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完璧を強いられた令嬢と完璧公爵の甘やかな結婚  作者: いか人参


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21.訪問者


フィニアスはエリーナとお茶する時間を確保するため、早朝から日の暮れたこの時間までぶっ通しで執務室に詰めていた。ここ数日ずっとこの調子だ。


さすがに疲労を感じて目頭を抑えていると、強めにドアをノックする音が室内に響いた。



「旦那様、急用にございます。」


焦った様子で入室してきたのはロナウドだった。一瞬養子入りの件が頭をよぎったが、彼の様子からすぐに違うことだと思い直す。


だいたいのことは、相手が口を開く前に察するのがフィニアスだったが、今回は全く予想が付かない。そのせいで声に苛立ちが乗る。



「なんだ?」


「お仕事中に大変申し訳ございません。今し方、『セラ』と名乗る女性が訪れてきまして…それがケルフェン家の使用人だと申すのです。」


「ケルフェンだと?」


フィニアスの眉間に皺が寄り、無意識に殺意が滲み出る。部屋の温度が一気に下がった。



「その人、恐らく味方ですよ。マリエッタが口にしていた名前ですから。」


自席で真面目に仕事をしていたシュヴァルツが割って入ったが、視線は手元に向けたままだ。こちらもマリエッタとの時間を捻出するのに必死らしい。



「私もそのように思いまして。ひどく憔悴した様子で、エリーナ様達の安否を尋ねて来ましたから。」


「今どこにいる?」


「勝手ながら応接室にご案内しております。」


フィニアスは席を立ってジャケットを羽織り、無言でシュヴァルツを見る。



「二人にも部屋に来るよう伝えてくれ。行くぞ。」


「いやまだ仕事が残ってるんですけどー!」


目で呼ばれたシュヴァルツも文句を言いながらジャケットを手に取り、足早に部屋を出ていくフィニアスの後を追った。




案内された客間でソファー席を勧められ、高級そうな品の良い香りのする紅茶を出された。装飾の美しいソーサーの脇には小菓子まで置いてある。予想を遥かに上回る丁重な扱いであった。


(使用人ごときにこの待遇…それならばエリーナ様達も丁重に扱われているはず。きっと大丈夫。でもやはり無事なお姿をこの目で確かめるまでは…)


二人を保護してくれたに違いないとフェルローズ公爵家を信じたい気持ちと、これは罠かもしれないと疑う気持ちが拮抗する。


(エリーナ様…マリエッタ様…)


ひとり部屋で待つ時間は、判決の言い渡しを前にした囚人のような気持ちだった。


少しでも気を抜けば精神がバラバラに砕けてしまいそうで、セラは一度も座ることなく直立した状態で人が来るのを待っていた。



しばらくして、ノックもなくドアが開いた。


現れたのは、凛々しい目元をした無表情の黒髪の男と柔和な表情を浮かべた茶髪の男の二人だった。


美しい金の瞳が放つ鋭い眼光に威圧を感じるほどの存在感、この男があの完璧公爵と呼ばれるフィニアス・フェルローズなのだとすぐに気付く。


(まさか公爵自らいらっしゃるなんて…)


驚いたセラが息を呑んだ。


フィニアスを前に、一つでも無作法をしたら首を刎ねられそうな恐怖とプレッシャーに襲われる。本当は開口一番エリーナ達のことを尋ねたいが、震える唇では言葉を発することが出来ない。


この場に膝をつきたくなるほどの重圧に耐えることで精一杯だった。



フィニアスは立ったままのセラを一瞥すると躊躇なく席に座った。こんな場面に何度も同席しているシュヴァルツは、慣れた顔で彼の後ろに立っている。



「用件はなんだ?」


フィニアスの凄みのある低音が室内に響く。それだけでひれ伏したくなるほどの圧がある。


瞬く間にセラの顔色が悪くなった。

ただでさえやつれている顔に隠しようのない恐怖心が加わり、眼球が左右に揺れて呼吸が乱れ始めてしまった。



「フィニアス様、その怖いお顔やめてくださいよ。そんなに圧をかけられたら常人は口を開けませんって。」


見かねたシュヴァルツがおどけた様子で軽口を叩く。フィニアスが小さく息を吐くと、部屋の雰囲気が僅かに和らいだ。


セラはその一瞬の隙に大きく息を吸い込み、意を決して口を開いた。



「と、突然のご無礼をお許しください。あのっ…エリーナ様とマリエッタ様はご無事でしょうか?辛い思いはされていませんでしょうか?お二人に何かあればわ、私はっ…」


途中で涙が溢れてしまいそうになり、歯を食いしばるセラ。

使用人ごときがこんなところで無様に泣いてしまっては、公爵の逆鱗に触れかねない。必死の思いで激情を呑み込んだ。



「無論だ。自分の婚約者とその妹を害する奴がいるか。そっちの邸にいた時よりも快適な暮らしをしているはずだ。」


「よかっ…た……」


安心したセラが膝から崩れ落ちた。


すぐに自分の失態に気付き立ち上がろうとするが、緊張の糸が切れてしまい足腰に力が入らない。

見かねたシュヴァルツがその細い二の腕を取って引っ張り上げ、席に座らせた。


ちょうどその時、ノックの音とほぼ同時にマリエッタが部屋に飛び込んできた。その後ろから焦った顔をしたエリーナが続く。



「セラ!会いたかったよーー!!」


マリエッタの今にも泣きそうな元気な声が部屋中に響いた。



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