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 捕らわれて、いる・・・。

 彼の口許に浮かんだ淡い微笑み。 彼方を見つめる透徹した眼差しに。

 その笑み、眼差しが、畏怖と悲哀を溢れさせる。

 時を越え、私に・・・。








 彼との出会いは、いつの頃であったか。

 それはまだ幼かった私が、運命が呼び込んだ悪戯な罠に、なんの抵抗もなく嵌まってしまったことから始まる。

 まるっきり、偶然の出会いであった。だが、そのことについて、多くは語るまい。ただ告げるのは、私が彼と会ったということ。そのことが、運命としか思えないほどの影響を、私に及ぼしたということ。それのみ。

彼は、彫像の如く美しかった。

 硬質の、どことなく人にあらざる冷たい輪郭。ほっそりとした、優美な手足。そして華著な体つき。どことなく少年の硬さを残し、だが男へと変化していく途上にある、妖しくも儚い美。


 しかし・・・。

 彼が眼を開けば、それだけで雰囲気は激変する。

 二重の涼やかで切れ長の黒瞳は、一瞥しただけで忘れられなくなるほど印象深い。

 強い確固とした意志と、希望の炎の燃え盛る双眸。

 そこには華著で儚げなところなど、幻の如く消え失せ、生きるということを心底謳歌している者特有の、熱い光がある。

 彼が、いつから病院で過ごしているのか定かでなかったが、病人であるというかげりを初対面の私には一かけらも悟らせない、閣連な笑みを見せていた。


 その彼との、偶然が生んだ出会いは、奇妙な縁を作りだした。

 なぜか見舞うものはほとんどいないような彼は、幼い私がまとわりつくのを喜んで歓迎してくれた。私のほうも、いつでも子供扱いをせずに一人前の大人のように接してくれる彼を、心底好いていた。そう、心酔していたと言ってもよいかもしれない。だが、私は本当に幼かったため、彼の押し殺し、包み隠している感情を知る放もなかったのだ。

 それゆえ、本当の意味で彼と出会ったのは、知り合ってから三ケ月を過ぎたころであった。

 その頃、一週間に一度彼の許に顔を出していた私は、いつもなにがしかの花を持っていくのが日課になっていた。そして、今でも覚えている。黄色の薔薇を、そのとき持っていったことを。


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