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世界を繋ぐお仕事 〜非日常へ編〜  作者: na-ho
ちのあじはこいのめいそう
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99 苦味

 ◯ 99 苦味


 [むーん]


 歯が生えてきた……残っていた歯の根元が取れたかと、思うとその下に新しい歯が見えていた。ついでに最後に残っていた右奥の乳歯も抜けた……。メレディーナさんにまだ残っていたのですか、と驚かれたが、残っていたみたいだね、ここにあるってことは……僕もビックリしたよ。


「きれいに生え揃うまでは、我慢なさって下さいね?」


 [はい]


 その後は歯が生える薬を飲んだ……液状の深緑のいかにも苦そうな薬だ。実際に苦い。ストローで吸い上げながらいつも通りに飲んだ。


「歯が生え揃った後は、骨の再生が早くなるお薬を飲んで貰いますね」


 [はい。……それも苦いんですか?]


「ええ、仕方ありませんわ、良薬は口に苦しと申しますから」


 [舌も元に戻って来たし、話しをするのはもう少しかな]


「そうですわね……驚きましたのよ? こちらに運ばれたときは、酷い有様で……アキさんだと分からないほど顔の形が変わってしまっていて、このアストリューでこのような凄惨な事件が起こるなんて何事かと……でも、治る範囲で良かったですわ」


 [治療がいいから、安心です]


「だからと言って、怪我ばかりされても困りますのよ?」


 [う……肝に銘じときます]


「そうして下さいね。レイさんも泣いて大変でしたのよ」


 [レイが、泣いたの?]


「ええ、アキさんのお顔がと……」


 [ああ……]


 レイらしい理由だ。


「そういえば午後から一旦、家に戻りたいとか」


 [あ、はいカシガナの様子を見に行くだけですけど]


「そうでしたね、マシュさんとレイさんとお二人がついていれば大丈夫でしょう。ですが両腕が使えないのです、無理はなさらないで下さいね?」


 [はい、無理言ってすいません]


「遠慮しなくてもいいのですよ、要望はなるべく言って下さいね」


 [ありがとうございます]


 そして、午後からレイとマシュさんに連れられて、アストリューの家に戻って来た。マシュさんはずっと寝泊まりはこの家でしていたようで、リビングは散らかり放題だった……。僕はそれは見なかった事にして、庭に連れて行って貰った。車椅子の移動だったが、庭の畑にはなんとか歩いていった。あちこち響いたが、まあ、何とかなるくらいだ。


 [また、心配かけたね。ごめんね]


 なんとか動く右肩を駆使して、指で葉を触った。帰って来て良かった。カシガナも情報が無いままに僕が来れなかったのが心配だったみたいだ。やっぱり近くにいないと繋がりは発揮出来ないみたいだ。包帯まみれの僕の血が吸えないようで、どうしたものかと思ったが、どうにか隙間を見つけてそこから吸っていた。これも何かの情報収集かな? 何となくそんな気がした。

 どうやら留守の間に一つの花が萎んで咢の近くが少し膨らんでいた。


 [いつの間に……って僕がいなかったから仕方ないね]


「いや、今朝にはまだ咲いてたから、さっきだろう」


 [そうなんだ?]


「ちゃんと言葉が分かるのか。試しに、迎えに出るときに、アキを連れてくると言ってみたんだが」


 [うん、そうかも……どうやって覚えたんだろう。でも便利だけど]


 僕が考えてるよりもすごいのかもしれない。


「どうやら、花の時期だけみたいだな、血を吸うのは」


 [本当だね]


 僕は咢の後ろについていた棘が、花と一緒になって萎んでいるのをマシュさんと見た。それから車椅子に乗ってリビングに戻り、三人でお茶を飲んだ。


「リビングはもうちょっと片付けてよ……車椅子が通りにくいから」


 レイがマシュさんに文句を言った。


「そうだな……通り道は作っとくよ」


 しれっとマシュさんはそう答えた。


 [それは片付けとは言わないんじゃ……]


 僕が指摘したが、


「早く良くなればいいだろう」


 と、取り合ってくれなかった。


 [……他人任せ?!]


「早く戻ってこないと酷い事になるよ〜」


 レイが脅した。


 [そんな……掃除くらい覚えようよ]


「嫌だね」


 [そんな、マシュさーん]


 家が恐ろしい事になりそうだが、こればっかりはどうしようもない。カシガナの無事を見て安心したせいか神殿に戻ってすぐに眠ってしまった。

 昨夜と同じ夢を見た……水の中でカシガナと一緒にいる夢だ。僕が小さくなっているのか分からないが、巨大なカシガナが出て来た。闇の中のカシガナの実は淡く白い光に包まれていて、辺りを青く照らしていた。僕がすっぽり入れるくらい大きい。夢はただ一緒に水に揺られているだけだけど、心地よかった。微かに怜佳さんのサシェの香りがした。


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