128 療養
◯ 128 療養
「アキ、しっかりして、アキ」
レイの顔が見えた。焦っている。
「あ……」
「大丈夫?」
体が震えている。汗もかいて気持ち悪い。レイがシーツで僕を包んで抱きしめてくれた。
「首を絞められた」
「見たよ」
少し、落ち着いてきた。
「契約じゃなかったのかな?」
「あれも契約だよ。高峰とかいう人が術を掛けてたよ」
「あれが?」
「首輪を掛けるのと同じだよ。逆らったら、さっきの苦しみが来る感じだね……」
「うわ……。それで僕は夢を取られたの?」
「んー、一応は一枚目が剥がされて今、纏ってるんじゃ無いかな? この感じだと一時間おきくらいに剥がされていくけど、それは前にも言った通り、レイカちゃんの守護のおかげで擬似的にだから影響ないよ」
「う、ん」
「まだ夜中だけど、汗もかいてるし神殿でゆっくりしに行こう」
「今から?」
「夜中の神殿も良いし。霊泉の力も上がってるから調度いいよ」
「うん」
なんだか丸め込まれた気分だけど、神殿の霊泉の水という水が神秘的な光で包まれるのを見るのは好きだ。僕達はそのまま神殿に向かった。後で考えたらパジャマ姿で神殿に行くなんて、どうかしてたと思う。いや、動揺してたんだ、きっと。
「アキさん、起きられたのですね」
「メレディーナさん……」
一瞬どこか分からなかったが、そういえばレイと一緒に夜中に来たのを思い出した。
「気分はどうですか? 昨夜は大変だったとお聞きましたよ」
「あ、うん。もう大丈夫だよ。まさかあんな事されると思ってなかったから、ビックリしたけど」
喉を抑えながら、昨夜の事を思い出して身震いした。夢の中とはいえ、本当に殺されるのかとかなり怖かったよ。
「そうですか……。ですが少々……いえ、心の傷痕はかなり深いようですわ」
メレディーナさんが真剣にこっちを見て話してくれている。何かあったんだろうか。
「え、と、そうなんですか」
「ご自分でご覧になった方がよくわかるかと……」
イーサさんが鏡を持って来てくれた。見ると涙の後が残っていてちょっと恥ずかしかった……いつの間に泣いてたんだろう。……首に変な物がついている。触ったがその変な物は痣の様で、取れなかった。
「これ……」
気が付いた。手の形についている。
「ええ、首を絞められた後が出てしまっています。精神の傷がこういった形で症状が出る方はいますわ。精神的なショックが引き金となる場合が殆どです。アキさんはご自身で思っているよりは、こういった事には弱いのですわ……しばらくは療養して頂きます」
「はい。またすいません」
「今回はご自身で立ち向かわれたと伺っています。それもいわば名誉の負傷の様なもの。犯人グループが捕まる事を祈りましょう」
「そうですね、早く捕まって欲しいよ」
それに、もうあんなのは懲り懲りだ。
「今回はたっぷりと癒しのコースですわね……」
なんだかメレディーナさんが嬉しそうなのは気のせいだろうか。たっぷりとの意味はすぐに分かった。これでもかというぐらい甘やかされた気がする。残念ながら記憶は曖昧だけれど……。すごく好い香りとふかふかの寝床で、モフモフに包まれてた気がする。これも夢だろうか? 気が付くと三日も過ぎていた。
「何だその締まりのない顔は」
マシュさんが、呆れと少しの怒りが籠った目を向けて話しかけてきた。
「ほえ?」
「ほえじゃない。定期メンテナンスだ」
「ああ、あー。スフォラ?」
「メレディーナ、やり過ぎだろう」
「ふふ、そうでしょうか? でもおかげで痣も随分薄くなりましたわ。後は自宅療養をされれば良いですわ」
「全く、甘やかし過ぎだぞ」
「良いのですわ、アキさんにはこのくらいで」
未だにぼんやりしながら、スフォラをマシュさんに渡し、見てもらった。スフォラは改良が進んで更に省エネルギー化に成功したとマシュさんが言った。良く考えたら、僕が成長する分をスフォラの機能の追加に当てていたので、僕が使う分の力が増えてなかったらしい。酷いよ、実態化15分はまあまあの出来だと今更ながら言われた。ぶうー、拗ねるよ?
「これで、ちょっとは力が増えただろう。気を感じようとするたびに寝てるアキに、分かるかどうかは知らんが」
ちょっとおかしそうに笑いながら、マシュさんに嫌みを言われた。
「う……見てたんだ?」
「何かやってるとは思ってたが……レイが笑ってたぞ」
恥ずかしい……。未だに気と言われてもどれだかさっぱり分からない。
「まあ、そんなことをされてたんですか?」
「難しいだろうさ」
「そうですわね。気質的に把握は難しいですわ。そうですわね、あると仮定して扱うという手もありますわ……」
「動かしてしまえば分かるってやつか?」
マシュさんがすぐに思い当たったのか聞き直していた。何だろうか、それで分かるなら教えて欲しい。
「良くご存知でしたね」
「私もそのクチだったからな」
「まあ、そうでしたか。ですが、妖気に近い気もお使いになってませんでしたか?」
メレディーナさんが微笑みながらマシュさんに聞いている。
「あれは、まあ、集中するとだな……」
ちょっと目を逸らしながら、マシュさんは言い辛そうにしていた。
「おほほ、分かってますわ」
「ちっ、全く」
マシュさんは少しからかわれていたみたいだ。でも、たまに獲物を捕獲するかのあの感じは、何か違う気がする。あれが妖気?




