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完璧を強いられた令嬢と完璧公爵の甘やかな結婚  作者: いか人参


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23.メロウナの傲慢


セラに被害届の提出を命じてからすでに数時間が経過しており、気の短いメロウナは怒りで気が触れそうになっていた。


(どいつもこいつも使えない愚図ばかり…)


ソファーにふんぞり返っていたメロウナは、紅茶の用意をしに自室にやって来た使用人を睨み付けた。



「遅い。」


突き刺すような声で言う。

凄まれた使用人がヒッと怯えた声を出したが、回れを右をするわけにもいかず、震える手で懸命にティーワゴンを押して準備をしようとする。


その遅さに苛立ったメロウナはテーブルの上に置いてあった重量感のある花瓶を手に取り、見せつけるように高く掲げた。



「も、申し訳ございません。い、いま、今すぐにご用意を…」


鈍器を投げつけられる恐怖に怯える使用人。

急ごうとしたが、手が震えていて上手く茶器を扱えない。カタカタと食器の音を立てたことが更にメロウナをイラつかせ、彼女の怒りは頂点に達した。


ー ガシャーーーーーーンッ

「きゃああああっ!」


謝罪を無視して容赦なく床に叩きつけた。使用人の足元にガラス片が飛び散る。


大きな破壊音と散らばったガラス片に驚いた使用人は悲鳴を上げ、這いつくばるようにして部屋から逃げて行ってしまった。



「本当に使えない。」


破片の散乱した床を見て、メロウナが不快感を露わにする。掃除させるためまた使用人を呼び付けようとしたが、その前に別の使用人が部屋にやって来た。



「メロウナ様、先触れなくフェルローズ公爵がお見えになっているのですが、いかがいたしましょうか。」

「あぁ゛?」


ギロリと瞳孔の開いた瞳が動き、ドスの効いた声が室内に響く。



「!!」


ここで初めて部屋の惨状に気付いた使用人が息を呑んだ。恐怖心を悟られないよう、直立不動の姿勢で奥歯を噛み締める。彼女の前で動揺を見せることは御法度であった。



「公爵?あれはただの姑息な犯罪者でしょう。そんなもの衛兵に突き出しなさい。」


「随分な物言いだな。」


「!!?」


突如として現れたフィニアスに、メロウナが声を失い驚愕の表情をしている。


つい先ほどまでドアの前にいた使用人は、シュヴァルツの簡潔な一撃で眠らされていた。彼女の座っている位置からは床に横たわった足だけが見える。



「今日は条件を告げに来た。」


大股で部屋の中に進み出ると、勝手にメロウナの向かい側のソファーに座ったフィニアス。シュヴァルツから受け取った一枚の紙を机の上に置いた。



「こちらにサインをしてもらいたい。」


「これは…養子縁組の承諾書…?は?私にあの二人を手放せと?冗談も大概にして下さい。誰が大事に育てた娘を人にやるというのですか。」


「大事にだと…?」


ここまで淡々としていたフィニアスだったが、纏う雰囲気が一変した。

今にも人を殺しそうな鋭い眼光でメロウナのことを射抜く。全身からは禍々しいほどの殺気が溢れ出ていた。


あまりの圧に一瞬怯みかけたメロウナだったが、あれらは自分のものだと強気に睨み返した。



「私が毎日寝床と食べ物を与えて教育を施したおかげで、あの二人はここまで成長したのです。これを大事に育てたと言わずに何と言いますか。」


「金に変えるためか。」


「当たり前でしょう。皆そのために大切に育て上げるのですよ。それを横から掠め取ろうなど、意地汚い犯罪者がやることです。」


あくまでも攫った人間が悪いという態度を崩さないメロウナ。己が正義として、堂々たる強い口調でフィニアスの行いを断罪した。



「利己的だな。子は親の道具ではない。彼らの人生を尊重して慈しむことが親の役目と思うが…馬鹿に言っても無駄か。」 


「なっ…なんですか!勝手に侵入してきた挙句その失礼極まりない態度はっ……。今すぐ衛兵を呼びますよ。」


「ほう。それは好都合だな。」


普段無表情のフィニアスが真っ黒な笑みを浮かべた。

それだけで他人の心を制圧出来そうなほどの暴力性がある。見慣れているシュヴァルツでさえ、背中に嫌な汗が流れるのを感じた。



「俺も衛兵に用がある。」


フィニアスが新たに取り出した数枚の紙を無造作にテーブルの上に投げ捨てた。



「は?自ら出頭するということですか。そんなことで今更犯した罪が軽くなるとでも…」


ひらりと舞う紙の動きにつられて、文面を読むようにメロウナの視線が動く。



「……っ!?貴様あああっ!一体どこでこれをっ」


紙に記載された内容を読んだメロウナが金切り声を上げた。怒りに震え、目が血走っている。その様子は常軌を逸していた。



「叩けば埃くらい出るとは思っていたが、これほどまでとはな。さて、これが明るみになっても人のことを犯罪者呼ばわり出来るのか?」


テーブルの上に目を向けたフィニアスの凄みが増す。それがメロウナにとってとんでもないプレッシャーとなっていた。


(な、なぜ、この男がこんなものを…あれは形跡が残らないよう全て処分したはず。それなのにどうして今こんな…いやでも、でも、でもっ…)


領民からの税収入を過小報告していたメロウナ。


そうすることで国へ収める金額を減らすことが出来る。だがこれは殺人に次ぐ重罪だ。繰り返し行った場合、極刑は免れない。


メロウナの頭に凄惨な死が過ぎる。

顔を覆う両手に力が入り、長く整った爪が皮膚に食い込んでいく。


(こんな、こんなことで死ぬ?この私が?なぜ?死、死、死、死…死にたくない。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…)


命を取られる恐怖に支配され、完全にパニックに陥っていた。


彼女が壊れていく様子を黙って見ているフィニアスとシュヴァルツ。その瞳は冷淡で、塵屑を見るような目つきであった。



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