136 岐路
◯ 136 岐路
家に着き、宿題を済ませてから階下に降りると、玖美が帰ってきていた。
「おかえり」
「……ただいま。……ストラップありがとう」
小さい声だが返事が返って来た。やっぱり目は合わせてくれない。でもお礼を言われたからいいか。
「あ、うん。石が綺麗だったから……合うと思って」
「うん、ピンク好きなの覚えてたんだ。……お兄ちゃんは怒ってないの?」
俯いたまま視線をさまよわせ、何か決意したのか聞いてきた。
「え、と、怒ってないよ。前は驚いたけど……いや、驚かせてごめん」
あんまりにも過剰な反撃だったけど、怖がらせたのは僕だし。そこは反省している。
「私……ごめんなさい」
「うん。玖美の事は嫌いじゃないよ……出来たらその、普通にしてくれたらいいんだけど。あんまり睨まないでくれないと……」
どうしていいか分からないよ。喧嘩をしたいんじゃないのなら余計に。玖美は頷いている、ちょっぴり涙が出てる様な……。
「何か気に入らないなら直すから……」
身長は伸びないけど……前に言われたカッコ悪い発言を思い出した。あれ? 何か腹が立って来たかも。いやいや、短気は良くない。折角、話しをしているんだし、これ以上泣かせるのは不本意だ。
「うん、お母さんが……お兄ちゃんは、そんな事思ってな、い、って……私、勘違い、してたみたい」
泣き笑いの感じで、玖美はとぎれとぎれに話しをした。
「そ、そっか……えと、じゃあ、よろしく、かな?」
「うん。本当だった。良かった……」
とうとう本格的に泣き出した……あああ、どうしよう? ティ、ティッシュ!! 玖美はティッシュの箱を持って部屋へと戻って行った。これは関係改善の道が見えて来た!?
僕は池田先輩の事は綺麗さっぱり忘れて、夕飯を作っていた。何かぼうっと頭が曇った様に考えがまとまらなかったが、母さんが帰ってきてからはそれも収まった。玖美との話しをしたら、母さんは喜んでいた。良かったを繰り返して言いながら、ティッシュのお世話になっていた。
「そうね、玖美は自分がした事を返されると思って怖かったのよ。自分がそうだからって他の人がそうとは限らないのに、それが分かってなかったのね。……ちゃんとその人自身を見ないと、似てるようで違うのだから」
母さんの話しを聞きながら、何となく思い当たった。確かに、僕が怖いのでなく、僕がするかもしれない仕返しが怖かったんだって。それは玖美が想像している影で、僕の上に自身の想いで作っている影を見て怖がっていただけだったんだ。
「厳しいけれど、普段の自分の心が跳ね返ってきたのよ」
と、母さんは言った。僕も母さんの話とこれまで玖美との間にあった事を振り返ると、納得出来たので頷いた。
「でも、玖美はこれで分かったと思うのよ、これからは仲良くして上げてね」
と、頼まれ、僕は大きく頷いた。
アストリューに戻って、メレディーナさんに妹の事を報告した。仲直りを喜んでくれた。心配をかけていたみたいだ。それから、いい母親ですねと褒められた。そうかも知れない、母さんにも心配かけたと思う。
「全く、兄妹喧嘩なんて拗れたら大変だよな」
「そうね〜、やきもきさせられたわ〜」
マシュさんとマリーさんも喜んで(?)くれていた。随分、周りに心配をかけたみたいだ。でもまあ、おかげでなんとか助かった。
「二人ともありがとう。相談に乗ってくれて」
「もう、水臭いわねえ〜、あたし達の仲じゃない〜」
「それより、あっちをなんとかしてくれ……騒がし過ぎるぞ」
見ると、レイの変身レッスンは、悪戯を仕掛けながらの遊びとなっていた。うん、もうちょっと様子見でいいかな、楽しそうだし水を刺さない方がいいと思う。
「それで、頼んでいたのは出来るの?」
「ああ、出来るが、条件付けをした。出かける際は、アキの指定した姿になるようにしておいた。緊急時は解除されているから、好きにするだろう。むしろアキは邪魔をせずに逃げる事を考えろよ」
「分かったよ」
スフォラに自由に姿をとらせて貰えるように改造した。意志があるのだから、そこは自由にして上げたかったのだ。レイ達との遊びもあんなに楽しそうだし、紫月もそれを見て変身レッスンをしているから一石二鳥だ。レイもその案を推してたしね。
マリーさんとスフォラの特訓が始まっている。攻撃を避ける練習をしていた。まともに受け取らずに力を受け流す練習とかもやっていて、上達が早いとマリーさんは褒めていた。スタミナがすぐ切れるのがね、と残念そうに言っていた。
「で、マリーと相談したが、気絶してから意識が変わっても意味無いから、攻撃を受けたらにした。スフォラの動きを邪魔しないように、目をつぶってろってさ。後で対応出来る様に特訓だ」
体の主導権の問題で、一気に変われるなら問題ないが少しタイムラグがあるとの事、その時は完全にスフォラと変わるまで二重意識になると言われた。やれば分かると言われているが、まだ試してはいない。




