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ゾディアック  作者: 亜耶
20/44

19 白羊ノユメ


   †††


「てことで、俺がアリエスなんで。よろしくー!」


 ゾディアック――それは世界を災厄から救う役目を担った者達の総称。

 すでに十一人が集結し、最後の一人として一員に加わった俺は、まだ十五。〈白羊宮〉アリエスとしての俺は、仲間達の中でも若かった。誰にだったかは忘れたけれど、こう言われたことがある。お前の性質は、良く言えば勇敢であり、悪く言えば命知らずだ、と。


 俺の住んでいた村は、小さな農村だった。例に漏れることなく、俺の村も災厄に見舞われ不作が続いていたが、俺にとって幸運だったのは、村の中でも比較的裕福な家庭だったということだ。父親が村でただ一人医師としての心得があったことが、幸いしたのだろう。

 とにかく俺は、特に危機感を感じることもなく、毎日を平穏無事に過ごしていた。ゾディアックとして旅立つことを決めたのは、世界を救う為、というよりは、代わり映えのしない毎日から脱却したいという気持ちのほうが大きかったと思う。


「私はヴァルゴ。よろしくね」


 言わば、退屈しのぎに始めた旅。

 でもそんな旅もすぐに楽しいものに変わった。

 導石の持ち主――ゾディアックの一員として俺を探し当てたヴァルゴは、とても美しく、その美貌に似つかわしくないほどに気さくな女性だったからだ。


 一目惚れ、だったのかもしれない。


 腰まで伸ばされた、流れるような金の髪。舞いを踊る、細くしなやかな体。澄んだ青い瞳と、ふっくらとした薄紅色の唇。百人中百人が美しいと言うだろう容姿を持ったヴァルゴは、気取ることなく親しい友人のように接してくれた。


「私は孤児だったの。でも旅の一座に拾われてね。この旅を始めるまでは舞いを踊る毎日だったわ」


「へえ、俺は退屈な毎日を送ってたよ。親父もお袋も、家を継ぐために勉強しろってうるさくてさあ。でも誇り高きゾディアックの一員に選ばれたって言ったら、泣きながら喜んで送り出してるくれたよ」


 お互い、色々な話をした。

 自分とは全く違う生き方をしてきた彼女の話を聞くことは新鮮で、面白かった。


 やがて、気付く。

 それはごくわずかな兆候だったような気がした。もしかすると、他には誰も気付いていないかもしれない。好意を寄せ、いつも視線で彼女を追っていた俺だからこそ気付いたのかもしれなかった。


「……ヴァルゴは、レオのこと好きなのか?」


 指摘した瞬間、見開く瞳。

 紅色に染まる頬。

 ヴァルゴは、肯定はしなかった。しかし、否定もしなかった。

 それは、確信に変わった瞬間。

 ヴァルゴは、レオが好きなんだ――。


「……どうして、あんなヤツ」


 思わず本心が漏れた。

 ヴァルゴは、答えなかった。


 だいたい、ヴァルゴのレオへの想いは、俺の理解の範疇を越えている。

 レオは、ヴァルゴとずっと一緒だったらしい。王都から今に至るまで、他の誰より共にいたのだ。でも、二人の間柄はどう見たって対等ではない。

 レオは王都の騎士団長だか何だか知らないけれど、いつも高圧的だ。それは特にヴァルゴに対してがひどい。口を開けば、二人はいつも喧嘩をしている――そんなイメージすらある。そんなヤツに対して、どうすれば恋心が抱けるというのか甚だ疑問だったけれど、それを知ったからと言って、俺のヴァルゴへの想いが薄れるわけでもなく。

 つまりは、おの威張りくさったあいつは、俺のライバルとなるのだ。


 俺は、あいつが嫌いだ。

 ライバルだから、なんてそんな安っぽい理由だけじゃない。

 あいつはいつも人を馬鹿にしたような目で俺を見てくる。そんなに騎士であることが偉いのか――だから、俺は勝負を挑んだ。


「お前は一体、何をしたかったんだ」


 遥か頭上で吐き出される息。

 刃が音もなく鞘に納められ、困惑した眼差しが注がれる。

 完敗だった。

 俺だって、全く剣が出来ないわけじゃない。村の中でも、そこそこの腕で通っていたはずだった。

 それなのに、この目にまざまざ見せつけられたのは、圧倒的な技術の差。剣は一度たりとも当てられず、太刀筋を見ることすらも叶わなかったのだ。


「……まあ、筋はいいから全部終わったら、一度王都へ来るといい。陛下に仕える騎士団として取り計らおう。立てるか?」


 立てないはずなんてなかった。

 レオに当てられたのは柄のほうなのだから。

 それでも、素直に立ち上がることは出来なかった。


「何だよ、勝負に勝っていい気分かよ」


「……アリエス」


 まっすぐ俺を見てくる深緑の瞳と、黒髪をかき上げて浮かべる困惑の表情。悔しい、と言うことも悔しいけれど、レオは男の俺でも認めてしまう容姿の持ち主だ。

 けれども、そうだとしてもヴァルゴがこいつを好きだということは、どうしても認めたくなかった。


「俺は、テメーなんか大っ嫌いだ」


 差し延べられた手を払いのけ、俺はそう吐き捨てる。もう、全てが気に食わなかった。

 でも、またこの時は、ただそれだけだった。ただ、嫌いだ、というだけ。それが、変わってしまったのは、あの日の出来事――。




   †††




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