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四方に響く絶叫。
主への祈り。最期の告戒。
淡々と罪状を読み上げる刑吏の声。
すべてはこの夕焼けに染まる小さな丘から始まった。
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港湾都市クライスト。ユタ大陸と新大陸を結ぶ交易の際は多くの船が停泊する有数の貿易拠点である。
今朝も多くの人が行き交うこの港を、1人の男が書斎の窓から見下ろしていた。男の名はシエナ公ダレス・レイン・グラシエ。圧倒的な統率力と知謀でユタ全土に知られている。そしてもう一つ、この男の名を有名にしているのは───
「おはようございます、閣下。レグナム王国よりの書簡が届いております。」
白髪の老人が差し出した書状。いつもと変わらぬ降伏をとくもの。
「我らの意志は変わらん。目指すは独立のみ。そう返せ。」
シエナ反乱軍総帥の名、である。
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その昔、クライストを王都とする都市国家シエナは一大貿易拠点として隆盛を極めていた。黄金の都としての価値は多くの財宝や金銭と、
──────嫉妬や欲望を集めた。多くの国々がこの都市国家を手にいれようとし、長年の戦の末にシエナはユタ大陸の列強の一つ、レグナム王国に下ったのである。戦に負けたとは言えシエナ王家はシエナ公に封ぜられるのみ、統治もシエナ公に代々権限が与えられるなど、シエナ公領は戦以前の活気を取り戻していた。
それが一変したのは、12年前のことである。
当時シエナ公であったダレスの父を始め、旧シエナの主要な貴族たちがレグナム王国の使者に捕らえられ、クライストはレグナム軍が占拠、ダレスの父たちは数日後処刑されたのだ。ダレス自身は領地経営のためクライストにあるシエナ公邸を離れており、知らせを聞くや否や周辺の旧シエナ貴族たちに協力を呼び掛けクライスト奪回の兵を挙げた。
結果的にクライストは奪回出来たものの、レグナムは軍を退くことなく旧シエナ領の南方を拠点としてクライストを攻め続けている。
一方ダレスは、クライスト奪回を行った貴族たちを中心に同盟を組み、反乱軍として立つことになったのである。