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完璧を強いられた令嬢と完璧公爵の甘やかな結婚  作者: いか人参


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34.不確かな未来


その日の夕刻、ほぼ同じタイミングで邸に帰宅したエリーナとマリエッタ。


久しぶりの外出で疲れた二人はすぐ部屋着に着替え、自分達の部屋でネルに淹れてもらったお茶を飲み、ひと息ついていた。



「それで、お姉様はデートどうだったの?」


くるりとカールしたまつ毛を天井に向け、マリエッタが期待に満ちた声音で言う。そんな興味津々の問いかけに対して、エリーナは少し困ったような顔で首を横に振った。



「婚姻に必要な装飾品を買いに行っただけよ。」


「ふぅん…どうせフィニアス様の瞳の色と同じ指輪でも贈られたんでしょ。」


「え」


まさかの反応に、手にしていたソーサーをすべり落としそうになり、エリーナは慌てて持ち直した。それを見たマリエッタが勝ち誇った顔で笑う。



「ほら!やっぱり正真正銘デートじゃない!!今時、政略結婚でわざわざ指輪を贈る貴族なんていないよ。悔しいけど、それ無茶苦茶大事されてるってことだよね。…本当に悔しいんだけど。」


徐々に声が低くなる。

悔しさの中にほんの少しの怒りを滲ませるマリエッタ。言い当ててしまったものの、心境は非常に複雑らしい。



「名高い公爵家だもの。その…体裁とか色々あるのよ。きっと。特別な意味なんてないわ。」


エリーナが目を伏せる。


(フィニアス様はお優しい方だもの。政略結婚の相手でも真心を持って接して下さるのよ。これは恋心とは別物だわ。)


フィニアスの好意を認めたくないエリーナが苦しい言い訳をするが、目の前のマリエッタは菓子を口に運びながらニタニタと笑うだけだ。全く信じていない。



「マリエッタ様、あまり揶揄われてはいけませんよ。」


見かねたネルが2人の会話に割って入ってきた。そしてマリエッタに向けてぐっと肘を引き、力強く拳を握りしめる。



「エリーナ様と旦那様はラブラブのラブなんですから!」


「はぁい。」


にたり顔のまま、わざとらしく鼻から抜けた返事をした。妹に揶揄われ、ぷくっと頬を膨らませたエリーナが意趣返しを試みる。



「そんなことより、マリエッタの方はどうなのかしら?今日素晴らしいネックレスを頂いたのでしょう?まるで御伽話に出てくるお姫様への求婚のようだわ。」


「ゴホッゴホッゴホッ!」


余裕の表情でマカロンを頬張っていたマリエッタが盛大に咽せた。すかさずネルがティーカップを彼女の口元に運び、飲むように促す。



「なんでそんなこと知ってるの!」


「だって貴女、ネルに丁重に外すようにお願いしていたじゃない。とても似合っていたわよ。」


エリーナがふんわりと優しく微笑む。


その瞳に揶揄いの色は一切なく、心の底から祝福していることがよく分かる。だからこそ、余計に恥ずかしくて堪らなかった。


赤くなる顔を誤魔化すように、バンッと大きな音を立ててテーブルの上を叩く。



「私まだ15歳になったばかりだよ!求婚とかそんなっ…まだまだ先の話なんだから!」


「まぁ。18歳になったら改めて求婚を頂く約束でもしたのかしら。それは楽しみだわ。」


「誠におめでとうございます、マリエッタ様!その時が待ち遠しいですね。」


「だから違うんだってばー!!」


他意なく本気で祝福してくる二人に、慌てたマリエッタは堪らず大声を上げた。デートの話など話題にしなければ良かったと、心の底から後悔していたのだった。



3人がおしゃべりに興じていた頃、執務室は憂鬱な空気に包まれていた。


サラサラとペンを走らせる音と紙を捲る音に混じって、定期的に深いため息が聞こえてくる。



「はぁ…」


頬杖をついたシュヴァルツが書類を捌きながらため息をつくこと数十回。ちらりとフィニアスを見るが、彼が反応を示す素振りはない。


諦めたシュヴァルツが自ら口を開く。



「夢みたいな時間でしたね。はぁ…マリエッタに会いたい…」


「ああ。夢で終わらないといいな。」


「この…」


至福のデート後の寂しさは、フィニアスの余計な一言のせいで一気に腹立たしさに変換された。握りしめたペンがきしむ。



「婚約済みの方はいいですね!余裕があって!こっちはあと三年も待つんですよ!…フィニアス様、いっそのこと法律変えません?王家に貸しがあるし、このくらいお願いしてもバチは当たらないでしょ。」


「断る。」


「ケチ。少しくらい考えてくれたって良いじゃないですか。毎日馬車馬の如く働いているのに…」


「話は恋人同士になってからにしろ。」


「んぐ。」


痛いところを突かれて口をつぐんだシュヴァルツ。苦痛の表情で大袈裟に胸元のシャツを握りしめる。


心の痛みを堪え、明日もマリエッタとお茶をするためだと己に言い聞かせて書類仕事を再開させた。




「セラはどうだ?」


仕事の手を止めぬまま、フィニアスが尋ねる。



「期待以上らしいです。飲み込みが早く態度も真面目、現場からは一生ここにいてくれと言われているようですよ。」


シュヴァルツも視線を上げることなく答えた。


セラは現在ロナウドの生家に身を置いており、そこで公爵家で働くための学びを得ているのだ。この研修期間を終えた後、改めてどこに配属するか決める予定となっている。



「それなら問題ないな。俺の婚姻後、マリエッタの専属侍女として正式に公爵家に配置する。」


「……ちょっと待ってください。マリエッタは3年したらいなくなるんですよ?それなのに、今から専属を立てるんてすか?」


「不確かな未来に配慮することはしない。」


「ちょっとおおおおっ!!不確かなんて言わないでくださいよおおおおっ!!泣きますよぉ!」


書類に目を通しながら涼しい顔で言い捨てたフィニアス。今度こそシュヴァルツは泣き崩れてしまったのだった。




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