表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界を繋ぐお仕事 〜非日常へ編〜  作者: na-ho
ちのあじはこいのめいそう
110/159

106 存在

 ◯ 106 存在


 今日は殆どの包帯が取れて、少しずつ動かしていきましょうと言われた。後は一番酷い左腕だ。骨折部分は繋がったと言っても、まだ強度に問題があるので、重いものを持ったり、スポーツなどはまだ禁止だと言われた。


「家から通いでも大丈夫なんですよね」


 少し右腕の調子を確かめながら聞いてみた。


「ええ、ですが、今日はこちらにいらして下さった方が、よろしいですよ。お見舞いの申請が入ってましたから」


 来客があるんだ、このまま帰ったらすれ違うところだった。


「そうなんですか? じゃあ、お世話になります」


 このまま帰っても、あのリビングを片付けるまではいかないだろうし。


「是非そうして下さい。明日で退院の手続きを致しますね」


「はい。教えて下さって、ありがとうございます」


「いいえ、遠慮なさらないで下さい。では私はこれで失礼致します」


「はい、ありがとうございます」


 今度は誰だろう……。



「又、ダメだったわ……お手上げよ」


 お見舞いに来たのはリリーさんとティティラだった。ハンシュートさんを捕まえてくれた事のお礼を言った後、両手のひらを見せて先の台詞を言った。どうやら、リリーさんは独自で契約を試していたようだ。


「リリーさん、カシガナはダメでしたか」


「そうよ、振られたわ。もう、玉砕よ」


 ちょっと投げやりにそう言った。


「適性が必要だって聞きましたけど……」


「そうなのよ。植物の適性はやっぱり無いみたいね」


 がっかりと言った顔で肩を落としていた。


「でも、ティティラがいますし、植物はずっと一緒にはいられないですよ?」


 どうしても動かせないからな……。


「まあね。でも、これ一匹なのよね……もうちょっと欲しいと思ってる訳よ。ティティラとの相性も考えないとダメだし」


 唇を噛んで悔しげに言った。


「そうだったんですか」


 そういえば磯田部長は4体とか言ってたな。


「片っ端からチャレンジしたけど、全然ダメ」


 大げさに手を広げてからリリーさんは肩をすくめた。


「動物なら個体差もあるし、性格とかもあるから難しそうですね」


 僕がそう言うと、


「植物もあるでしょう?」


 と、リリーさんは言った。


「多分あるんだとは思いますが、僕はカシガナしか知らないから……」


「名前はつけた?」


 僕の台詞に引っかかりを受けたようで、聞かれた。


「いいえ、なんだか名前は違う気がして……」


 頬を掻きながら言い訳を言ったら、


「付けた方が良いわよ」


 と、リリーさんは真剣な表情で言った。何か意味があるような言い方だ。


「そうなんですか?」


 聞き返すと、


「それで個体としての識別が出来るから、契約獣としても自覚が生まれるのよ」


 そうだったんだ。知らなかったな、契約には名前は大事なんだ。スフォラの時はすぐに付けたけど、今回は迷うというか……何か違う感じがあったのは確かだ。


「そういうものなんですか?」


 ちょっと疑心暗鬼気味に聞いてみた。


「そうよ」


 頷きながらしっかりと肯定された。


「うーん、考えてみます」


 首を捻りながら、そう言うと、


「待って……カシガナ種として契約なの?」


 何か思いついたのかリリーさんは、視線を下に動かして考えてからそう聞いた。


「えーと?」


 何か違うんだろうか。


「それだと……うーん、調べてみる必要があるわね」


 リリーさんは目の色と同じ、赤い色に塗られた長い爪を使って、テーブルの上でリズムをとりながらそう言った。

 その後、退院はいつか聞かれたので、さっき明日に伸ばしたと説明したら、じゃあ、動けるのねと確認され、そのまま魔法生物班に連れられて行った。転ばないようにティティラに監視されながらだけど。そこで、何か魔法の検査を受けた。ちょっと目眩がしたけど、すぐに済んだ。


「んー、これだけだと確定ではないけど、否定も出来ないかしらね」


「そうだな。種属全体とだと隷属されてるのかと思ったが、その反応は無いから良かった。……この感じは個体とでは無さそうだしな」


「この仮定は思いつかなかったからな、だがこれだけだと断定出来ないから疑惑のままだな」


「メレディーナ神に報告を入れておくか」


「そうだな」


 魔法生物班のメンバーが揃って何かを言っていた。一人がこっちに来て僕に向き合った。


「もう良いんですか?」


「ああ、済まないな。怪我を押してこんな所まで、大丈夫か?」


 魔法生物班の班長がそう言って気遣ってくれた。


「はい、大丈夫です」


「送るわ」


 リリーさんがまたティティラを監視に付けて、部屋に連れて行ってくれた。


「まだ詳しい検査を更にするでしょうけど、それはうちの班だけでは無理だって班長が言ってたわ」


「そうなんですか」


「まあね、種属と契約なら名前は付けれないわね、どちらかというと、その痣がカシガナとして貴方を識別する為の印ととらえるべきね……何が気に入られたのか」


「へえ」


 僕は左手首の痣を見た。薄らと浮かんでいる形はカシガナの花の紋様だ。これが僕の名前みたいなものなのかな。そっか、あの夢は……もしかしたらあの白いカシガナも、どこかに本当に存在しているのかもしれない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ