間話 幹部書記官長アルガーの心配
私はレライト・アルガー。
第8代魔王ヴェグル様の側近である。
私には悩んでいることがある。
魔王様のことだ。魔王様が笑顔なところをここ150年ほど見かけたことがない。正確には笑顔ではあるが表面だけ、というのが正解だろう。
魔王様は私がそれに気づいていないと思っているだろうが、舐めないでもらいたい。
私は、魔王様が魔王様になる前からずっとお側に仕えさせてもらっていた。そんな私があのお方の心の動きに気づかぬはずがない。
どうやったら笑顔になってもらえるやら。
そう悩んでいると出かけた魔王様が、夜中に帰ってきた。しかも、酒臭かった。魔王様は私を見るなり、逃げようとした。もちろん、私がそれを逃すはずもなく、説教が始まった。
「魔王様。」
「ア、アル…ただいま戻りました…」
「お座り下さい」
「えっ、ここに?ここ、玄関だけど」
「お座り下さい」
「はい…」
魔王様はシュンとしていた。まあ、そりゃ怒られているならそうだろうな。と思った。だけど、違和感があった。
「魔王様」
「はい、なんでしょうか」
(あ、やっぱり、いつもと違う。会話で目が合うだと?)
最近の魔王様は何を言っても上の空だったのに。
(しかも、心なしか目に光が灯っているような?)
「魔王様!貴方ご自身の立場を分かっているのですか……」
「分かってるよ……」
「分かっていません……」
(会話が続いている?一体一晩で魔王様に何があったんだ)
魔王様と会話が続くようになるのは大変喜ばしいことだし、これからもずっと続いてほしいものだが、あまりにも遅い帰り、酒の匂い、いつもと違う様子、これらのせいで私は喜びよりも不安に駆られた。
説教が終わると、魔王様が走ってご自身のお部屋に入っていった。魔王様が走ったことにも驚いたが、それよりも、驚いたことがあった。
(魔王様が……笑った……)
走って私の側を抜けていくとき、チラッとだけしか見えなかったが、あのとき、魔王様は笑顔だった。
あれは表面上じゃない、確かな笑顔だった。
私は、更に焦った。
(本当に魔王様に何があったのだ)
そして私は魔王様に魔法をかけることにした。
視界を共有する魔法。
私が目をつむれば、魔王様の見ている景色を見ることができるというものだ。
魔王様がお部屋に入ったあと、私も自室に戻った。
そして目をつむった。
1番初めに見えたのはスマホの画面だった。
魔王様は誰かにメールを送っているようだった。
宛先を見ると、エルスタと書いてあった。
驚いて目を開けた。
(エルスタだと!我らが敵の勇者じゃないか!よくも、我々の魔王様に手を出したな!魔王様、私が貴方を助けて見せます!)




