蒼史が立ち上がりかけた先輩の首筋を後ろから手刀を当てて気絶させ、横から紅芭さんが容器を回収していた。

 黒スーツの人達は強面の組の人達を捕まえて、家族の皆を何かの術に掛けていた。容器は更に厳重に何かの箱に入れられて運び出された。マリーさんは家の中から真剣な顔でその様子を見ていた。どうやら二階の僕の部屋から侵入したみたいだ。


「アキちゃん、スフォラちゃん、良くやったわ〜。あんな物がこんな住宅街で開けられたら酷いからっ! もう、なり振り構わずになってるわね〜」


 マリーさんは怒りがまだ収まってないみたいだった。


「間に合わないかと、焦りました」


 紅芭さんも脱力した表情をこちらに見せた。


「あそこで容器を奪いに出てくれたからなんとかなった。良く飛び込んだ」


 蒼史には褒められた。スフォラじゃなきゃ無理だったよ。でも、皆もかなりギリギリだったんだ。一旦神界へと報告に行く事になった。


「間一髪だったね」


 レイが僕達を見てホッとした表情で迎えてくれた。


「冷や冷やさせられたわ、何であんな物を住宅街にまき散らす気だったのよっ。危ないじゃないの」


 董佳様はイライラを抑えれていなかった。


「いや、それは僕に聞かれても……」


「聞いてないわ、独り言よ」


 じゃあ、僕の顔を見て言うのは止めて欲しい、それとも八つ当たりなのかな。董佳様はちょっと頬を赤くしてそっぽを向いていた。


「とにかく、無事に回収出来たんだからいいわ」


「そうだね、見せしめみたいな事を言ってたけど、結局は見限られてあの役になったんだろうね」


「そうね。イチカ様ね……教団の幹部にそんな名前があるみたいだけど、ここの組織は全容がまだ掴めてないのよ。あの術を見破れる者が居るのなら……何か手を考えないといけないわね。向こうも本気を出してくるでしょうし。……それとも逃げるかしら?」


「どうだろうね、正面からは来ないだろうけど、翻弄する気でいたなら他にも何かしてないとは限らないよね」


「嫌なこと言うわね」


「まあ、実験という言葉を信じるなら、まだ向こうはその段階ってことだよね」


「そうね……」


「レイカちゃんは?」


「何も言ってないわ。まだ、時ではないのよ」


「そう、じゃあ、僕達はこのくらいで……事情聴取頑張ってね」


「はあ、やっと前のが終ったところなのに……」


 恨めしげに僕を見ている董佳様の目と合った。……僕が悪いの? 


「悪いわよ〜、きーっ」


 う、心を読まれてる……それは勘弁して欲しい。僕はレイに付いて慌てて出て行った。


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