12 家出
◯ 12 家出
部屋に入ってすぐに引き出しを開けた。カバンの中の財布を出し、中身を確かめる。無い。昨日、父さんに預かったお金もない。今度の休みは街に友達と出かけるのを話したら、ついでに街の本屋に予約して届いている仕事で資料に使う本を取りにいくのを頼まれ、そのときに預かったお金だ。最近忙しくて、休みの日でも出勤してるから、僕が取りに行く約束をした。
「だから部屋に鍵が欲しいって言ったんだっ。机でもいいから、ああ、もうっ!!」
また、妹の口車で誤摩化されるんだろうか……前はアイドルのCDだった。ジャケットが5種類もあって選べるというものだった。どうしてもこの2枚が欲しいと滅多に僕には甘えてこないのに珍しくねだられ、その2枚を買ってあげた。
だけど、いつの間にか5枚揃っていた。僕に買って貰ったそうだ。その時も財布からお金が無くなっていた。気のせいかと思ったけど聞いてみたら、すごい剣幕で怒られた。まあ、確かに疑わしいだけでそんな事言われたら、怒るだろうけど……でも、お金をどこで調達したか聞いただけだ。そこまで怒る方が僕には逆に怪しかった。それに、5枚買った記憶はやっぱり無い。
昔からそうだ。都合の悪い事は全部僕のせいになってる事が多い。植木鉢が倒れて壊れたのもいつの間にか僕のせい。お福さんが怪我をしてるのも、僕のせい。違うと否定するけど証拠が無い。
「今度は、誤摩化されない!」
僕は決心し、勇気を振り絞ってもう一度嵐の起こった後のキッチンに向かった。
「にゃあ」
お福さんが応援するように着いて来てくれた。
「頑張るよ」
と、お福さんに言い、そろそろとキッチンの方に行こうとしたら、リビングから話し声が聞こえた。
「もう、お兄ちゃんひど過ぎだよ。妹の口にジャガイモを突っ込むなんて家族のする事じゃないよ、それにこんなに散らかして、片付けもしないなんて最低だよ。」
散らかしたのは僕じゃない! 投げつけられたんだっ!!
「本当ねぇ、困ったわ、どうしてこうなったのかしら」
母さん! 妹の言葉に簡単に洗脳されないでよ!
「病気じゃないの? 病院にでも連れて行った方が良いよ」
「そうね、お父さんに相談しないとねぇ」
はあ? 何でそうなる! 僕はブルブルと震えながらなんとか声を引き絞った。
「母さん、僕の言った事聞いてなかったの? 今、確かめたよ昨日、父さんに預かった1万円と僕の2千円が財布から無くなってた。机の中のカバンに入れてた財布から消えてたっ!」
「また言ってる、お兄ちゃん、病気なんだからダメだよ」
「病気なのは玖美の方だ!! 勝手に持ち出すなんて、泥棒じゃないかっ! 僕は使っていいなんて言ってないっ! 母さん、目を覚ましてよ!! 昨日父さんに頼まれてたの聞いてたじゃないか?!」
僕は母さんの肩に手を乗せようとしたが、頬に衝撃を感じて止まってしまった。母さんの平手だった。
「家族に向かってなんて事いうのっ!!」
僕はキレた。
「家族でも何でも何度だって言ってやる!! 母さんも同じだ!! 泥棒!! 泥棒っ!! 泥棒っっ!!」
母さんはショックで呆然として、どうして良いか分からないようだった。僕はぐしゃぐしゃに泣いていた。そのまま、家を飛び出した。




