133 完熟
◯ 133 完熟
久しぶりに巨大カシガナの夢を見た。いつも通りに一緒に揺らいでいた。瞬きをした後、気が付くと紫の空間に変わっていた。なんだか動きづらい……よく見ると紫色の空間は狭くて動けないだけだった。ああ、これはカシガナの実の中だ。家が見える……そこで目が覚めた。
「はあ……」
アストリューの家に戻っている。まだ、夜中だ。何となくカシガナが気になったので、上着を羽織って階下に降り、庭に出てみた。スフォラも後ろを付いて来ている。カシガナの実はほんのり発光している。近づいてそっと手で支えながら中を見ようとしたら、光が増した。
いつもよりも光は強いし、大きな魔力を感じた。なんだか体が熱いような、寒いようなよくわからない感覚になった。眩しさで閉じていた目を開けると、手の中にほんのり発光する小人が、膝を抱える様に眠っていた。
「生まれたか?」
いつの間にかリビングにマシュさんがいた。その後ろでマリーさんが興味津々な様子でこっちを見ていた。
「ええーと、えーと……そうみたい」
ちょっとまだ戸惑いの方が多いが、なんとか答えた。いや、まさかいきなり生まれるとは、思ってなかったよ。僕はちょっとふらつきながらリビングに戻った。
マシュさんが言うには僕のエネルギーもカシガナは使って誕生させ、ふらつくのはそのせいだと説明してくれた。何やら色々機械を通してチェックされて、目が覚めたらもう一度だと、寝室に戻って休めと言われたのでそうした。
「やあ、起きた?」
目が覚めると隣でレイが一緒のベッドで眠っていた。目を擦ってノビをし朝の挨拶をしたら、昨夜の事を思い出した。慌てて逆の隣を見たら、スフォラと一緒に小人は眠っていた。アメジストみたいな色だ。昼間の天然石を思い出しながら、確かこんな感じだったとじっと見た。
「誕生を見逃すなんてボクもしくじったよ。どんな感じだったかは下の二人に聞いたけど……かなり発光したって聞いたよ?」
本気で悔しそうだった。確かにいつものレイなら、こんなイベントは見逃そうとはしない。
「あ、うん。目を開けれなかったよ」
「うん、もう昼過ぎだから、起きれるなら下に降りようか」
「うん」
スフォラに小人の様子を見てて貰おうと思っていたら、小人が目を覚ました。目が合った。
「……おはよう」
ファーストコンタクトは今一決まらなかった。首を傾げている小人に微笑みかけたら、起き出してふわりと宙に浮いた。そのままゆっくり僕達の周りを観察しながら飛び、ボクの膝の上に降りた。
「誕生おめでとう。会えて嬉しいよ」
「ふふ、まだ喋るのは無理みたいだね、大丈夫、言ってる事は伝わってるよ。行こう」
「うん。下に降りるよ、付いて来てくれる?」
小人はふわりとまた浮き上がり、宙を飛んでいた。裸の姿はなんだか僕が恥ずかしいから、後で服をマリーさんに作って貰おうかな。僕達は下に降りて行った。顔を洗ってリビングに向かうと、メレディーナさんが待っていた。
「誕生したと聞き、様子を伺いに来ました。まだ慣れないようですね」
小人はボクの頭の上に座った。顔に足が掛かって危ない。肩に乗ってもらうように頼んだら、素直にそっちに座ってくれた。スフォラが何故か焼きもちに似た感情を送って来た。なので逆サイドに乗せたら落ち着いたみたいだ。見ると全員の注目を浴びていた。しかも、笑われている……微笑ましいといった感じみたいだけど、見られてる方はちょっと恥ずかしく決まりが悪い。
「え、と……昨夜生まれました。皆さんよろしくお願いします」
「ぶっ、親ばかを発揮しそうだな」
マシュさんがちょっと吹き出しそうにしながらそんな感想を言い、
「そんな感じだね」
それにレイが同調していた。
「確かに良く似ておいでですわ」
メレディーナさんも追随して、
「兄弟みたいね〜」
マリーさんが留めの一撃を加えてきた。
確かに、目が合ったときにどこかで見た感じの顔だと思ったんだ。今は写真で見る昔の自分だ。調度、子供の頃くらいの姿に似ている。大きさはかなり小さいけど……20㎝くらいだろうか。成長して大きくなるのだろうか……精霊とか妖精の生態なんて知らない。
「取り敢えず、よろしくな」
マシュさんが小人に挨拶すると皆それぞれ挨拶した。すると小人は浮き上がって皆の様子を観察し、興味深げに一人ずつじっと見つめた。レイの顔を見ながら何やら魔力を放ち出した。少し光った後、見るとレイに似た姿になっていた。それを見てレイは嬉しそうに笑って、
「ボクの顔が気に入るなんて、分かってるね。変身が出来るなら、ボクが先輩としてみっちり教えてあげるよ。良いかい、変身の基本はね……」
小人を褒めちぎり、変身についての講義を始めたようだった。
それで、僕はマシュさんにまた調べられながら、小人の種類を聞いてみた。変身能力があるし、カシガナ種属の深層の共通意識にも通じた魔力生命体でもあるし、樹気生命体でもあるので妖精と精霊の間といったところだそうで曖昧だった。たぶん、成長して精霊となる存在だとマシュさんに言われた。育て方によるから責任重大だぞと脅されてしまった。そんな風に責任を押し付ける感じで言わないでよ。
「心配なさらないで下さい。私もついておりますわ。皆で育てていきましょうね」
「はい。お願いします。レイももう、面倒見てくれてるし……」
大丈夫だよね。スフォラを見ながら猫の形になろうとして、失敗している小人を見ながら、賑やかになりそうだと思った。
いつまでも小人だと困るので、名前はつけていいんだろうか? スフォラと同じ姿になって、小人に猫の動きを教えているレイに疑問をぶつけてみた。その練習は僕も必要かもと思いつつ、レイの答えを聞いた。
「名前はもうあるよ。本人に聞くと良いよ」
「そうなんだ。じゃあ、自己紹介した方が良いのかな」
「そうだね、改めてしておいたら?」
「うん。僕は鮎川 千皓、呼ぶのはアキでいいよ」
何かこっちを見て何か伝えてくれているが、頭の中に何かの光の模様が浮かんだ感じだった。はっきりとは分からなかったけど、それを記憶に刻んでおく。そっと頭の中で模様を思い浮かべてみたら、小人が光って反応した。
「うん、そんな感じだね……呼び名は自由に付けても良いけど、そっちは余り関係ないよ。それを思い浮かべて呼ぶといいよ」
「分かったよ。呼び方か……」
しばらく考えて、
「紫月かな?」
名前と模様を同時に思い浮かべて呼んでみる。こっちに飛んで来て首筋に抱きついて来た。何か皆の視線が痛い。何だろう?
「やっぱり吸血もするんだ」
「面白い……」
「そこは変わらないのですね、興味深いですわ」
「んまあ〜、増血の薬でも作って置いた方が良いかもしれないわよ、メレディーナ」
口々に感想を言い合っている内容で理解したよ。そうか、そこは受け継いだのか……どれくらい吸うんだろう。




