97 被害
◯ 97 被害
「もう〜、どうなってるの? そっちは〜」
ちょっとイライラなマリーさんだ。
[マリーさん、おはよう]
「怪我をされたとか。……大丈夫ではなさそうね」
怜佳さんは痛ましいと顔に書いてあった。
[怜佳さん、わざわざありがとう]
スフォラの映像での会話だ。
[僕もよく分からないんだ]
「それはそうでしょう〜、そんな姿じゃ動いちゃダメよ?」
画面に近づき過ぎだよ、マリーさん。
[うん、動きたくても動けないよ]
「酷いわ……」
怜佳さんは眉をひそめて、僕の有様を見て言った。
「痴情のもつれだとか聞いたけど、何処の女よ〜? やっつけてやるわ」
[ぶっ、ち痴情……って]
うわ、何でそんな事になってるんだ。
「違うの〜?」
[ええーと]
僕は考えた。一方的とはいえそういう雰囲気はあったかもしれないけど、それは誤解だったし……何になるんだろう?
「どうなのよ〜?」
[分かりません、僕は違うと思ったんですけど……そうかも知れないし]
「んも〜、はっきりしないのね〜」
「男女の事は大体そんなもの」
怜佳さんがぽつりと言った。
[うーん、そうなのかも?]
言われるとそうなのかもと思う。
「で、瘴気の襲撃の方はアキちゃんは被害は無かったのね〜?」
[うん、僕は大丈夫だよ、でも菜園班の畑がやられちゃって……怪我人も出たし。僕を殴った人が仕掛けたらしいんだ]
「そうだったの……でもそれはアキちゃんが悪いんじゃないわ、気にしちゃダメよ〜」
[うん、どうやらなんか暗示が掛かってたって言ってたから、利用されたんじゃないかって]
「そうなの、それが分かってよかったわ」
[うん、前の真偽の時には素だったけど、今回はちょっと違う意識が入り込んでた兆候があるって言ってたから、彼女達の行動を追うって捜査の人が言ってたよ]
「ちょっと〜、そんな状態で捜査の応対があったんじゃないでしょうね?」
マリーさん、画面に顔を押し付けないで……。
[大丈夫だよ、休憩しながらして貰ったから]
「あたしでさえ、直接いくのを遠慮したのに〜」
[意外と暇なんだよ、動けないから……ボヤ事件のレポートも書き終わっちゃったし、学校も休んだし]
「じゃあ、明日はそっちに行くからね〜?」
マリーさん、鼻息で画面が曇ってるよ……。
「お見舞いに行くとして、食べ物はもう食べれるのかしら?」
「そうよ〜、歯が折れてるじゃないの〜っ!」
[うん、歯が生えてくる薬があるんだけど、あれって苦いよね……まだ流動食だよ。お見舞いは気にしなくていいよ]
「じゃあ、明日ね〜、無理しちゃダメだからね〜」
マリーさん、泣き顔のドアップは怖いよ……。
「お大事にね」
怜佳さんがマリーさんを見て、少し困った様に笑いながらそう言った。
[二人ともありがとう、また明日。楽しみにしてるよ]
通信を切ったら、
「マリー様ですね? 相変わらずのようですね」
後ろから声が聞こえた。
[メレディーナさん、もう良いんですか?]
「ええ、4日もたてば事態はほぼ収拾出来てますから、アキさんの治療にも力を入れますわ」
少し顔色が良くない気がする。
[無理しないで下さい]
「あら、治療をする方が落ち着くのですよ、出来ればそんなことを言わずに治療させて下さいませ」
ニッコリ微笑んでそう言われては反論出来ない。
[あう、は、い]
う、メレディーナさんには一生、敵いそうにないよ。
「以前よりは傷の治りが早くなりましたね」
包帯を取って、薬を塗って貰いながらそんなことを言われた。
[そうなんですか?]
「ええ、最初のときは正直にいうと、酷く弱っていましたから手をつけるのを躊躇う程でしたわ」
[そ、そうだったんだ、なんかすいません]
「まあ、アキさんが気に病む事は無いのですよ。それが今ではこれだけ治りが早くなったのです、手を尽くした甲斐があるというものですわ」
今回の騒ぎで怪我した人達も、瘴気の影響なので霊泉に浸かっていればたいてい治り、遅くても十日ほどで元に戻るとメレディーナさんは言った。体を無くしてしまった人達は、転生かもう一度体を作るかを選んで貰って対応したそうで、そちらももう、全員の対応は終っていると説明された。
「幼い子供が巻き込まれたのは本当に心苦しいですわ……」
辛そうな表情でメレディーナさんは今回の襲撃の話をした。
[そうだったんですか、どうなったんですか?]
「ええ、ご両親に相談して、巻き込まれた際の記憶を取り除いて、体を新しくつくっています……」
[そうなんですか。でも、良かった、それで親子がそろうんですね]
「ええ、今回の事はなんとかそういう対応が出来ましたが、被害がもっと大きかったら出来なかったでしょう。亡くなった方はすべて転生に回すしか無かったですし、瘴気に取り込まれるのが長引けば記憶も無くし、魂もむき出しの瘴気に侵され、浸食されて消えていたでしょう。恐ろしい事です」
[怖いですね……]
「ええ、何故あのような物が混入したのに分からなかったのか。それも今、解析して頂いているのですが時間が掛かりそうですわ。容器はすべて破損していたので……」
[それでマシュさんが忙しそうなんですね]
スフォラの調整が終った後、すぐにどこかに呼び出されてたし、あの瘴気の事も調べてたから色々聞かれてるんだろうな。
「ええ、人の出入りは今は制限されていて警戒態勢ですわ……異世界間管理組合のほうもかなり紛糾しているようですし、あの様な犯罪者を出しましたからね。不名誉な事ですし、前回のボヤ事件などとは比べ物にならないほどの罪を……あら、アキさんの犠牲を軽んじているのではなくてよ?」
[分かってます]
「ふふ、そうでしたね、そんな方ではありませんでした」
僕はちょっとくすぐったい感じだった。
[確かにかなり酷い事をしたけど、今回は操られてたって……]
なんだか深刻な表情なメレディーナさんに、ハンシュートさん達の罪が僕が思ってたよりも重そうなので、聞いてみた。
「ええ、そうですが、心に全くない事はさせる事は出来ないものなのです、余程の物を取り付けたりしない限りは……そういった類いの物は無かったと言う事は、少なからずとも破壊を望んでいたのは事実なのですわ。実行に移しても違和感が無かったくらいには……悲しい事です」
そう言って目を閉じ、苦痛の表情を見せた。
[そうだったんだ]
それだからこそ付け入られたのか……よっぽど前回の事が納得いかなかったんだ。でもどうしようもない、今回も自分達の行動が返ったとしか言いようが無いというか、上には上がいるみたいな感じなんだろうか。操った人って……余程だよね?
「今回の事を企んだ者に付け入る隙を与えたという事です。清廉潔白でいなくてはならない、と言うつもりはありませんが、他人の悪事に利用されていては本末転倒ですわ。憎しみに捕われすぎずに自身をしっかり持たなくては……」
メレディーナさんも、彼女達の弱さが残念そうだった。
[反省してると良いですね]
「そうですわね。……もうアストリューには立ち入る事は無いでしょう。そのように処置されましたから」
[そうだったんですか]
「ええ、住民の感情もありますから、ここに来る事はありませんわ」
[そっか、それもそうだね……。こんなに良い所なのに来れないなんて、すごい罰だね]
「まあ、嬉しいことを……。意外とお上手ですわね」
[えっ、そ、そうかな]
今日、初めてはっきりと笑ったメレディーナさんは、やっぱり綺麗だった。




