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ゾディアック  作者: 亜耶
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8 三百年の災厄



 手が届く範囲にこれでもかと並べられた数多くの料理や、目の前のかごにどっさりと積まれたフルーツに、優姫は幾分辟易しながら愛想笑いを浮かべていた。


「そなたは我等の希望。さあ、遠慮せずに食べるがよい。料理長、料理長! 次の料理を持って参れ!」


 長テーブルの遥か向こうに向かい合わせで座るウィルヘルムが料理を運んでくるように促す中、もう既に八分目をとっくに通り越した胃が限界に到達し悲鳴を上げ始めた所で、優姫は呻くように言った。


「こんなに美味しいお料理を頂けて恐縮なんですけど、もう食べられないです……」


 優姫を主賓として開かれた宴の席。

 前にはウィルヘルム、後方にはアリエスが控えたその場所で、優姫は言葉を続けた。


「あの、へ、陛下。私、何が何だか……」


 離れたウィルヘルムに聞こえるよう声を張る。散々料理を食べておきながら、今さらだったかもしれないというのが強く最後はしりすぼみになってしまったが、ウィルヘルムの表情から声は届いているようだった。

 しかしウィルヘルムはにっこりと微笑むと手を上げた。するといつの間にか優姫の背後にはアリエスが立っており、彼は咳ばらいをした。


「陛下に声を張って頂く必要などない。聞きたいことがあるなら、私が答えよう。さあ、何なりと聞くがいい、ヴァルゴ」


「それです。ヴァルゴとか、〈導星〉とか、私にはよく分からないんです。何か、その、もしかして勘違いされてないですか」


 優姫はアリエスに向き直り、おずおずと自分の疑問をぶつける。アリエスはううむ、と唸るとその空色ね瞳でまっすぐ優姫を見据えた。


「まず、結論から言おう。お前は〈処女宮〉ヴァルゴ――ゾディアックの一員だ。勘違いなどではない。それは我等に与えられた託宣が証明している」


「たくせん?」


「〈時空の魔女〉が星から教えられるお告げとでも言おうか。この三百年現れることのなかった〈処女宮〉ヴァルゴが、ハルスの月、異界から現る――と」


「……じゃあ、ゾディアックって何ですか? 〈導星〉って?」


 ますます馴染みのない単語が増えたが、優姫は諦めない。もうこうなれば、一からでも説明してもらうつもりだった。

 そんな優姫の様子に、アリエスは嘆息する。


「本当に何も知らないのだな。それではこうしよう」


 そう言って、アリエスは金髪をかきあげた。そこにあったのは小振りの宝石のついた耳飾り。

 アリエスはその耳飾りを手に取ると、優姫の目の前に差し出した。若干青みがかった無色のそれは、シャンデリアの光を反射して虹色に輝いているように見える。


「これは私の――〈白羊宮〉の石だ。お前の導石を出してみろ」


 耳飾りの宝石に見入っていた優姫はアリエスに促され、ポケットから石を取り出す。そこから現れたものに、優姫は目を丸くした。


「え!? どうして――」


 ただの石――レオに手渡された時には、そしてさっきまでは、ただの何の変哲もなかったはずだった。しかし、それはいつの間にか濃紺に輝く石に変化していたのだ。その美しさはまさに宝石のそれだ。

 さらには、濃紺の宝石の中心からは青紫色の光が射しており、それはアリエスの持つ耳飾りの宝石までへの道筋を描いていた。


「“三百年に一度、世界に災厄降りかかる時、星より定められしゾディアック集結し約束の地で祈りを捧げん”――この世界に古くから伝わる言い伝えだ」


 アリエスは光が射したままの耳飾りをつけ直すと、語り始めた。


「古来よりこの世界は災厄に襲われ、そのたびに託宣によって選ばれた十二人の人間達の祈りによって救われてきたのだ。彼等こそがゾディアック、そして世界各地をに散らばるゾディアックを集結させるのが〈導星〉の役目」


「……それが、私だと?」


「〈導星〉たる証はその石だ。ゾディアックは皆、宝石を持っている。私のアダマース、お前のサピロス然り。ただし〈導星〉であるお前の石は、他のゾディアックの石を指し示す光を宿したその間だけ、その真の姿を現すのだがな」


 優姫はアリエスの話を自分なりに解釈し理解していく。

 つまりは、なぜか分からないけれど日本からこの異世界に来てしまった私は、ゾディアックという謎の組織の一員で〈導星〉と呼ばれる存在。レオに貰った石は他の十一人のゾディアックのメンバーを探すのに必要な光を放つ。そして私は彼等を探して約束の地で祈らなくちゃいけない――そういうこと。

 ああ、頭がパンクしそう。

 でもあともうひとつ、聞かなきゃいけない。


「……あの、何となく理解は出来ました。それで、もしその役目を終えたら私は……帰ることが出来るんでしょうか?」


 優姫にとって大切なこと。

 きっと今頃、いつまでも帰ってこない娘を両親は心配しているだろう。学校だってある。香苗もきっと心配してくれるはず。それにレオも去ってしまった――沈み込みそうになる気持ちを奮い立たせ、優姫は真剣に問いた。しかし、アリエスからかえってきた言葉は優姫の望むものではなかった。


「それは分からないな。何しろゾディアックが異界から召喚されるなど、今までに例がない。しかしどちらにしろお前に断る権利はない」


「……!?」


 いきなり厳しいものに変わった声色に、優姫は肩を震わせた。


「三百年前から災厄は続いている。異常気候、作物の不作、疫病の発生、異形の怪物。全ては先代ゾディアックが旅を失敗したからだ。危機に頻した世界を救う為、今代のゾディアックに失敗は許されん――否、失敗すれば今度こそ世界は滅びるだろう」


 アリエスの強い語気に圧倒され優姫は縮こまる。そんな優姫に射抜くような視線を向けるとアリエスは言い放った。


「逆賊〈獅子宮〉レオによって成功を阻まれた旅を、私達は完遂せねばならないのだ!」




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