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第2話 元勇者は平穏を貪りたいー2

***


「なぜ……って、恋に落ちるのに、好き以上の理由が必要なの?」


「いやいや、待ってください。好きって……そんな、俺たち出会ってからまだ数時間ですよ!? 」


「ほら、最近は『0日婚』が流行ってるじゃない、大丈夫よ」


 流行って……るのか?。

 断定ができないところが面倒くさかった。


「理屈が破綻してるし、そもそも結婚の話じゃないし……」


 緋宮硝子。凛とした美少女だと思っていたが、中身は意外と……いや、かなり愉快な人なのかもしれない。


「……だから、ダメかしら?」


 上目遣い。破壊的な、上目遣いだった。


 あっちの世界の女性(?)といえば、高額なアイテムを要求してくる悪質な違法サイトのようなサキュバスくらいしかいなかった。


 だからか知らんが、この純真無垢な「デレ」の暴力に、俺のメンタルという名の防壁が軋みを上げる。


「一週間……一週間だけ、時間をくれませんか?」


 なんとかそう呟いて、俺は俯く。


「……ええ。待っているわ」


 緋宮さんは赤い顔のままそう言うと、屋上から去っていった。


 こうして、俺の「波乱」という言葉では生ぬるい学校生活初日は、幕を下ろしたのだった。


***


「ただいまー、SUPちゃーん……」


 精根尽き果て、家の扉を開ける。


 あの成金趣味の喋る剣を、適当な場所に立てかけていたかと探したのだが。


 リビングにいたのは、銀髪碧眼の、どこか浮世離れした美少女だった。背丈は中学生くらい。……まさかなにかの犯罪じゃないだろうな。


「あの、どちら様で……?」


「勇者の剣でございます。マスター」


「スーパー・ウルトラ・ビューティフル・パーフェクトソード略してSUPちゃん!? なんでそんな姿に!?」


「能力です。私に搭載された【変質】の能力を起動し、人間形態へ最適化したのです」


「……そう、なんだ。能力、ね……」


 説明されても、理解が追いつかない。


 ついこの間まで血生臭い戦場を共に駆け、敵を叩き斬るためだけに使ってきたあの成金な剣が、こんな可憐な少女になるなんて、誰が想像できるだろうか。


 しかし、言われてみれば、綺麗な鳥の羽のような銀髪は、あのどんなモノすら砕く鋼鉄に見えるし、瞳の金色は成金趣味の由来のように見えるし、服も装飾が派手であの剣の見た目を引き継いでいるのかもしれない。


 狼狽える俺をよそに、SUPちゃんは唐突に距離を詰めると、犬のようにクンクンと俺の匂いを嗅ぎ始めた。


「……なんだか、雌の匂いがします。マスター」


 感情の読めないジト目で、じろりと俺を睨んでくる。


「犬かお前は……。というか、仮にも俺をマスターと呼ぶなら主人のプライバシーくらい尊重してくれよ」


 平和への道のりは、どうやら想像以上に険しいらしい。


***


 リビングの食卓を挟み、二人で夕食を囲む。


 つい数日前まで、泥水で煮込んだ得体の知れない魔物肉を啜っていたのが嘘のような、穏やかな晩餐だ。


「なるほど……。要約すると、今日はマスターに、そんな浅ましい雌が言い寄ってきたというわけですね」


「浅ましいって……。一応、クラスメイトの緋宮さんっていうんだけど」


 不在の緋宮さんに対して、SUPちゃんは剥き出しの敵意を隠そうともせずにそう告げる。


 俺は苦笑しながら、箸を動かした。


 思えば、あっちの世界での旅もそうだった。信頼していた仲間に裏切られ、王様に見捨てられ、孤独のどん底にいた俺を、この剣だけは見捨てなかった。


 意思疎通ができるようになる前から、その黄金の輝きだけは常に俺の手の中にあったのだ。


「……なあ、SUPちゃん」


「どうかしましたか、マスター。この『ぎゅーにく』という食材は、実になかなかの弾力です」


 SUPちゃんがお肉を執拗に咀嚼しながら聞き返す。ちなみに今日の献立は俺の特製肉じゃがだ。


「SUPっていうのも呼びにくいからさ、何か新しい名前を考えようかと思って。こっちの世界での『人間としての名前』だ」


「ふむ……。それならばシンプルに『勇者の剣』というのはどうでしょう」


「言いにくいなぁ……」


「では、『勇者の嫁』。これなら語呂も良いかと」


「意味が変わってるし、外で言ったら俺が社会的に死ぬから駄目かなぁ」


「もう、それなら『サップ』でいいじゃないですか。マスターが適当につけた名前ですが、愛着はあります」


「……よし、決まりだ。今日からお前は『サップ』だ」


 ネーミングライツが確定したところで、一日の汚れを落とすことにした。精神的な疲労は肉体にも蓄積するものだ。


「俺、そろそろ風呂に入るけど。サップちゃん、先に使う?」


「いえ、マスターと一緒に入ります」


「100パーセント事案になるから勘弁してくれないかな?」


「何を仰るのですか、マスター。私はこう見えて一〇五二歳ですよ? そんじょそこらのひよっ子とは年季が違います」


「設定が重すぎるんだよ……。というか、外見年齢を考慮してくれ、外見年齢を」


 千年の年月を経てなお、この剣は主人の貞操観念を斬り裂く気満々らしい。


 俺の平穏への道は、やはり霧の中にあった。

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