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完璧を強いられた令嬢と完璧公爵の甘やかな結婚  作者: いか人参


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29/29

29.フィニアスの買い物


エリーナがフィニアスに連れられてやって来たのは、王都の高級店が並ぶ一画にある有名な宝飾店であった。

入店してすぐ、支配人の男性が現れて二人を3階にある個室へと案内した。



肌触りの良い深く沈むソファーに腰掛け、真紅の毛足の長い絨毯に恐る恐るつま先と踵を付けた。緊張したエリーナが、はしたなくならない程度に室内を見渡す。


光沢のあるカーテンから煌びやかな金飾りの付いたキャビネットまで、目に映るもの全てが一目で分かるほどの一級品であった。

目の前のローテーブルはガラスの天板となっており、その下に様々な色彩の宝飾品が並んでいる。真上からシャンデリアの光を受け、そのどれもが眩いばかりに輝いていた。


(まるで美術館のようなお部屋だわ…こんな大それたお部屋に案内されるなんて、フィニアス様は良くいらっしゃるのかしら?)


隣に座るフィニアスの横顔をチラリと見上げるが、相変わらずの無表情で、感情の変化は見て取れなかった。


(でも男の人が頻繁に宝石なんて買うのかしら?買うとしたらそれはきっと…)


何気なく走らせた思考だったが、彼の隣に立つ他の誰かを想像した途端チクリと胸に痛みを感じた。初めて感じた痛みに、心がざわつく。


(これは一体…)


その痛みの真因を探ろうとしたその時ノックの音が聞こえた。現れたのは、先ほどの支配人とティーワゴンを押した女性店員だ。



「ようこそお越しくださいました、公爵閣下。本日はどのようなものをお求めで?」


ロベルトよりもやや年下に見える支配人が品よく微笑む。

だがよく見ると額にうっすらと汗か滲んでおり、組んだ手の爪は真っ白になっている。フィニアスを前に、相当緊張しているようだ。


テーブルの上には、繊細な造りをしたティーカップが二つ並べて置かれている。



「指輪を。」


フィニアスが即答した。その隣でエリーナが微笑みの表情のまま目を瞬く。


(今回のお誘いは、お相手が喜ぶものを一緒に選んで欲しいということだったのだわ。私たちは政略結婚だもの。フィニアス様に好いた方がいらしても何もおかしくはないわよ。)


自身の立場を思い返してひとり納得したエリーナ。ぎゅっと胸が締め付けられるような感覚がしたが、それを無かったことにして目の前に並べられた宝石に目を向けた。


支配人が取り出したベルベット生地のケースには、同じサイズ感の宝石が並んでいる。この中から好みの石を選んで指輪を作るらしい。テーブルの上には、指輪のデザイン画も並べられていた。


これまでメロウナが質屋で手に入れた安物のアクセサリーしか目にしたことがなかったため、エリーナは思わず身を乗り出して本物の輝きに目を奪われた。


(なんて美しいのかしら…)


自分で身につけるならば恐れ多いと感じてしまっていただろうが、今はプレゼント選びの手伝いだ。そう思うと、気兼ねなく眺められた。



「どの色がいい?」


身を乗り出すエリーナに合わせて、フィニアスも身を寄せながら尋ねて来た。



「そうですわね…」


白く細い指を頬に添え、真剣な眼差しで考え込むエリーナ。

その様子を緊張した支配人が固唾を呑んで見守っている。彼女の一言にこの店の命運が掛かっているかのような気合いの入りようだ。


(好きな人にアクセサリーを贈る時は、相手か自分の髪や瞳の色と同じにすることが一般的だわ。フィニアス様のお色味なら金色か黄色…この辺りにするのが無難かしら…)


黄色に輝くイエローダイヤモンドの石と、隣にいるフィニアスの瞳の色を見比べる。



「俺に気を遣わなくていい。エリーナの好きな色を選んでくれ。」

「?」


(私の好きな色…?それってお相手からしたら嫌ではないかしら。お飾りとはいえ、相手の妻が選んだものなんて嬉しくないわよね。)


微笑を浮かべていたエリーナの顔が僅かに曇る。



「どうした?指輪を贈ることは迷惑だったか?」


「いえ、そんなことはありませんわ。フィニアス様のお気持ちですもの。お相手の方もとても喜ばれると思いますわ。ただ、フィニアス様の選んだものの方が…」


「どうしてそんなに他人事なんだ?結婚の記念にエリーナに贈るものだというのに。」


「わ、わたしに……!?」


予想外の展開に驚き過ぎて、声がひっくり返ったエリーナ。慌てて咳で誤魔化したが、隣から僅かに笑っているような気配がする。


(まさか私に贈り物を下さるおつもりだったなんて…でもこれは体裁のためよ。形だけの結婚だというのに、お気遣いが素晴らしいわ。)


焦りすぎて一瞬思考が飛びかけたが、冷静に考え直す。その結果、これは妻を大事にしているという良いアピール材料にするためだろうと結論づけたエリーナ。


(これは、それだけのことなのよ。)


そう思ってもどこか期待してしまう自分を消しきれず、勝手に胸が高鳴る。澄ました顔の下で、その浮足立つ感情を必死に押し殺していた。



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