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完璧を強いられた令嬢と完璧公爵の甘やかな結婚  作者: いか人参


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30/56

30.落ち着く色


俯くエリーナの隣で、フィニアスが徐に手を伸ばした。長い指で金色に輝くイエローダイヤモンドを摘み上げ、シャンデリアの光に翳す。


光を受けて輝く石は金色に近い色味に変化し、彼の瞳の色と酷似しているように見えた。



「これはどうだ?…いや、押し付けるものではなかったな。」


少しだけ困ったような顔をしたフィニアス。

自ら否定してすぐさま掲げた手を下げようとしたが、顔を上げたエリーナがパッと彼の手を両手で包み込んだ。



「とても素敵だと思いますわ。フィニアス様の瞳の色と同じで、見ているとなんだか心が落ち着きますの。」


「……そうか。」


フィニアスの返事に妙な間があった。

敏感に違和感を感じ取り、また何か余計なことを口にしてしまったかと、エリーナが不安に襲われる。


(まぁ、わたしったら…!)


ここで自分がフィニアスの手を掴んでいることに気が付いた。


(なんてはしたない真似をっ…。無許可に触れてしまってはフィニアス様の気分を害すも当然よ。早く手を離して心からの謝罪を…)


一気に血の気の引いたエリーナが慌てて手を離したが、すぐに温もりが戻ってくる。今度はフィニアスが上から手を重ねて来たのだ。



「フィニアス様…?」


「指輪はこの石で。俺にもエメラルドで何か身に付けられるものを誂えてくれ。」


手を重ねたまま自分の膝の上に置き、フィニアスが淡々とした口調で支配人に指示をした。



「ありがとうございます。畏まりました。すぐにご用意を進めさせて頂きます。」


困惑するエリーナを置き去りにして、発注までの手続きが手際よく進められていく。その間も手は重ねられたままであった。




会計を終わらせ、店を出る頃にはちょうど昼時となっており、フィニアスの提案でレストランへと向かった二人。


窓際の席に向かい合って座るエリーナの前に、白身魚のパイ包み焼きが運ばれて来た。この店の名物であり、一番人気のメニューだ。


(先ほどのあれは何だったのかしら…)


カトラリーを手にしたエリーナの中にぐるぐると疑問が渦巻く。触れた手は温かくて純粋に嬉しかったが、どういう感情で受け止めれば良いか分からなかった。


(円満な夫婦を演じるためとか…?そうしなければならない何か特別な事情を抱えているのかもしれないわ。気になるけど…余計な詮索はしない方が良いわよね。鬱陶しく思われてしまうもの。)


握るフォークとナイフに無意識に力がこもる。



「魚の気分ではなかったか?」


「い、いえ。そんなことはありませんわ。初めて目にする料理ですが、バターの良い香りがしてとても美味しそうですもの。」


「それなら良かった。この前邸で出した魚の揚げ物が気に入ったと聞いていたからな。」


「…あの、ありがとうございます。」


小さな声で礼を言ったエリーナ。

ネルから聞いた話を思い出して、無性に恥ずかしくなってしまったのだ。


(でもとても嬉しいわ。本当に、気遣いの出来る素敵な人…あんな些細なことまで覚えていて下さるなんて…)


恥ずかしさ以上に喜びが溢れてくる。フィニアスに知ってもらっていたことが堪らなく嬉しい。それと同時に、自分も相手のことをもっと知りたいという欲が湧いてくる。



「フィニアス様はエメラルドの宝石がお好きなのですか?」


コース料理の中盤、店で気になっていたことを口にしたエリーナ。


男性で自分のためにアクセサリーを求める人は珍しい。商売をしている人間なら男性でも着飾ることはあるが、それ以外の者は大抵、従者や妻が決めたものを身につけるだけだ。


だから装飾品に興味がないように見えるフィニアスが即決した時、不思議に思っていたのだ。



「ああ。エメラルドを見ていると心が落ち着く。」


「まぁ。エメラルドの石にはそのような効果があるのですね。知りませんでしたわ。」


「俺もエリーナと同じだ。」


「え?」


フィニアスに向けられた言葉の意味が分からず首を傾げるエリーナ。そんな彼女の瞳をじっと見つめた後、彼はふっと顔を和らげた。



「君の瞳を見ていると落ち着く。なぜだろうな。」

「……ひぇっ」


激しく動揺したエリーナの喉から変な音が漏れ出た。みるみる内に顔が真っ赤に染まっていく。


(そんな言い方はまるでっ…いいえ、フィニアス様はそんなこと思っていらっしゃらないわ。きっと緊張している私に気を遣って下さったのよ。お優しい方ですもの。変に期待をしてはいけないわ。)


エリーナは跳ねる心を抑えながら、頭の中に浮かんだ淡い期待を打ち消していく。


対して、『なぜだろう』と言ったフィニアスは余裕の表情をしており、その理由を分かった上で甘やかな視線を送っているようであった。


無論、自分のことで手一杯のエリーナがその様子に気付くことはなかった。



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